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第十六話「広いこの舞台の上で」6
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(どうして、私……、羽月さんと接続されてる)
胸が締め付けられるような、鋭い感覚。心臓の鼓動までリアルな感覚として聞こえてきて、それだけでこの情景が羽月さんにとって、とても大切な思い出の記憶であることがよくわかる。
魔法使いとしての私の持つ力の一つ、“人の記憶を覗き見る力”それは、人の記憶がアリスのアーカイヴに記録されるようになったことがきっかけで目覚めたものだと祖母は教えてくれた。
生体ネットワークの影響ともいわれる、心と心を繋ぐための回路。それは本人も知らない間に接続され自動で記憶を転送される。
私は近しい間柄の人が、アリスのアーカイヴに登録されていて、記憶が保存されていれば、生体ネットワークのリンクさえ繋いでいればそれを閲覧することが出来る。
新時代のために再構成されたアーカイブスシステム、それを知るものはごく少数だ。
アーカイブが記憶されていることを知るのにはいくつか条件があり、記憶を覗き見る本人に直接会うことも一つの条件だから、便利に利用できるものではない。
つまりは、記憶を覗き見れる相手は限定的であるということで、私はこの力を、あまり過信しすぎるのは危険だと考えている。
これはアリスの信託を受けた私だけの力だが、私自身がこの力を完全に制御できるわけではなく、私の意思とは関係なく無意識に求めてしまった記憶を取り込んで、覗き見てしまうこともある。
リンクが繋がれた羽月さんの記憶が情報として、処理速度の調整も効かないまま物凄い勢いで私の中に流れ込んでくる。
濁流となった川のように激しい勢いで流れてくる記憶に、頭痛を覚えた私は頭を抱えながら、それでもなんとか倒れまいと前を向こうとした。
ぼんやりとした視界の中で羽月さんが必死に声を掛けてくれている様子が見えたがどうすることもできない。
雑木林の中で羽月さんと二人きり、叫んでも助けは来ないだろう。そもそも叫ぶだけの気力も残っていない。
心配そうに見つめる制服姿の羽月さんが虚ろ眼に映り、残る力を使ってなんとか私は姿勢を保ち立ち上がろうと、ローファーを履いた足に力を込めて立ち上がった。
今、望んでいるわけではないのだからと、これ以上記憶を取り込まないように、流れを止めようと必死に抵抗する私の視界に思いもよらない人物が映った。
「あっ、樋坂くん……」
羽月さんの背後に映る樋坂君の姿を視認し、思わず助けを求めるように声が零れた。
「稗田さん!! こんなところにいたのか、リハーサルが始まるから早く!」
普段は見ない、真剣な眼差しでこちらに言葉を掛ける樋坂くんの姿がぼんやりと映る、でも、今来られたら、私は……。
「―――樋坂君、来ちゃダメ!! お願い、離れて!! 私を見ないでっ!!」
自分では制御できないほどに自らの力が解放されている恐怖心から、私は悲鳴を上げるように必死に叫んだ。今、樋坂君とまで接続してしまったら、私は……。
私はずっと樋坂君が親戚であり、両親の葬儀にも参席していたことを思い出して以来、樋坂君とこれ以上接続して記憶を見ないように、必死に自分を制御しようと自制して我慢してきたのだ……。
記憶を覗き見ることはとても恐ろしいことで、きっと、私自身が耐えられない事で、だから私は浩二君に叫んで懇願するしかなかった。
どくんどくんと、強く心臓が鼓動し、身体が急速に熱くなる。
「稗田さん、あなた」
何が起こっているのか分からず、驚いたような羽月さんの声が、曖昧な判断力の中で遠く聞こえた。
「やめて……、苦しい、入ってこないで……っっ!!」
身体が敏感になり、熱のこもった甘い吐息が零れていく。
私は私を制御できないまま、私ではない私の中に潜むものの意思によって支配されていく。
人の記憶を食い散らかすように、記憶を通じてその人を支配することに喜びを感じ、その興奮に身を焦がしていく。
人の記憶を吸収して、美味を食するように喜ぶ、根源的なアリスの持つ記憶を欲求する意思と欲望。
私は抑えきれない衝動を受け入れられず、その場に倒れた。
ようやく痛みが引いていく。
だけど、私の意識はそのまま溶けるように眠りの中へと落ちていく。
「稗田さん!! 稗田さん!!」
倒れかかる私の事を羽月さんが抱きかかえ、必死に声を掛けてくれているのが最後に分かった。
胸が締め付けられるような、鋭い感覚。心臓の鼓動までリアルな感覚として聞こえてきて、それだけでこの情景が羽月さんにとって、とても大切な思い出の記憶であることがよくわかる。
魔法使いとしての私の持つ力の一つ、“人の記憶を覗き見る力”それは、人の記憶がアリスのアーカイヴに記録されるようになったことがきっかけで目覚めたものだと祖母は教えてくれた。
生体ネットワークの影響ともいわれる、心と心を繋ぐための回路。それは本人も知らない間に接続され自動で記憶を転送される。
私は近しい間柄の人が、アリスのアーカイヴに登録されていて、記憶が保存されていれば、生体ネットワークのリンクさえ繋いでいればそれを閲覧することが出来る。
新時代のために再構成されたアーカイブスシステム、それを知るものはごく少数だ。
アーカイブが記憶されていることを知るのにはいくつか条件があり、記憶を覗き見る本人に直接会うことも一つの条件だから、便利に利用できるものではない。
つまりは、記憶を覗き見れる相手は限定的であるということで、私はこの力を、あまり過信しすぎるのは危険だと考えている。
これはアリスの信託を受けた私だけの力だが、私自身がこの力を完全に制御できるわけではなく、私の意思とは関係なく無意識に求めてしまった記憶を取り込んで、覗き見てしまうこともある。
リンクが繋がれた羽月さんの記憶が情報として、処理速度の調整も効かないまま物凄い勢いで私の中に流れ込んでくる。
濁流となった川のように激しい勢いで流れてくる記憶に、頭痛を覚えた私は頭を抱えながら、それでもなんとか倒れまいと前を向こうとした。
ぼんやりとした視界の中で羽月さんが必死に声を掛けてくれている様子が見えたがどうすることもできない。
雑木林の中で羽月さんと二人きり、叫んでも助けは来ないだろう。そもそも叫ぶだけの気力も残っていない。
心配そうに見つめる制服姿の羽月さんが虚ろ眼に映り、残る力を使ってなんとか私は姿勢を保ち立ち上がろうと、ローファーを履いた足に力を込めて立ち上がった。
今、望んでいるわけではないのだからと、これ以上記憶を取り込まないように、流れを止めようと必死に抵抗する私の視界に思いもよらない人物が映った。
「あっ、樋坂くん……」
羽月さんの背後に映る樋坂君の姿を視認し、思わず助けを求めるように声が零れた。
「稗田さん!! こんなところにいたのか、リハーサルが始まるから早く!」
普段は見ない、真剣な眼差しでこちらに言葉を掛ける樋坂くんの姿がぼんやりと映る、でも、今来られたら、私は……。
「―――樋坂君、来ちゃダメ!! お願い、離れて!! 私を見ないでっ!!」
自分では制御できないほどに自らの力が解放されている恐怖心から、私は悲鳴を上げるように必死に叫んだ。今、樋坂君とまで接続してしまったら、私は……。
私はずっと樋坂君が親戚であり、両親の葬儀にも参席していたことを思い出して以来、樋坂君とこれ以上接続して記憶を見ないように、必死に自分を制御しようと自制して我慢してきたのだ……。
記憶を覗き見ることはとても恐ろしいことで、きっと、私自身が耐えられない事で、だから私は浩二君に叫んで懇願するしかなかった。
どくんどくんと、強く心臓が鼓動し、身体が急速に熱くなる。
「稗田さん、あなた」
何が起こっているのか分からず、驚いたような羽月さんの声が、曖昧な判断力の中で遠く聞こえた。
「やめて……、苦しい、入ってこないで……っっ!!」
身体が敏感になり、熱のこもった甘い吐息が零れていく。
私は私を制御できないまま、私ではない私の中に潜むものの意思によって支配されていく。
人の記憶を食い散らかすように、記憶を通じてその人を支配することに喜びを感じ、その興奮に身を焦がしていく。
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私は抑えきれない衝動を受け入れられず、その場に倒れた。
ようやく痛みが引いていく。
だけど、私の意識はそのまま溶けるように眠りの中へと落ちていく。
「稗田さん!! 稗田さん!!」
倒れかかる私の事を羽月さんが抱きかかえ、必死に声を掛けてくれているのが最後に分かった。
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