魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~

shiori

文字の大きさ
上 下
91 / 157

第十八話「本当に大切なこと」2

しおりを挟む
 思い出を積み重ねながら四季は移ろいで行く。

 クリスマスもお正月もこれまでとは違い、浩二は羽月と過ごした。

 妹の真奈や幼馴染の唯花を大切に想い続けていても、羽月との時間を優先した。

 それだけ、恋人である羽月は大切な存在になった。
 
 冬の訪れ。寒い日が続いて、吐く息が白く染まって、分厚いコートを着込んで歩く人々が街に溢れて、すっかり季節は冬になったことを伝えてくれる。

 雪が降ると、誰よりも真奈ははしゃぎ回り、両手を広げて嬉しそうに駆け回っていた。

 三学期が始まって間もなく、羽月が誕生日を迎える日に二人は遊園地に行く約束をした。
 市外に出る機会にはなかなか恵まれなかったが、これを機会に遠出もいいだろうということになった。

 浩二は羽月からのクリスマスプレゼントである毛糸のマフラーを巻いて、誕生日プレゼントをデートの前日に買いに行った。

 羽月に似合うアクセサリーをと思って悩みながら手が届きそうなイヤリングを買って意気揚々と家に帰る。
 
 明日のことを考えると何もかもが楽しみで、寒さも気にならない。
 ただ、満たされた心地の中で、羽月の喜ぶ顔が見られるのが今から楽しみだった。

「おかえりなの、おにぃ」

 家に帰ってくると暖かさそうなセーターを着た真奈が迎えに来てくれる。

「おう、ただいま」

 浩二は真奈に会えた嬉しさのあまり両手で頬に触れた。

「うにゃ! おにぃ、やめー! それ、つめたいのにゃ!!」

 寒空から帰って来たばかりの浩二の手は冷たく、頬を触れられた真奈は嬉しそうにはしゃぎながら、つめたいつめたいと幼さの残る言葉をこぼした。

「真奈、ちゃんと休んでたか?」
 
 浩二は出かける前、真奈が微熱を出していたこともあり心配していた。

「あったかくして、おふとんにくるまってた」

 まだ目も充血していて、髪も乱れていて、パジャマ姿をしている真奈が本調子でないことは浩二にもすぐ分かった。

「お昼はまだか?」
「うん、ずっとお部屋にいてたのにゃ」
「じゃあ、元気付けるためにも、一緒に食べるか」

 そういって浩二は真奈をダイニングの連れていき座らせると、一緒に昼食を取ることにした。

 いつもほどの食欲も元気もない真奈が心配だったが、美味しそうに食べてくれたので、浩二は一安心した。

「おにぃ、プレゼント買ってきたの?」

 真奈は事前に羽月の誕生日ということで明日兄が出掛けていくことを聞いていた。
 それに、さっき帰ってきた浩二がとても嬉しそうにしていたことも真奈は見逃さなかった。
 きっと、明日のことが楽しみでたまらないのだと、それがすぐに分かった。

「おう、買ってきた、明日渡してくるよ」
「楽しみだね。きっとよろこんでくれる」
「うん、真奈にもお土産買ってくるよ」
「本当? 冬はやっぱり甘いチョコレートがいいのだ!」

 真奈は冬の場合はチョコレートが溶けないので、チョコレートを買ってくると喜ぶ。
 浩二は一人、家で待つ真奈が喜んでくれるのならと、お土産を買って帰ることに決めた。

 日々を過ごしながら、時が過ぎれば、恋人同士であることも受け入れられる。そういうものなのだろうと浩二はひっそりと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

”小説”震災のピアニスト

shiori
恋愛
これは想い合う二人が再会を果たし、ピアノコンクールの舞台を目指し立ち上がっていく、この世界でただ一つの愛の物語です (作品紹介) ピアニスト×震災×ラブロマンス ”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から” 高校生の若きピアニストである”佐藤隆之介”(さとうりゅうのすけ)と”四方晶子”(しほうあきこ)の二人を中心に描かれる切なくも繊細なラブストーリーです! 二人に巻き起こる”出会い”と”再会”と”別離” 震災の後遺症で声の出せなくなった四方晶子を支えようする佐藤隆之介 再会を経て、交流を深める二人は、ピアノコンクールの舞台へと向かっていく 一つ一つのエピソードに想いを込めた、小説として生まれ変わった”震災のピアニスト”の世界をお楽しみください! *本作品は魔法使いと繋がる世界にて、劇中劇として紡がれた脚本を基に小説として大幅に加筆した形で再構成した現代小説です。 表紙イラスト:mia様

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...