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第十三話「映画館へいこう!」7

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 デザパラを出てからショッピングモールを三人で歩いて、気になったお店があると中に入っていく。

 光は行きつけの古本屋を、舞はキャラクターショップや雑貨屋さん、ランジェリーショップにまで入っていく自由さで、通りを歩いていくだけで楽しい時間は過ぎさっていく。

 陽が落ちる前に帰ることにした三人は再び駅まで戻り電車に乗り込む。
 行きの時と同じくまばらに乗客の乗った車内、あまり速度を出しているわけではないので、外の風景を見るのにもちょうどいい環境だった。

 舞は歩き疲れたのとはしゃぎすぎたからなのか、光の肩にもたれかかって、すぐにでもすやすやと眠りだしそうな様子だった。

「さっきの話しの続きになるけど」

 自動運転で走る電車の車内で、光は思い出したかのように知枝に話し始めた。

「女民国家ってアイディアは理解はできるし、凄く夢があると思うんだ。
 女性だけが子を宿し、子を産むことが出来るから、そういう国が出来るのは分かるのだけど、性のハラスメントの問題や、個人個人の平等さを考えたら、男性だけの国家の方が揉め事にはなりにくいのかもね」

「男性だけの国家というのは作品を見る上で夢がない気がして、だから創作の世界でも少ないのかなって思うんだよね。
 女民国家であることで資本主義的な思想とか生活手段としての観光立国に自然とシフトされていくっていうことも考えられるから、女民国家にしたところで、性のハラスメントの問題は解決しないってことかな?」

 この手の話しになると言葉の言い回しの難解さを感じながら、一日の疲れでぼんやりとしたまま光の話しに知枝は返事をした。
 実際に様々な問題点を抱えながらも、現代は男女平等が基本理念の中にある。
 平等とは何を持って平等と言えるのか、その理念を本質的に導き出すのは容易ではない。
 男性と女性、不平等を正すために現実的に行われている政策の多くは女性を優遇することで釣り合いを取らせるものが多い。
 それでは相互理解は進まないと考える知識人がいるのも当然のことだった。

「うん、本当に外交とか観光事業をしない、鎖国したやり方なら考えられるけど、砂漠に囲まれている時点で資源が潤沢とは思えないし、国民の数にもよるけど、生活は安定しないと思うんだよね。
 観光客を受け入れるとしたなら、国民を守るために法整備をして、多くの警備や照明を入れて、風当りをよくしないといけないから、それって、大変なことだと思うんだ。
 だから、結果的に快適な環境とは言えないんじゃないかなって思って」

 安全で快適な“風通しのいい理想的な社会形成”、ファンタジーとして捉えれば考えることから目を背くことだって出来ることだが、つい真剣に考えてしまう生真面目さが、二人の中に蔓延ってしまっていた。

 女性しかいない国家に男女を含めた観光客を受け入れるとなると、国民を守るためのルール作りや、それを守るための仕組みづくりは大変なものとなるだろう。

 人の欲望に身を任せれば、簡単に風俗営業が野放しにされ傷つく人が生まれることは、歴史が証明している。

 限られた資源と生活基盤を構築するための観光事業。
 理想と現実との乖離を感じさせる見方だった。


 
 考えれば考えるほど深みに落ちていく。光の話しも十分考慮して考えを巡らせなければならないのだろうと知枝は思った。

「世の中って難しいね」

 知枝は光の話しを聞いて、疲れた脳で思わず呟いた。
 自分の考えた物語が理想的な世界を描いたものではないということは読めばわかることだが、そこから純粋にストーリーを楽しむだけでなく、問題提起としての議論が発生することは想定をしている。

 だが、それは簡単に結論が導き出せるものではない。そういった思想性を持った創作としてもあることが、物語を考える上で大切なことでもあると、知枝は心の中で思っていた。

「そうだね、思い通りの世界を創り上げようとすると、それは多くの痛みを伴うことになるから」

 知枝は改めて思った。人間は革新的なことを成そうとすればするほど、“確実に揉める”
 そこから生まれる対立構造は、確実に社会として大きな影響を及ぼして、時に市民同士の分裂にも繋がってしまう。
 自分に関係がないことなら口出しはしないが、そうでないなら尚更だ。
 自分の考えや意見が取り入れてもらえなければ、それはやがて大きな内乱に発展するだろう。

 悲しいことだが、そういった革命を巡る紛争は歴史上数多くあり、そして多くの血が流れてしまう結果となってしまう。

 それが私たちの生きる世界だと言いたげな具合に。

「何か、しんみりしちゃったね、ごめんね」

 光は帰りの電車の中でまで真面目な話しが続いてしまったことを悔やんだ。

「ううん、私が言い出したことだから。世界って私たちが思っているより“ずっといい加減で、複雑なもの”だと思うから、考えたところで早々丸く収まる答えに辿り着けるものでもないよね」

 知枝は改めて思う。
 休日という日に、随分余計なことを話していたかもしれないと。
 でも、後悔はなかった。

 家に帰れば演劇の準備のためにまた本読みが始まる。今日の息抜きは三人で出掛けられるというだけで楽しいものであり、これからの練習のための活力にも変わると知枝は前向きに考えた。


「―――本番まで後、一週間しかないけど、私、頑張るね」


 疲れを見せず知枝ははっきりと光に言った。
 いつもの黒のワンピースに身を包んだ知枝の姿がようやく慣れ親しんだものとして光の目に映った。

「うん、その意気だよ」
 
 こうして帰る途中になって、舞台演劇まで残された一週間を頑張ると、そう笑顔で言葉にした知枝の姿が、光とこっそり聞き耳を立てていた舞の記憶の中に、印象深い情景として残った。
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