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第九話「愛に変わった日~陽が落ちる前に~」4
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「会いに来たんだろう、そんなに不思議か?」
みんなと会ってきた樋坂君は、騒ぎが起きる前に戻ったかのようだった。
「ううん、嬉しい、本当は会いたかったから」
ツンケンしていた頃の私からは考えられないくらい、素直な気持ちが溢れてくる、でも樋坂君はそんな私に優しくしてくれる。
「そっか、じゃあ、来てよかった。これ、持ってきたから、一緒に祝おうぜ」
そう言って樋坂君はラムネの瓶を見せて、私に手渡してくれた。
ラムネの瓶は冷えていて、手に持つと手が冷たくて、頬に当てるとビックリするくらい気持ちよかった。
「ありがとう。ねぇ、せっかくだから、屋上行こっか?」
私は手に持った屋上への鍵を見せながら言った。
「屋上に今から? そういえば屋上の鍵、持ってるって前に言ってたっけ」
ある時、私が屋上の鍵を持っていると話したことを樋坂君は覚えていたようだ。
一人になりたい時、仕事に疲れてゆっくりしたいとき、外の空気が吸いたくなった時に私は屋上に行って一休みしている。
時々、何やら煙を吐き出しながら一服している漆原先生を見かけることもあるが、そのことは先生と二人の内緒事になっている。
屋上の鍵は生徒会長と最後に会った時、お別れの挨拶を一方的にされた時に手渡された物だった。
(最後まで、格好付けな人だったな……、好きにはなれなかったけど……)
少し懐かしい思い出になっている、自分が”過去”だとそのことを思えば、人は簡単に自分の記憶を奥にしまってしまえる生き物だ。
人気者だった会長の喪失を、私は学園祭というイベントを通じてようやく受け入れることができた気がした。
「さぁ、行きましょう、夢が醒めてしまう前に」
もうすぐ、学園祭というお祭りが終わってしまう、今の時間を恋しく思う自分には、まだ物足りなさが残っていた。
―――だから。
私は立ち上がって、勇気を出して樋坂君を急かす。
このお祭りが終わってしまう寂しさを忘れたくて。
「事務処理してたんじゃなかったのか?」
「もう、終わったから。正確には、後に出来ることを、気持ちが落ち着かなくってやっていただけだから」
気持ちが落ち着かないのはあなたのせいとは言えなかったけど、私が微笑み交じりにそう言うと、樋坂君は不思議そうに笑っていた。
きっと私のことを見て変な奴だって思ってる。確かにそうだけど、フリフリのスカートまでして、慣れない格好をしているせいで気持ちが舞い上がってしまっていてどうにも落ち着かない。そんな心情が、樋坂君にも透けて見えていることだろう。
夕陽が差す中、運動場に集まる生徒達と片付けを始める校舎の中の生徒達を無視して、私たちは生徒たちから隠れるように、二人寄り添い階段を上り、他の生徒に見つからないよう慎重に屋上への扉を開いた。
みんなと会ってきた樋坂君は、騒ぎが起きる前に戻ったかのようだった。
「ううん、嬉しい、本当は会いたかったから」
ツンケンしていた頃の私からは考えられないくらい、素直な気持ちが溢れてくる、でも樋坂君はそんな私に優しくしてくれる。
「そっか、じゃあ、来てよかった。これ、持ってきたから、一緒に祝おうぜ」
そう言って樋坂君はラムネの瓶を見せて、私に手渡してくれた。
ラムネの瓶は冷えていて、手に持つと手が冷たくて、頬に当てるとビックリするくらい気持ちよかった。
「ありがとう。ねぇ、せっかくだから、屋上行こっか?」
私は手に持った屋上への鍵を見せながら言った。
「屋上に今から? そういえば屋上の鍵、持ってるって前に言ってたっけ」
ある時、私が屋上の鍵を持っていると話したことを樋坂君は覚えていたようだ。
一人になりたい時、仕事に疲れてゆっくりしたいとき、外の空気が吸いたくなった時に私は屋上に行って一休みしている。
時々、何やら煙を吐き出しながら一服している漆原先生を見かけることもあるが、そのことは先生と二人の内緒事になっている。
屋上の鍵は生徒会長と最後に会った時、お別れの挨拶を一方的にされた時に手渡された物だった。
(最後まで、格好付けな人だったな……、好きにはなれなかったけど……)
少し懐かしい思い出になっている、自分が”過去”だとそのことを思えば、人は簡単に自分の記憶を奥にしまってしまえる生き物だ。
人気者だった会長の喪失を、私は学園祭というイベントを通じてようやく受け入れることができた気がした。
「さぁ、行きましょう、夢が醒めてしまう前に」
もうすぐ、学園祭というお祭りが終わってしまう、今の時間を恋しく思う自分には、まだ物足りなさが残っていた。
―――だから。
私は立ち上がって、勇気を出して樋坂君を急かす。
このお祭りが終わってしまう寂しさを忘れたくて。
「事務処理してたんじゃなかったのか?」
「もう、終わったから。正確には、後に出来ることを、気持ちが落ち着かなくってやっていただけだから」
気持ちが落ち着かないのはあなたのせいとは言えなかったけど、私が微笑み交じりにそう言うと、樋坂君は不思議そうに笑っていた。
きっと私のことを見て変な奴だって思ってる。確かにそうだけど、フリフリのスカートまでして、慣れない格好をしているせいで気持ちが舞い上がってしまっていてどうにも落ち着かない。そんな心情が、樋坂君にも透けて見えていることだろう。
夕陽が差す中、運動場に集まる生徒達と片付けを始める校舎の中の生徒達を無視して、私たちは生徒たちから隠れるように、二人寄り添い階段を上り、他の生徒に見つからないよう慎重に屋上への扉を開いた。
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