上 下
64 / 157

第十三話「映画館へいこう!」2

しおりを挟む
 水原の家を出た三つ子の三人は和やかな空気でモノレールに乗って市内部にある繁華街まで出掛けた。

 初めて来る知枝の為に一歩前に出て舞は駅を出た。休日ということもあり昼前から賑わいを見せるスクランブル交差点の前で舞は口を開いた。

「ここって、昼間は明るく賑わっていていいけど、夜になるとちょっと怖いわよね」

「そうかもね、外国人も多いから、異文化が混じってちょっと居づらい空気もあるかも」

「自動翻訳を付ける人もいればそうでない人もいるから、そういうのはあるかな。今時、昼夜関係なく煌びやかで賑やかなのが問題かも、裏路地に入ったら飲み屋や風俗店ばっかりだし」

 中華街と入り混じるように一体になっている、飲み屋街や風俗街は、裏路地に入れば入るほど、道も狭く見晴らしも悪いため、なかなか怖くて一人では来にくい場所となっている。

「あまり普段見かけないような人もたくさんいるから、住宅街や学園地区より長居しづらいね」

 知枝はガラの悪い人とはっきり言えなかったが、周囲を歩く人々を見てぼかして口にした。この舞原市が復興して以来、こうした街が形成されていった歴史を知枝はぼんやりと考えていた。

 復興計画が進む中、急速に拡大する形で同時に発展してきた繁華街。広い道路や見晴らしのいい交差点が広がっていればいいが、この繁華街の人々のスタンスはどうもそういう方向には向かないらしい。

 中華街をイメージして作り上げられた景観は中心的に資産を投入してきた資産家の人々と、それに乗っかっていった人々の総合的な結果と言える。

 街づくりにおけるグランドデザインはあっても様々な企業や地主の事情が絡んでくることで、次第に初期の頃に掲げられた理想的な外観は形骸化けいがいかされていくものと考えることもできるだろう。

 街の規模が大きくなって独自色が色濃く散見されるようになればなるほど、この結果の意図を勘ぐって深く考えてしまうのが人間の悪い癖でもある。
 目的や思惑、悪影響が発露し始めると途端に人は責任者探しを始め、今まで興味も持たなかった人まで急に勢力関係や歴史まで分析して、問題点を洗い出し始める。
 無関係な人であればあるほど、見当違いなところに着目を置くこともよくあることである。

(……ここには少なからず、私のことをよく思っていない人が住んでいる。そのこととちゃんと向き合わなければ、いつか、誰かにも迷惑をかけて傷つけてしまうことになる)

 知枝にとっての幸い、それは周りの人が幸福であり続けることに他ならない。

 だが、知枝に対して不満を持つもの、敵対する者がいないと思いたい気持ちがある一方で、実際にはホテルでの襲撃騒動があった。

 あの事件以来、この街にやってきて災難に出くわしてはいないが、相手もこのまま大人しくしてくれるという保証はどこにもないだろう。

 相互理解が進んでいない以上、いずれまた、対峙しなければならない機会が訪れる、知枝はそんな予感がしていた。

 祖母が復興をけん引した街で、知枝は何らかの形で問題点を洗い出し、出来る限りのことを尽くして解決しなければならない。今はまだ方法は分からなくても、そのことを忘れてはならないと改めて思うのだった。
しおりを挟む

処理中です...