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第十一話「唯花と研二」2
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「おはようございます」
その時、いきなりガチャリと控室に入って来た人物は唯花に向けて挨拶した。
急に挨拶をされた唯花は振り返り、声のした方に視線を向けた。
「お、おはようございます」
反射的に唯花は挨拶を返した。椅子に座っていたのですぐに顔までは見えなかった。
背の高い、達也と同じくらいはあるだろうか。不思議なオーラを感じる、人気のある俳優だけあってスタイルが良く容姿端麗さは言うまでもない。彼が今日の仕事と共にする主演男優に違いなかった。
唯花にとっての初主演作品だからこそ、重要であり緊張もしていた。
だが、唯花は相手の驚くべき正体に気付いていなかった。
唯花は椅子から立ち上がって再び失礼のないようにお辞儀をしたが、目の前にある相手の顔を見て、それがクラスメイトであることに気付いた。
(黒沢研二、どうして、気付かなかったの、私ってば……。彼はクラスメイトで、この姿を見られていい相手ではないのに……)
失念していた、チェックをしっかりしていれば前もって気付いていたことだろう。
唯花の鼓動が一気に加速する。彼はまだ唯花が”バーチャルアイドル”であるということを知らない。
「……今日の主演女優の天海聖華さんですね。実物もお綺麗なんですね」
そう言葉にするのが礼儀とばかりに唯花のずっと使用してきたもう一つの名前で呼び、研二は唯花に挨拶をした。
相手がクラスメイトであることに、それを今日まで気付かなかった自分に唯花は動揺し、目がキャロキョロと泳いでいた。
「すみません、突然声を掛けてしまって、緊張させてしまいましたか」
落ち着いた声でそう話す研二、その視線は心の奥底にあるものまで見通しているかのような深みのあるもので、唯花の動揺は、さらに加速度的に大きいものとなった。
「いえ、わざわざありがとうございます。まだこの業界に慣れていないもので、憧れの役者様とお会いして、思わず緊張してしまいました。今日は、よろしくお願いいたします」
唯花はなんとか正体を悟られないよう、気持ちを落ち着かせて、お辞儀をしながら返事をした。
(彼の美貌にやられる人は多いというけど、これだけのイケメンとなると、日本人の女性ファンが多いのも当然か……)
接客業をしているおかげもあり、ファンのように緊張して委縮して話せなくなるということは唯花にはないが、2枚目のその整った表情と、人を惹きつける声で緊張が滲み出てしまっていた。
(なんとか、気付かれないように、今日を乗り切らないと……)
VR空間に入ってしまえば、そこまで意識することはないだろうけど、この場ではそうはいかない。
早くこの時間が過ぎてくれればいいと思うのが、唯花の本音だった。
挨拶の後、別れ際、そっと研二は唯花の耳元まで近づき、囁くように言葉を掛けた。
(いつものようにしてくれていいよ。今日のことは誰にも話したりはしないからさ)
低く甘い声で、そう悪魔の囁きのように告げる研二。普通の人であれば惚れ込むような囁き声だったが、唯花にとっては身震いするほどに恐ろしいものだった。
言葉の意味を読み解けば、唯花をゾクゾクとした強い威圧感で凍り付かせるほどに、それは恐怖を植え付けるには十分な言葉だった。
(もう、私の正体バレてる……っ、自分がクラスメイトだっていうこと、永弥音唯花だっていうことも、全部……)
唯花はもう正体を隠すための演技も、その意味ごとなくなってしまった。
言い返す言葉もなく、彼に対する恐怖で唯花は頭がいっぱいになった。
この人が言葉通りの善人であればいいのにと、そう願うことしかできない。
頼れるスタッフもこの場にはいないため、自分を助けてくれるような人もいない。それは唯花を不安にさせるには十分効果のあるものだった。
何事もなかったかのように先に撮影場所へと向かう研二。唯花は落ち着きのない心境のまま、研二を追って控え室を退出した。
その時、いきなりガチャリと控室に入って来た人物は唯花に向けて挨拶した。
急に挨拶をされた唯花は振り返り、声のした方に視線を向けた。
「お、おはようございます」
反射的に唯花は挨拶を返した。椅子に座っていたのですぐに顔までは見えなかった。
背の高い、達也と同じくらいはあるだろうか。不思議なオーラを感じる、人気のある俳優だけあってスタイルが良く容姿端麗さは言うまでもない。彼が今日の仕事と共にする主演男優に違いなかった。
唯花にとっての初主演作品だからこそ、重要であり緊張もしていた。
だが、唯花は相手の驚くべき正体に気付いていなかった。
唯花は椅子から立ち上がって再び失礼のないようにお辞儀をしたが、目の前にある相手の顔を見て、それがクラスメイトであることに気付いた。
(黒沢研二、どうして、気付かなかったの、私ってば……。彼はクラスメイトで、この姿を見られていい相手ではないのに……)
失念していた、チェックをしっかりしていれば前もって気付いていたことだろう。
唯花の鼓動が一気に加速する。彼はまだ唯花が”バーチャルアイドル”であるということを知らない。
「……今日の主演女優の天海聖華さんですね。実物もお綺麗なんですね」
そう言葉にするのが礼儀とばかりに唯花のずっと使用してきたもう一つの名前で呼び、研二は唯花に挨拶をした。
相手がクラスメイトであることに、それを今日まで気付かなかった自分に唯花は動揺し、目がキャロキョロと泳いでいた。
「すみません、突然声を掛けてしまって、緊張させてしまいましたか」
落ち着いた声でそう話す研二、その視線は心の奥底にあるものまで見通しているかのような深みのあるもので、唯花の動揺は、さらに加速度的に大きいものとなった。
「いえ、わざわざありがとうございます。まだこの業界に慣れていないもので、憧れの役者様とお会いして、思わず緊張してしまいました。今日は、よろしくお願いいたします」
唯花はなんとか正体を悟られないよう、気持ちを落ち着かせて、お辞儀をしながら返事をした。
(彼の美貌にやられる人は多いというけど、これだけのイケメンとなると、日本人の女性ファンが多いのも当然か……)
接客業をしているおかげもあり、ファンのように緊張して委縮して話せなくなるということは唯花にはないが、2枚目のその整った表情と、人を惹きつける声で緊張が滲み出てしまっていた。
(なんとか、気付かれないように、今日を乗り切らないと……)
VR空間に入ってしまえば、そこまで意識することはないだろうけど、この場ではそうはいかない。
早くこの時間が過ぎてくれればいいと思うのが、唯花の本音だった。
挨拶の後、別れ際、そっと研二は唯花の耳元まで近づき、囁くように言葉を掛けた。
(いつものようにしてくれていいよ。今日のことは誰にも話したりはしないからさ)
低く甘い声で、そう悪魔の囁きのように告げる研二。普通の人であれば惚れ込むような囁き声だったが、唯花にとっては身震いするほどに恐ろしいものだった。
言葉の意味を読み解けば、唯花をゾクゾクとした強い威圧感で凍り付かせるほどに、それは恐怖を植え付けるには十分な言葉だった。
(もう、私の正体バレてる……っ、自分がクラスメイトだっていうこと、永弥音唯花だっていうことも、全部……)
唯花はもう正体を隠すための演技も、その意味ごとなくなってしまった。
言い返す言葉もなく、彼に対する恐怖で唯花は頭がいっぱいになった。
この人が言葉通りの善人であればいいのにと、そう願うことしかできない。
頼れるスタッフもこの場にはいないため、自分を助けてくれるような人もいない。それは唯花を不安にさせるには十分効果のあるものだった。
何事もなかったかのように先に撮影場所へと向かう研二。唯花は落ち着きのない心境のまま、研二を追って控え室を退出した。
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