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第十話「ピアニストの階段」1

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 部長である八重塚羽月さんが脚本を手掛けた演目”震災のピアニスト”
 主人公である四方晶子役を演じることになった私、稗田知枝は今日の部活会議で頂いた台本を手に、そそくさと水原家へと帰宅した。
 
 部活会議の時に羽月さんから頂いた台本を大事に抱えて部屋に籠った私は練習を開始することにしたのだが……。
 
「分厚いなぁ……、本当にこれを私がするのか……」

 脚本を頂いた時点で、緊張で震え上がるほどだったけど、台本は控えめにいってかなり分厚い。

 とりあえず音読してみるが、本当に台詞を読み間違えずに演技までできる自信はまるでなく、弱気になってしまう。

「本番では、これ全部丸暗記して、演技もしないといけないなんて、前途多難過ぎるよ……っ」

 代わってくれる人がいるなら代わってほしいと率直に思ってしまうほどに、私のセリフばかりがページを開いても開いてもある。

 私は心底、悲鳴を上げながら流れのままに大変なことを引き受けてしまったと実感していた。
 演技初心者の私からすれば他の役でも大変なのに、主演を任されることになるなんて、未だ信じられない……。
 こんな私からすれば、必要な知識やスキルは山ほどあることだろう。

 タイムテーブルを見ると想定時間が40分もある分厚い台本を手に持つ私はとても憂鬱だった。

 一番スポットライトを浴びることになるのが私だなんて、夢であってほしいと切に願うのだけど……、これって現実なのよね。

 たびたび解釈や演技に迷って詰まりところは出てくるだろうから、その都度メモを取って質問していくしかない。

「頑張らなきゃ……、みんなの期待を、想いを私が一心に背負ってるんだから」

 私は少しでも前に進んでいけるようにと、本読みを続けた。
 台本の中に描かれている四方晶子の気持ちに向き合いながら。

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