上 下
68 / 157

第十三話「映画館へいこう!」6

しおりを挟む
 目の前に置かれた可愛らしいケーキが次々と舞の胃袋に消えていく、凄い食欲を目の当たりにして、胃が持たれそうになりながら知枝は話を続けた。

「そういう環境で育ってきた主人公は成人となる一年前の15歳の時に思いきって冒険に出るの。この国では16歳から成人だからね。

 きっかけは、レジスタンス活動を続ける組織から逃れるためだけど、主人公は一年後の成人の時には自分の選ぶ性を決めなければならない、それは主人公が次期女王の立場であるから国の方針すらも左右することで、その大事な選択をどうするか考えるために、世界を巡って、どちらがこの国の取るべき選択なのかを真剣に考える旅に出る決意をしたの。

 そうして、色々と危機が迫る中、国外脱出した主人公は砂漠を歩いて隣国である国に辿り着くの。

 その国は主人公のいたシチリア国と違って、両性が当たり前に共存する国で、そこで主人公はその国の王女様と出会って、一緒に旅に出ることになるの」

「へぇ、一気に話が最後の方飛躍していったけど、面白そうだね」

 光はその出会いに運命的なものを感じながら聞いた。

「全部説明すると長くなっちゃうからね、さすがに端折るところは端折らせてもらったけど、大体そういう感じ。それで、旅の終わりに、世界の歴史が残されたサテライトって作品では呼んでる衛星からのデータを受信して、主人公と王女様は、誰も知らない過去の戦争の歴史や、これまでの人類の歩みを知って、男女による恋愛や婚姻の大切さを知りながら、惹かれ合っていくの」

「王道的なロマンス展開ねっ! そういうのが入ってくると、難しい話も読みやすくていいわね」

 鋭く舞が突っ込みを入れる。話しが飛びながらも、そういう部分にはつい、飛びついてしまうのは舞らしかった。

「舞は、今でも少女漫画好きだからね」
「それは、関係ないでしょっ!」
「うん、僕はいいと思うよ、舞らしくて」

 光は意地悪な笑みを浮かべながら、刺々しくなる舞のことを可愛がって見せた。

「あたしらしいって、はぁ……、妙に引っかかる言い方なのよね、それって」
「気にしすぎだって……」

 二人の会話のやり取りを聞いて、知枝は姉弟としての二人の仲の良さに微笑ましい気持ちになった。
 知枝は、一度呼吸を整えて、そこから最後の説明に入ることにした。

「そこから主人公は母国に戻って内乱を止めたり、未来のための選択を二人がしたり、本当に色々考えてるんだけど、入れたいシーンをどれもこれも描写しようとすると尺が取られて、どうしても凄い大作になっちゃうから、なかなか現実的じゃないのよね」

 知枝は考えるだけでは実行性がなくて、現実味がないと思いながら苦笑した。
 そんな知枝に光は共感して、現実性の足りない物語だと感じる知枝の力になりたいと思った。

「うんうん、面白そうで聞いて楽しかったよ。
 大変だと思うけど、お姉ちゃんの夢なら、ちょっと頑張ってみるのもいいかも」

「ちょっとではないでしょ、光ったら知枝には甘いんだから。
 実際に制作するとしたらかなり大変よ。
 テンポをよくしようと構成を整えたって、話しの繋がりをどう持たせるかとか、登場人物の見せ場とか、ちゃんと見せるものとして作り込まないといけないから、かなりの難産になるわよ」

 中途半端な出来になるのを危惧して舞がもっともな意見を言って、一旦説明は終わった。
 舞が満足いくまでケーキを食べ終わった頃には、ずいぶんと時間が経っていて、バイキングの時間も終わりを迎える時間だった。

「お姉ちゃん、また聞かせてよ。ちょっと小説に書いてみたりしても面白いかも」
「うん、また聞かせるね。色々創作するなら、一人よりみんなでする方がいいかなって思ってるから、機会があったらまた提案するかも」

 知枝と光の話しは店を出た後も尽きず、仲の良さを存分に表していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Jackdaw(s).

赤首山賊
ライト文芸
 謎の現象により体が入れ替わってしまった殺し屋の少女、ジャックとごく普通の女子高生、陽菜子。かくして裏と表の住人、反対の立場である二人の奇妙な交換生活が始まり、異なる日常に戸惑いつつも少しずつ適応していく。そんな折、過去に葬られた陰謀を巡って彼女達に魔の手が忍び寄る―――闇と光が交叉するアンダーグラウンド・アクション・スリラーここに開幕!

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

夢はお金で買えますか? ~とあるエンタメスクールの7カ月~

朝凪なつ
ライト文芸
東京メディアスクール。略してTMS。 アニメ、ゲーム、キャラクターデザイン、漫画、小説・シナリオ、声優のプロを育成する専門スクール。 一年で約100万円かかる二年制のスクールに夢を叶えるために通う生徒たち。 ・スクールに仕方なく就職した佐久間晧一(事務員、契約社員) ・ライトノベル作家を夢見る大学生の木崎彩(小説・シナリオ学科) ・声優を目指して入った会社員の高梨悠理(声優学科) ・イラストで食べていきたいと会社を辞めた河野いちか(キャラクターデザイン学科) スクールで働く者と、夢を目指して通う者たち。 様々な人とそれぞれの思いが交錯するスクールでの、それぞれの物語。 *+*+*+* 以前、別のペンネーム、『夢は甘いか、苦いか、しょっぱいか』というタイトルでWeb連載した作品を 改題、本文修正して投稿しております。

海辺にて君を待つ

鈴咲絢音
ライト文芸
舞台は100年後の地球。そこは温暖化が進み徐々に陸地が減少していた。海域が増えると同時に、水中に適した新たな人類『魚人』が発見される。 そんな世界で性自認に悩む十四歳の少女と母を探す魚人の少女が出会う。魚人の母親を探す為に彼女達は共に陸地を目指す事になる。 短い旅の中で様々な出会いやトラブルを乗り越え、心を通わし成長する少女達の物語。

おにぎりが結ぶもの ~ポジティブ店主とネガティブ娘~

花梨
ライト文芸
ある日突然、夫と離婚してでもおにぎり屋を開業すると言い出した母の朋子。娘の由加も付き合わされて、しぶしぶおにぎり屋「結」をオープンすることに。思いのほか繁盛したおにぎり屋さんには、ワケありのお客さんが来店したり、人生を考えるきっかけになったり……。おいしいおにぎりと底抜けに明るい店主が、お客さんと人生に悩むネガティブ娘を素敵な未来へ導きます。

同じ星を目指して歩いてる

井川林檎
ライト文芸
☆第三回ライト文芸大賞 奨励賞☆ 梟荘に集まった、年も事情も違う女子三名。 ほんの一時の寄せ集め家族は、それぞれ低迷した時期を過ごしていた。 辛さを抱えているけれど、不思議に温かでどこか楽しい。 後から思い返せばきっと、お祭りのような特殊な時期となる。 永遠に変わらないものなんて、きっとない。 ※表紙画像:ぱくたそ無料素材を借用

僕とコウ

三原みぱぱ
ライト文芸
大学時代の友人のコウとの思い出を大学入学から卒業、それからを僕の目線で語ろうと思う。 毎日が楽しかったあの頃を振り返る。 悲しいこともあったけどすべてが輝いていたように思える。

処理中です...