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第八話「愛に変わった日~救世主の再臨~」8
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視界が開けたところで、少女は樋坂君をその場にそっと仰向けにして横たわられた。
この細い体で軽々と樋坂君を持ち上げて、どこにそんな力があったのかと突っ込みたかったが、今は樋坂君の容体の方が心配でならなかった。
出血は酷く、止まる様子はない、このままにしていればやがて息絶えてしまうだろう。
「樋坂君っっ!!!」
私は、もう自分が負っている傷の痛みなど忘れるほどに、血に塗れた樋坂君の心配で頭がいっぱいになった。
駆け寄って容体を確認するが、すでに意識はなく、わずかに心臓の鼓動を繰り返すだけだった。止めどなく流れ落ちる血液が、私の手にもべっとりと付着する。
目を閉じたまま、顔が青ざめていく樋坂君の姿は見たくはなかった。
「そんな!! 樋坂君、私のせいで、こんな……」
「あなたのせいじゃありませんよ、それに、まだ大丈夫です。息があります」
傷の深さに半狂乱に陥りそうになる私を落ち着かせるように、少女は私に言った。
そのエメラルドのように緑色に輝きを帯びた澄んだ瞳は、真剣そのもので、悲しみも何もなく、本気で“助けられる”と、そう本気で言っているようだった。
「大丈夫って、樋坂君、こんな大けがを負ってるのに、今から救急車を呼んだところで間に合うかどうか……」
「安心してください、”綾芽の力は本物です”」
はっきりとそう言葉にすると、少女は傷口に両手をかざして、目を閉じ祈り始めた。
私は一体これから何が始まるのか、何もわからぬまま、ただ少女の言葉を信じ、樋坂君の身体を離れてその様子を見守った。
少女の両手の先から緑色に光輝く眩しい光が灯る。
その瞬間、風が止み、突如にして静寂に包まれるような感覚を覚えた。
少女の両手から灯された熱を帯びたその光は、樋坂君の身体に吸い込まれていくように、傷口から流れ出す出血を止め、傷口を徐々に塞いでいく。
この世のものとは思えない、信じられない現象を、私は目の当たりにした。
現代医学をも遥かに凌駕した衝撃的な光景を前に、開いた口が塞がらないほどに私は驚き言葉を失った。
一体、何が起こっているのか、先ほどの樋坂君を持ち上げた怪力といい、この少女は一体何者なのか、ありえない事の連続で驚くほかなかった。
三十秒ほど治癒の祈りは続いて、私は、ただその様子を見守るだけだった。
「とりあえず、応急処置はさせていただきました、後は、ゆっくり保健室で休ませてあげてください」
何の説明もないままそれだけを伝えるため、言葉を掛けてくれる少女。治療に集中したためか、額から汗を流している。
この超能力じみた治療行為に一体何のからくりがあるのかまるで分からない、でも樋坂君の鼓動は穏やかなものになり、傷口もすっかり塞がっていた。
「一体、何が起こったの……」
私は全く思考が追い付いていかないまま、呟いた。
「治癒魔法です、医療技術の発展した現代では、あまり大したことではありませんが、こういう急を要する現場では役に立ちます」
そういわれても、私は目の前で起きた現象があまりにも凄すぎて、唖然として付いていけなかった。
「そんなに、驚かないでください。私たちのしていることはただの善行です。綾芽は綾芽に出来ることをしているだけです。覚醒を果たせばその発現させた能力次第で誰にでもできることですよ。といっても、普通の人に言っても説明にならないですか。すみません、忘れてください。
綾芽は、綾芽に出来る使命を果たしているだけですから、この事は秘密にしておいてくださいませ」
「……は、はい」
私は何のことかも分からないまま、かろうじて返事を返した。
この細い体で軽々と樋坂君を持ち上げて、どこにそんな力があったのかと突っ込みたかったが、今は樋坂君の容体の方が心配でならなかった。
出血は酷く、止まる様子はない、このままにしていればやがて息絶えてしまうだろう。
「樋坂君っっ!!!」
私は、もう自分が負っている傷の痛みなど忘れるほどに、血に塗れた樋坂君の心配で頭がいっぱいになった。
駆け寄って容体を確認するが、すでに意識はなく、わずかに心臓の鼓動を繰り返すだけだった。止めどなく流れ落ちる血液が、私の手にもべっとりと付着する。
目を閉じたまま、顔が青ざめていく樋坂君の姿は見たくはなかった。
「そんな!! 樋坂君、私のせいで、こんな……」
「あなたのせいじゃありませんよ、それに、まだ大丈夫です。息があります」
傷の深さに半狂乱に陥りそうになる私を落ち着かせるように、少女は私に言った。
そのエメラルドのように緑色に輝きを帯びた澄んだ瞳は、真剣そのもので、悲しみも何もなく、本気で“助けられる”と、そう本気で言っているようだった。
「大丈夫って、樋坂君、こんな大けがを負ってるのに、今から救急車を呼んだところで間に合うかどうか……」
「安心してください、”綾芽の力は本物です”」
はっきりとそう言葉にすると、少女は傷口に両手をかざして、目を閉じ祈り始めた。
私は一体これから何が始まるのか、何もわからぬまま、ただ少女の言葉を信じ、樋坂君の身体を離れてその様子を見守った。
少女の両手の先から緑色に光輝く眩しい光が灯る。
その瞬間、風が止み、突如にして静寂に包まれるような感覚を覚えた。
少女の両手から灯された熱を帯びたその光は、樋坂君の身体に吸い込まれていくように、傷口から流れ出す出血を止め、傷口を徐々に塞いでいく。
この世のものとは思えない、信じられない現象を、私は目の当たりにした。
現代医学をも遥かに凌駕した衝撃的な光景を前に、開いた口が塞がらないほどに私は驚き言葉を失った。
一体、何が起こっているのか、先ほどの樋坂君を持ち上げた怪力といい、この少女は一体何者なのか、ありえない事の連続で驚くほかなかった。
三十秒ほど治癒の祈りは続いて、私は、ただその様子を見守るだけだった。
「とりあえず、応急処置はさせていただきました、後は、ゆっくり保健室で休ませてあげてください」
何の説明もないままそれだけを伝えるため、言葉を掛けてくれる少女。治療に集中したためか、額から汗を流している。
この超能力じみた治療行為に一体何のからくりがあるのかまるで分からない、でも樋坂君の鼓動は穏やかなものになり、傷口もすっかり塞がっていた。
「一体、何が起こったの……」
私は全く思考が追い付いていかないまま、呟いた。
「治癒魔法です、医療技術の発展した現代では、あまり大したことではありませんが、こういう急を要する現場では役に立ちます」
そういわれても、私は目の前で起きた現象があまりにも凄すぎて、唖然として付いていけなかった。
「そんなに、驚かないでください。私たちのしていることはただの善行です。綾芽は綾芽に出来ることをしているだけです。覚醒を果たせばその発現させた能力次第で誰にでもできることですよ。といっても、普通の人に言っても説明にならないですか。すみません、忘れてください。
綾芽は、綾芽に出来る使命を果たしているだけですから、この事は秘密にしておいてくださいませ」
「……は、はい」
私は何のことかも分からないまま、かろうじて返事を返した。
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