117 / 157
第二十二話「三者三様の舞台」5
しおりを挟む
「後、気になるだろうから八重塚には先に伝えておく、被害に遇った生徒は、エリザだよ」
「フォーシスターズのですか?」
羽月はさらに驚きの表情を浮かべた。
エリザはクラスの中心人物の一人でもあり、今日の舞台にも当然立つ予定だった生徒だ。漆原先生が羽月にも分かりやすいよう愛称でその名を呼ぶのを聞き、羽月はすぐさまその重大さを理解した。
「あぁ、だからこそ、フォーシスターズの面々やそのクラスの中でも情報がすでに出回って混乱が続いている。
こういう事は情報を整理した上で伝えないと憶測が飛び交って余計に混乱を大きくしてしまうものだが、時すでに遅しといったところだな。
それで結果的に演劇の参加を辞退しなければならないのも当然の事態となっているわけだが、もう一つ問題があってな、こちらはまだ情報の確認を取ってる最中なのだが、リズが行方不明になっているらしい。
原因も詳細も分からないが、教師の間でもリズと連絡を取れないと聞いている」
「そんな、リズまで……。同じフォーシスターズのメンバーで行方不明者まで出ているなんて……。他のクラスのこととはいえ、同じ学園の生徒が……。これだけのことが起きている中、私たちは演劇を続けていいんでしょうか……?」
リズの行方不明に事件の関連性があると想像したくはなかったが、羽月はまずは自分たちの演劇をこのまま続けてよいのか心配だった。
「中止とするのが適切なことかもしれないが、観客も入る上に、再公演の日程を調整するのも簡単ではないだろう。今のところ2クラスでも開催予定だよ」
大々的な報道もまだ行われておらず、混乱を避けるために2クラスでの開催を予定しているのであろうと羽月は理解した。
同学園の生徒が被害に遇う事件が起きている中で開催するのは不謹慎ではあるが、開催するというのなら、生徒たちは前を向いて演劇に集中するしかない。羽月も驚いてばかりではいられなかった。
「それに、古典芸能研究部の委員長から自分たちの事は気にせず開催してほしいという話があった。彼もどうしてか耳が早いものだが、この発言が決定打になるわけではないが、このまま開催するのは現状をみて間違いないと思う」
漆原先生の話しを聞く限り、事態は大きく動き始めている。
情報整理をするための重大な話し合いが続きながら、気付けば二人は予定通りに会場へと辿り着いた。
*
現地の会場に到着し、バスで先に到着していたクラスメイト達を集めたところで漆原先生は重苦しい心情を隠しながら、何時になく言葉を選んで生徒達に古典芸能研究部の辞退を伝えた。
情報の拡散は控えるようにと漆原先生からの伝達もあり、生徒達に動揺が広がり、その場にいる生徒間での憶測も飛び交う中、スケジュールは大きく変更になり、様子見のために待機時間が多く取られる形となった。
羽月は先ほどの車内で内情を伝え聞いていたので、現実的な事情を鑑みてスケジュールの変更は理解できたが、そこにさまざまな都合があることを思うと複雑な心境だった。
「昨日の言い合い……、最近険悪だって分かる雰囲気だったけど、無関係なのかな……、でも興味本位で知ろうとするのはよくないよね……」
前日にフォーシスターズの言い合いをする姿を目撃していた知枝は複雑な心境だった。他クラスの事情に深入りすべきでないと自分に言い聞かせる。
映像研の舞台が昼の13時入場、13時15分開演の14時までということが会場側から発表され、演劇クラスは15時開場の15時15分開演となった。
当初の会場の貸し出し時間をも超過する大幅なスケジュール変更、それだけまだ開催に対して会場側、学園側共に慎重を要しざわついている部分が多いということだろうと羽月は心の内で思った。
報道メディアや警察関係者まで出入りするとなれば、演劇どころではないというのは正直なところで、慎重になるのも仕方のないということだろう。
何よりも羽月は犯人が捕まり、行方不明のリズが見つかる事やエリザの意識が戻り無事が確認されることを望んでいるが、自分ではどうすることも出来ないのが現実だった。
それからすぐに報道が解禁され、事件のことが伝えられた。
同じ学園で学ぶ生徒が通り魔による傷害事件の被害に遭った現実、被害者のエリザは未だ重体で、犯人も捕まっていないという。
会場を訪れている生徒達は不安に包まれ、心が沈んだ様子のままで、一方キャストは貸し出された会場内の控え室で事件の事を考えないように自主練習に励んだ。舞台に立つ以上、最善を尽くすのが彼らの役目だった。
「フォーシスターズのですか?」
羽月はさらに驚きの表情を浮かべた。
エリザはクラスの中心人物の一人でもあり、今日の舞台にも当然立つ予定だった生徒だ。漆原先生が羽月にも分かりやすいよう愛称でその名を呼ぶのを聞き、羽月はすぐさまその重大さを理解した。
「あぁ、だからこそ、フォーシスターズの面々やそのクラスの中でも情報がすでに出回って混乱が続いている。
こういう事は情報を整理した上で伝えないと憶測が飛び交って余計に混乱を大きくしてしまうものだが、時すでに遅しといったところだな。
それで結果的に演劇の参加を辞退しなければならないのも当然の事態となっているわけだが、もう一つ問題があってな、こちらはまだ情報の確認を取ってる最中なのだが、リズが行方不明になっているらしい。
原因も詳細も分からないが、教師の間でもリズと連絡を取れないと聞いている」
「そんな、リズまで……。同じフォーシスターズのメンバーで行方不明者まで出ているなんて……。他のクラスのこととはいえ、同じ学園の生徒が……。これだけのことが起きている中、私たちは演劇を続けていいんでしょうか……?」
リズの行方不明に事件の関連性があると想像したくはなかったが、羽月はまずは自分たちの演劇をこのまま続けてよいのか心配だった。
「中止とするのが適切なことかもしれないが、観客も入る上に、再公演の日程を調整するのも簡単ではないだろう。今のところ2クラスでも開催予定だよ」
大々的な報道もまだ行われておらず、混乱を避けるために2クラスでの開催を予定しているのであろうと羽月は理解した。
同学園の生徒が被害に遇う事件が起きている中で開催するのは不謹慎ではあるが、開催するというのなら、生徒たちは前を向いて演劇に集中するしかない。羽月も驚いてばかりではいられなかった。
「それに、古典芸能研究部の委員長から自分たちの事は気にせず開催してほしいという話があった。彼もどうしてか耳が早いものだが、この発言が決定打になるわけではないが、このまま開催するのは現状をみて間違いないと思う」
漆原先生の話しを聞く限り、事態は大きく動き始めている。
情報整理をするための重大な話し合いが続きながら、気付けば二人は予定通りに会場へと辿り着いた。
*
現地の会場に到着し、バスで先に到着していたクラスメイト達を集めたところで漆原先生は重苦しい心情を隠しながら、何時になく言葉を選んで生徒達に古典芸能研究部の辞退を伝えた。
情報の拡散は控えるようにと漆原先生からの伝達もあり、生徒達に動揺が広がり、その場にいる生徒間での憶測も飛び交う中、スケジュールは大きく変更になり、様子見のために待機時間が多く取られる形となった。
羽月は先ほどの車内で内情を伝え聞いていたので、現実的な事情を鑑みてスケジュールの変更は理解できたが、そこにさまざまな都合があることを思うと複雑な心境だった。
「昨日の言い合い……、最近険悪だって分かる雰囲気だったけど、無関係なのかな……、でも興味本位で知ろうとするのはよくないよね……」
前日にフォーシスターズの言い合いをする姿を目撃していた知枝は複雑な心境だった。他クラスの事情に深入りすべきでないと自分に言い聞かせる。
映像研の舞台が昼の13時入場、13時15分開演の14時までということが会場側から発表され、演劇クラスは15時開場の15時15分開演となった。
当初の会場の貸し出し時間をも超過する大幅なスケジュール変更、それだけまだ開催に対して会場側、学園側共に慎重を要しざわついている部分が多いということだろうと羽月は心の内で思った。
報道メディアや警察関係者まで出入りするとなれば、演劇どころではないというのは正直なところで、慎重になるのも仕方のないということだろう。
何よりも羽月は犯人が捕まり、行方不明のリズが見つかる事やエリザの意識が戻り無事が確認されることを望んでいるが、自分ではどうすることも出来ないのが現実だった。
それからすぐに報道が解禁され、事件のことが伝えられた。
同じ学園で学ぶ生徒が通り魔による傷害事件の被害に遭った現実、被害者のエリザは未だ重体で、犯人も捕まっていないという。
会場を訪れている生徒達は不安に包まれ、心が沈んだ様子のままで、一方キャストは貸し出された会場内の控え室で事件の事を考えないように自主練習に励んだ。舞台に立つ以上、最善を尽くすのが彼らの役目だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
”小説”震災のピアニスト
shiori
恋愛
これは想い合う二人が再会を果たし、ピアノコンクールの舞台を目指し立ち上がっていく、この世界でただ一つの愛の物語です
(作品紹介)
ピアニスト×震災×ラブロマンス
”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から”
高校生の若きピアニストである”佐藤隆之介”(さとうりゅうのすけ)と”四方晶子”(しほうあきこ)の二人を中心に描かれる切なくも繊細なラブストーリーです!
二人に巻き起こる”出会い”と”再会”と”別離”
震災の後遺症で声の出せなくなった四方晶子を支えようする佐藤隆之介
再会を経て、交流を深める二人は、ピアノコンクールの舞台へと向かっていく
一つ一つのエピソードに想いを込めた、小説として生まれ変わった”震災のピアニスト”の世界をお楽しみください!
*本作品は魔法使いと繋がる世界にて、劇中劇として紡がれた脚本を基に小説として大幅に加筆した形で再構成した現代小説です。
表紙イラスト:mia様
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる