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第十九話「黄昏に暮れる病室」1

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 私にも責任がある

 真奈ちゃんは私にとっても、大切な家族だから

 だから、いくら動揺しても、いくらそれが迷惑なことでも

 真奈ちゃんが苦しんでいるなら、私には真奈ちゃんのことを大切に守る責任がある

 それで二人の関係を壊してしまっても、それは、“仕方のないことでしょう”?





 ―――浩二と羽月が遊園地で楽しい時を過ごしていた頃、唯花は。


 昨日、真奈ちゃんが微熱を出していたことを思い出して私は昼食時に様子を見に行った。

「ちゃんとご飯食べてるといいけど……」

 体調崩したままだと食事も摂れていないかもと私は心配になっていた。
 樋坂家に入ると案の定お昼時になっても台所には誰もいなかった。

 私は異様な静けさに包まれた家の様子に違和感を覚えた。
 余計なお節介で済めばよかったが、恐らく私の心配は当たっている。

 予知能力があるわけではないが、はやる気持ちを押さえられず、手すりを掴み階段を急いで登っていく。自然と心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。


「―――真奈ちゃん!!」


 自分でも驚くくらいの大きな声を出して、真奈ちゃんの部屋に入った。

 そこにはベッドの中でびっしょりと汗を掻いて苦しそうにしている真奈ちゃんの姿があった。

 掛け布団は剥がされ、ぬいぐるみがカーペットの上に倒れている。
 私は心が痛みながら真奈ちゃんを慌てて起こした。


「大丈夫?! 真奈ちゃん?!」


 こんな苦悶の表情を浮かべる真奈ちゃんの姿を私は見たくなかった。
 いつも元気いっぱいで、色んな言葉で私たちを笑わせてくれて、元気づけてくれる、かけがえのない存在。
 それが私たちが支えて上げなければならない、真奈ちゃんなんだ。


「おねえちゃん……」


 目を覚ました真奈ちゃんは私のいる方に首を動かして、か細い声で一言そう言った。


「ごめんね、一人で苦しかったよね、大丈夫、私が付いてるからっっ!!」


 ベッドに駆け寄り、切実な状況に思わず悲痛な声を上げてしまう。
 感情が揺さぶられ、自然と涙が零れていた。


「だいじょうぶなの。おねえちゃん、泣かないで……」


 真奈ちゃんはか細い腕を伸ばして、そっとその小さな指で私の涙を拭ってくれる。

 まだ生まれて間もない頃から真奈ちゃんのことを見てきた私には、その優しさは心の奥深くにまで響くものだった。

 私は感極まって、その優しい気持ちをお返ししたくて真奈ちゃんの頭を撫でた。

「くすぐったいよ、おねえちゃん」

 心配させないように、明るく笑顔を浮かべた真奈ちゃん。その優しさに触れると余計に私は責任を強く感じた。

「汗でベッドも濡れちゃってるみたいだから、一旦私の家にいこっか?」

 私は真奈ちゃんは昨日から一日ずっとここで寝込んでいたのだろうと思い、心痛察するまま真奈ちゃんを抱きかかえて、自分の家に一旦連れていくことにした。

「ありがとう、おねえちゃん……」

 いつもの元気な声ではなかったが、おんぶした背中から真奈ちゃんの声を私は聞いた。

 ずっと部屋で我慢してきたことだろうと思うと、心が締め付けられるようだった。

「風邪はちゃんと静養して治さないとね。風邪は万病の元なんだから」
「うん、早く治して、おにぃを心配させないようにしなきゃ」

 真奈ちゃんは浩二に心配かけないように、苦しくても演技をしていたのかもしれない、そう思うとさらに私は複雑な心境になった。

「いいんだよ、私がそばにいるから。我慢しないで」

 私が声を掛けると真奈ちゃんは小さく「うん」と返事をして、私の背中に頭を預けた。

 まだ小さな身体の真奈ちゃんを背中に抱えて私の家へと向かう。
 体温の上がっている真奈ちゃんを背負い、私は慌てないように私の部屋まで向かった。

「おねえちゃんのベッド、いい香りがする」

 私の部屋まで真奈ちゃんを連れていき、私のベッドに寝かせると真奈ちゃんは安心したのか、そっと身体の力を抜いて、年相応の笑顔を浮かべた。

 私はすぐさまエアコンの電源を付け暖房をかけると、真奈ちゃんに布団を掛けた。

「真奈ちゃん、ちょっと我慢してね、濡れタオルと着替え持ってくるから」
「助けにきてくれてありがとう。おねえちゃんはなんでもおみとおしだね」

 枕に頭を載せてくれた真奈ちゃんを見て、私は自分の責任を果たせたようで少しだけ安心することが出来た。

「どうしたの、真奈ちゃん?」

 真奈ちゃんはこちらにじっと視線を送るのを見て、反射的に私は聞いた。

「”だいすき”」
「”私も、大好きだよ”」

 その会話一つで思わず感極まって涙が零れそうになるのをグッと堪えた。
 これ以上、真奈ちゃんを苦しめるわけにはいかない。

 言葉一つで元気と勇気をいっぱいくれる真奈ちゃんを守らなければならない、不在の浩二のためにも。
 
 私は今は自分に出来ることをしようと部屋を出て、濡れタオルと着替えを取りに急いだ。
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