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第十三話「映画館へいこう!」5

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 映し出された映像は、四方を砂漠に囲まれたオアシスのような都市で、砂煙すなけむりが描写されながら画面は徐々にクローズアップされていき、中世期にあるような宮殿の様子が映し出された。

 舞と光が画面を凝視する姿を確認して、知枝は話す内容を頭の中で整理してじっくりと説明を開始した。

「タイトルは“ジェンダーフリースクリプト”、ジャンルは“冒険ファンタジー”で、時代設定は中世や近代にも見えるけど、実際のところは後々明らかになるけど、遠い未来、核戦争や宇宙開発があった遥か先の未来で、破壊と再生、復興が繰り返された後の世界なの。

 これ自体はあまり珍しい設定ではないと思うけど、一番のポイントは、主人公が生まれ育ってきた、物語のはじまりの舞台となるシチリア国は“”で女性だけが生活している国っていうところかな」

 スライド上になった参考資料を見せながら、プレゼンテーションの要領で知枝は一つ一つ説明していく。

「へぇ、じゃあ、かなりファンタジー寄りの作品ってことかな。突如現代人が入ってくる異世界転生ものでもなく、文明は過去に巻き戻りながらも純正に遠い未来のお話って感じかな」

「うん、そうだね。突拍子のない超能力やSF設定はない感じでその方が主人公が特別過ぎなくて、見やすいかなって。
 私、あんまり主人公中心に回る世界観って想像できなくて。
 もちろん、主人公の視点で物語は進むし、主人公の選ぶ選択が全体の物語のキーにはなってくるけど、チートみたいなのはなしにしたいなって」

 知枝は複雑な設定の説明に四苦八苦しながらも出来るだけ分かりやすいよう話した。

「なんとなくそれは賛成ね。リアリティーが足りないと、状況とか環境とか軽く見えちゃうから、普通に登場人物達がそれぞれの立場で奮闘して成長していくお話の方があたしは好きかな」

 舞も興味深そうに説明を聞き、知枝の考えには賛同するようで、知枝は少し胸が熱くなりながら次の説明に移ることにした。

「主人公は王家の人間で、王家の人間にもかかわらず異端視されてる男性として誕生するの。
 もちろんその事実は混乱を恐れて国民には隠されていて、普段は女装してみんなと同じように暮らしているのだけど。

 この国ではゲノム解析研究が進み遺伝子操作され続けていて、誕生する子どもの約99、7%が女性で男性であることが判明した時点で出産が取り消されることが決まっていて、その子供は流産させられるように制度上なってるの。

 それがシチリア国の中では公平かつ平等で、波風立たない制度であるということね。

 自分の卵子だけを提供して子どもを作る人もいれば、バンク済みの多数の精子の中から選択してから受精させて自分のお腹で育てて出産する人もいる。そこは個人の価値観によって違うのだけど、王子である主人公は成人するまでに自分の性を選ばなければならない立場にあって、その選択を強いられているの。

 王家の血筋として、死を免れた主人公のそれが使命であり責務だった」
 
 知枝が説明する複雑な事情が入り組んだ設定を光も舞も感心しながら聞いた。

「主人公の境遇が特殊なんだね。主人公が男性とわかっても出産され、育てられることになったのも、思惑あってのことなのかな……」

「うん、そこは半々なのかなと思ってる。
 国自体の政治や仕組みづくりを女王が仕切っていて、女王のお腹で育てた子どもが主人公だから、国民もそれを知っていて、なかなか出産しない選択も取りづらかったっていう部分もあるのかなって考えてる。

 後で説明しようと思ったけど、男性出産を認めようするレジスタンス活動をしている組織も国内にあるから、レジスタンス活動がより活発化する火種になることを女王が恐れていたとか、そういう風にも想像できるようには作ろうかなと思ってるの」

 女王の“思惑”や“願望”も入っているというのは、主人公にとっては酷なことだけど、そういった主人公が厳しい境遇だからこそ物語が盛り上がる側面もあると、光と舞も理解を示した。

「そっか、そう考えると僕らの世界とは違うから難解だけど、確かに納得できて腑に落ちるね。お姉ちゃんさすが、考えてるね……」

「いやいや……、これくらいは考えておかないと、すぐ組み立てた設定が浅いって言われて破綻しちゃうから……」

 光に褒められて知枝はつい上機嫌な気分になった。
 一度、ダージリンティーを口に含んで喉を潤して、そのハーブの香りまで楽しんでから、知枝は次の映像を流しながら説明に入った。

 光はすでにお腹いっぱいのようで、知枝の用意した映像に意識を集中させて、釘付けになりながら話に耳を傾けた。

 一方、舞はというと、ファミリアで胃袋も運動量も鍛えているからか、他二人よりも元を取る勢いで食べる性分で、イチゴのムースケーキを頬張りながら、そばにチョコレートケーキも置きつつ、続きの話に耳を傾けた。
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