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第十六話「広いこの舞台の上で」1
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演劇クラスの座を懸けた対決は、一ヵ月にも満たない短い準備期間を終えて、各クラスが集結して行われるリハーサルの日を迎えることとなった。
本番は明日、会場は学園近くにある本格的な設備の整った大きなホールで行われることが決まっているが、今日の全体リハーサルは学園の体育館を使って行われる。
各クラスの演劇が行われる舞台自体の広さは変わらないため、全体リハーサルの会場は体育館が選ばれた。
本番さながらの広々とした空間での舞台練習ができるのは、今日が最後ということもあり、各クラス本番を想定した通し練習が行われる予定で、他のクラスの実力を確認し合える場でもあった。
リハーサルの順番は最初に古典芸能研究部のフォーシスターズの面々が舞台に上がり、次に映像研究部、最後に八重塚羽月委員長率いる演劇クラスが舞台に上がりリハーサルすることになっている。
「本番でも時間配分は決まってるから、きっちり計算が合うように時間は図っておかないとね……」
本番中のセットの入れ替えなどの時間を含めた全体の時間配分の確認や、照明やBGMの最終確認も含め準備不足が否めない中で、今日行われるリハーサルの重要性を羽月は強く感じていた。
多くの注意書きがすでに手書きで追記された全体台本を手に、羽月は他のクラスメイトより一足先に教室を出て、体育館へ向かった。
今日は偶然にも祝日となっていて一般生徒は休みの日である。そのため部活で用事のある生徒以外は訪れることはなく、体育館にはリハーサルを目的とした生徒たちだけが集まっていた。
羽月は最初から他クラスの進行具合も確認するため、偵察のため体育館に出向くことを決めていて、体育館に到着すると、すでに先陣を切ってリハーサルを行う古典芸能研究部のセット設営が開始されていた。
立ち位置を確認し合ううら若き乙女たち、四人のフォーシスターズの面々の様子を見ながら、羽月は設営の邪魔にならないように後ろの方の席に座り、一人、気持ちを落ち着かせようと台本を眺めていた。
(……あっという間だったな、今日まで)
出来ることはやれるだけやったつもりだが、初めて経験することが多く、結果的に色んな人の知恵を借りることとなった。
(誰が欠けても、ここまで来れなかった……。今はここまで付いてきてくれたクラスメイトのみんなに感謝しよう)
羽月はここまで歩んで来られたことに感謝しながら、早くリハーサルに入りたい気持ちを抑え時間が過ぎるのを待った。
「やぁ、まだ朝早いのに、ご苦労様ですね」
羽月に話しかけてきたのは古典芸能研究部の部長でありクラス委員長である柊明人だった。
「あら、随分余裕なようね、私に話しかけてくれるだなんて」
お互いにここまでの苦労を感じ合いながらも牽制の意味を込めて羽月は委員長らしく愛想よく笑い掛けて見せた。
「そちらこそ、こんな所で油売ってないで、クラスに戻って練習しなくていいのですか?」
「生憎様、私がいなくても準備は進んでいますので、私はあなたのクラスの出来栄えを確認させてもらうわ」
羽月は相手の挑発に乗ることなく、軽口で返した。
「ほぉ、随分な自信がおありのようで、さすがは演劇クラスということですか。でしたらゆっくり見ていってください。
自慢のフォーシスターズの演技を、存分にね」
自信たっぷりな口調でそれだけを言って、柊明人は舞台の方に戻っていく。
「ふふふっ……、経験もないのに、過度な自信を抱いて視野の狭い管理をしていたら痛い目をみますよ」
羽月は小声で、誰にも聞こえないように本音を呟いた。
フォーシスターズのリハーサルが始まる頃には各クラスの生徒たちも体育館に入り、各々興味深くその様子を見ていた。
浩二は幼馴染同士で相席しており、光と知枝は神楽も加えて隣り合って座っている。それぞれ信頼し合う仲良し同士でリハーサルの様子を鑑賞するのだった。
(……今更、気にしても仕方ないけど、私って、やっぱりよそ者よね)
三年生になって初めてこの演劇クラスの面々と一緒になった羽月の隣にわざわざ仲良くしようと一緒に座る生徒はいなかった。すでに、クラスの中で関係が出来上がっている証拠と言える。
中には例外もあり、その最たるものとして黒沢研二がいるのだが、彼は有名人だけあって、彼のことに興味を持つ生徒が男子女子問わず集まっている。
本番で使われるホールよりは多少狭く、照明が明るく点灯したままフォーシスターズの四人の演技が繰り広げられる。
順調に稽古が進んでいると分かる息の合った四人の演技が繰り広げられ、十二分に熱量が感じられた。
見せ場となるシーンも含めてこれまでの練習の成果が目に見えて出ていた。
ライブパートとドラマパートに分かれた構成の演劇が40分ほど続き、拍手が鳴り響く中、フォーシスターズのリハーサルが終わった。
本番は明日、会場は学園近くにある本格的な設備の整った大きなホールで行われることが決まっているが、今日の全体リハーサルは学園の体育館を使って行われる。
各クラスの演劇が行われる舞台自体の広さは変わらないため、全体リハーサルの会場は体育館が選ばれた。
本番さながらの広々とした空間での舞台練習ができるのは、今日が最後ということもあり、各クラス本番を想定した通し練習が行われる予定で、他のクラスの実力を確認し合える場でもあった。
リハーサルの順番は最初に古典芸能研究部のフォーシスターズの面々が舞台に上がり、次に映像研究部、最後に八重塚羽月委員長率いる演劇クラスが舞台に上がりリハーサルすることになっている。
「本番でも時間配分は決まってるから、きっちり計算が合うように時間は図っておかないとね……」
本番中のセットの入れ替えなどの時間を含めた全体の時間配分の確認や、照明やBGMの最終確認も含め準備不足が否めない中で、今日行われるリハーサルの重要性を羽月は強く感じていた。
多くの注意書きがすでに手書きで追記された全体台本を手に、羽月は他のクラスメイトより一足先に教室を出て、体育館へ向かった。
今日は偶然にも祝日となっていて一般生徒は休みの日である。そのため部活で用事のある生徒以外は訪れることはなく、体育館にはリハーサルを目的とした生徒たちだけが集まっていた。
羽月は最初から他クラスの進行具合も確認するため、偵察のため体育館に出向くことを決めていて、体育館に到着すると、すでに先陣を切ってリハーサルを行う古典芸能研究部のセット設営が開始されていた。
立ち位置を確認し合ううら若き乙女たち、四人のフォーシスターズの面々の様子を見ながら、羽月は設営の邪魔にならないように後ろの方の席に座り、一人、気持ちを落ち着かせようと台本を眺めていた。
(……あっという間だったな、今日まで)
出来ることはやれるだけやったつもりだが、初めて経験することが多く、結果的に色んな人の知恵を借りることとなった。
(誰が欠けても、ここまで来れなかった……。今はここまで付いてきてくれたクラスメイトのみんなに感謝しよう)
羽月はここまで歩んで来られたことに感謝しながら、早くリハーサルに入りたい気持ちを抑え時間が過ぎるのを待った。
「やぁ、まだ朝早いのに、ご苦労様ですね」
羽月に話しかけてきたのは古典芸能研究部の部長でありクラス委員長である柊明人だった。
「あら、随分余裕なようね、私に話しかけてくれるだなんて」
お互いにここまでの苦労を感じ合いながらも牽制の意味を込めて羽月は委員長らしく愛想よく笑い掛けて見せた。
「そちらこそ、こんな所で油売ってないで、クラスに戻って練習しなくていいのですか?」
「生憎様、私がいなくても準備は進んでいますので、私はあなたのクラスの出来栄えを確認させてもらうわ」
羽月は相手の挑発に乗ることなく、軽口で返した。
「ほぉ、随分な自信がおありのようで、さすがは演劇クラスということですか。でしたらゆっくり見ていってください。
自慢のフォーシスターズの演技を、存分にね」
自信たっぷりな口調でそれだけを言って、柊明人は舞台の方に戻っていく。
「ふふふっ……、経験もないのに、過度な自信を抱いて視野の狭い管理をしていたら痛い目をみますよ」
羽月は小声で、誰にも聞こえないように本音を呟いた。
フォーシスターズのリハーサルが始まる頃には各クラスの生徒たちも体育館に入り、各々興味深くその様子を見ていた。
浩二は幼馴染同士で相席しており、光と知枝は神楽も加えて隣り合って座っている。それぞれ信頼し合う仲良し同士でリハーサルの様子を鑑賞するのだった。
(……今更、気にしても仕方ないけど、私って、やっぱりよそ者よね)
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中には例外もあり、その最たるものとして黒沢研二がいるのだが、彼は有名人だけあって、彼のことに興味を持つ生徒が男子女子問わず集まっている。
本番で使われるホールよりは多少狭く、照明が明るく点灯したままフォーシスターズの四人の演技が繰り広げられる。
順調に稽古が進んでいると分かる息の合った四人の演技が繰り広げられ、十二分に熱量が感じられた。
見せ場となるシーンも含めてこれまでの練習の成果が目に見えて出ていた。
ライブパートとドラマパートに分かれた構成の演劇が40分ほど続き、拍手が鳴り響く中、フォーシスターズのリハーサルが終わった。
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