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第八話「愛に変わった日~救世主の再臨~」3
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全体の様子が見やすいよう体育館の脇の方で樋坂君と二人並んで、舞台演劇の様子を見守る。
幕開きと共に女装した光くんが舞台に登場し、後から女装した神楽さんが入ってくる。
二人は姉妹の役で、神楽さんの方が姉役で、スタイルもよくダンスも上手という設定だ。
メインのお話しは王家の姉妹と、そこに入ってくる男性との三角関係を中心とした物語で、舞踏会のシーンでの神楽さんの踊りは見せ場として見事なものだった。
三角関係の原因になる男性役だが、元は委員長だったようだけど、病欠になったせいで、内藤君が担っていた。ちょっと踊りはぎこちないけど、高い身長もあって、ダンスシーンは様になって見えて、ロマンチックな雰囲気にマッチしていた。
こうして演劇クラスの舞台演劇をちゃんと最初から最後まで、通して鑑賞するのは初めてだった。
少しずつ世界観に惹き込まれるように、広々とした体育館を舞台に、目の前でドンドンドンと足音まで響く生の演技が繰り広げられる。迫力のある演技を目の当たりにして、その感動的な演劇を樋坂君の横で見れたこと、それは忙しい日々が続いていた中で、何よりも心が洗われる大切で幸せな時間だった。
こんなに穏やかで安心できる時間は久々のことで、余計なことなんて考えず私はこの時だけ、生徒会の仕事のことを忘れて心の底から楽しんだ。
大きな拍手と共に演劇の幕が閉じ、立ち見まで出た演劇は終わりを告げた。
客席の照明が付いて、アナウンスの声が体育館に届けられ、続々と立ち上がって観客たちが体育館を出ていく中、私は休憩時間もいよいよ終わりかと気持ちを入れ替えている途中だった。
樋坂君もこれからクラスメイトの元へ激励に向かうところだったのだろう。
そこへ慌てた様子で、先ほどの夫婦が樋坂君の元へやってきた。
私は何事かと思いながらその様子を見ていた。
大勢の観客で騒がしい会場の中では、なかなか夫婦の声が聞こえづらい。
だから樋坂君と話すその会話の内容までは聞こえなかった。だが、夫婦の話を聞く樋坂君の表情が徐々に凍り付き、深刻な表情に変わっていくのを、私は胸が締め付けられるような気持ちで見ていた。
「どうしたの?」
その様子を見て、たまらず私は駆け寄って樋坂君に聞いた。
聞くのは怖かったが、知らないふりを出来るような雰囲気ではもはやなかった。
「真奈が“いなくなった”」
動揺した様子で樋坂君がこちらを向いて、絞り出すような口調で一言、ハッキリとそう言葉にした瞬間、私は現実を受け止めた。
「一体いつから?」
私は瞬時に気持ちを切り替えて質問した。それが“もしも”、悪意を持ったものによる犯行であれば、予断は許されない状況だと思った。
「いなくなったのは演劇の最中だったと思うの。照明が消えていたから、気づくのが遅れてしまって。気付いたころにはもう、演劇が終わって照明が付いた後だったから」
真奈がいなくなっていたことに気づいた経緯をなんとか冷静を装いながら説明してくれるおばさん。
しかし、これではいなくなった正確な時刻も分からない。私は思考を巡らせて、急いで対応を考えた。
「私、捜索願を掛けるわ」
私はすぐさま判断をした。
「樋坂君はまだ残ってる会場の観客に真奈さんを見かけた人がいないか聞き込みをして」
私は動揺して、思考が鈍っている樋坂君に語り掛けた。
「―――分かった。すまない、絶対に真奈を見つけ出す」
樋坂君は我に返ると真剣な表情に変わった。
その様子を見届けて、私は緊急事態であることを重く受け止め、取り急ぎ関係各所に号令をかけた。
幕開きと共に女装した光くんが舞台に登場し、後から女装した神楽さんが入ってくる。
二人は姉妹の役で、神楽さんの方が姉役で、スタイルもよくダンスも上手という設定だ。
メインのお話しは王家の姉妹と、そこに入ってくる男性との三角関係を中心とした物語で、舞踏会のシーンでの神楽さんの踊りは見せ場として見事なものだった。
三角関係の原因になる男性役だが、元は委員長だったようだけど、病欠になったせいで、内藤君が担っていた。ちょっと踊りはぎこちないけど、高い身長もあって、ダンスシーンは様になって見えて、ロマンチックな雰囲気にマッチしていた。
こうして演劇クラスの舞台演劇をちゃんと最初から最後まで、通して鑑賞するのは初めてだった。
少しずつ世界観に惹き込まれるように、広々とした体育館を舞台に、目の前でドンドンドンと足音まで響く生の演技が繰り広げられる。迫力のある演技を目の当たりにして、その感動的な演劇を樋坂君の横で見れたこと、それは忙しい日々が続いていた中で、何よりも心が洗われる大切で幸せな時間だった。
こんなに穏やかで安心できる時間は久々のことで、余計なことなんて考えず私はこの時だけ、生徒会の仕事のことを忘れて心の底から楽しんだ。
大きな拍手と共に演劇の幕が閉じ、立ち見まで出た演劇は終わりを告げた。
客席の照明が付いて、アナウンスの声が体育館に届けられ、続々と立ち上がって観客たちが体育館を出ていく中、私は休憩時間もいよいよ終わりかと気持ちを入れ替えている途中だった。
樋坂君もこれからクラスメイトの元へ激励に向かうところだったのだろう。
そこへ慌てた様子で、先ほどの夫婦が樋坂君の元へやってきた。
私は何事かと思いながらその様子を見ていた。
大勢の観客で騒がしい会場の中では、なかなか夫婦の声が聞こえづらい。
だから樋坂君と話すその会話の内容までは聞こえなかった。だが、夫婦の話を聞く樋坂君の表情が徐々に凍り付き、深刻な表情に変わっていくのを、私は胸が締め付けられるような気持ちで見ていた。
「どうしたの?」
その様子を見て、たまらず私は駆け寄って樋坂君に聞いた。
聞くのは怖かったが、知らないふりを出来るような雰囲気ではもはやなかった。
「真奈が“いなくなった”」
動揺した様子で樋坂君がこちらを向いて、絞り出すような口調で一言、ハッキリとそう言葉にした瞬間、私は現実を受け止めた。
「一体いつから?」
私は瞬時に気持ちを切り替えて質問した。それが“もしも”、悪意を持ったものによる犯行であれば、予断は許されない状況だと思った。
「いなくなったのは演劇の最中だったと思うの。照明が消えていたから、気づくのが遅れてしまって。気付いたころにはもう、演劇が終わって照明が付いた後だったから」
真奈がいなくなっていたことに気づいた経緯をなんとか冷静を装いながら説明してくれるおばさん。
しかし、これではいなくなった正確な時刻も分からない。私は思考を巡らせて、急いで対応を考えた。
「私、捜索願を掛けるわ」
私はすぐさま判断をした。
「樋坂君はまだ残ってる会場の観客に真奈さんを見かけた人がいないか聞き込みをして」
私は動揺して、思考が鈍っている樋坂君に語り掛けた。
「―――分かった。すまない、絶対に真奈を見つけ出す」
樋坂君は我に返ると真剣な表情に変わった。
その様子を見届けて、私は緊急事態であることを重く受け止め、取り急ぎ関係各所に号令をかけた。
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