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第五話「ロマンスの残響」1

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 会議の結果、三クラスによる演劇クラスの座をかけた真剣勝負が開催されることが決まり、その日の内に、各クラスのクラスメイト達にも共有されることとなった。
 
 その後、引き続き学年会議は続けられ、三つ巴の対決の舞台となる合同演劇公演会は学園から少し離れたホールで行われることが決まり、舞原市に暮らす住民も入場できる形でゴールデンウィークに開催されることが決まった。

 舞台の幕が上がるまで、一ヶ月も満たない短い準備期間の中で、雌雄を決することとなり、各クラス慌ただしい準備期間に入った。

 準備期間が短いこともあり、ノウハウのある私たちのクラスは有利ではあるけど、油断はできなかった。この勝負を持ち掛けてきたということは相手側にも勝算のある策が有するということだ。
 
 特に映画研究部は演技力に関して特に目に光るものがあり、彼らには自信もある。彼らの作る映画は毎回好評で、学園のデータベースに記録されたアーカイブスに残っている動画も多くの視聴回数を記録している。
 総合的に見て、熱意もあり油断はできない相手であり、クラス委員長も今回はかなり本気だ。油断をすれば足元をすくわれることになるだろう。


 部活会議において、劇の題材となる作品をどうするかという話し合いが行われ、脚本を含めて、私と浩二に任されることとなった。


 残された準備期間が短いこともあり、適材適所が図られた結果だ。
 浩二の脚本にはクラス中の絶大な信頼がおかれているのもあるからまとめ役という意味でも満場一致となって、全体的な監督をするのは私ということになった。

 できる限り、早急に脚本を完成させ、稽古に入れるようにしていくことをクラスメイト達に約束し、私と浩二は急ぎ、題材となる作品の検討に入った。

 今回の演劇の顛末が私と浩二に掛かっているといっても過言ではない。脚本の出来は最も大事なところだ。
 最終的には勝負の結果は観客の投票によって決められることから、題材とする原作の段階で勝ち負けに影響しかねない。

 慎重に検討をしたいところだが、時間がそれを許してはくれない。
 私たちは放課後、図書室に残って話しをすることにした。

「そういえば、前に話していたよな? 一緒に演劇ができる日が来たら、やってみたい舞台劇があるって」

 浩二は遠い日の出来事を覚えていた。私は表情には出せないがそれだけで嬉しくなった。氷が解けるように少しずつあの頃のような関係に戻りつつあるのを感じた。

「うん、確かにあるけど、浩二は舞台化したい作品はないの?」

 浩二の方が舞台演劇に詳しいのは確かなことなので私は聞いた。

「俺は特にないかな、あんまり同じ演劇を何度もやるのは好みじゃなくてさ、またやってほしいって言われることはあるけど、断ってきたんだよな。
 クラスで希望が出た作品はこの二年間でかなりこなしてきたし、出来れば、新鮮な気持ちで新しい作品を作り上げていきたい気持ちが今は強い。
 これまで仲間にも恵まれ経験もそれなりに積んできた。だから羽月の作り上げたい舞台にもある程度こたえられると思うんだ」

「いいの? 責任重大なことだから、浩二が作品を選んで脚本を書いたほうが、みんなも安心できるんじゃない?」

 もしも、他のクラスに負けてしまったら学園生活最後の一年間、演劇をすることが出来なくなってしまうことだって考えられる。そんな最悪の事態を危惧する私の心境は複雑だった。

「大丈夫だよ、羽月の脚本でもみんな信じて付いてきてくれるさ。
 俺も脚本づくりは手伝うし、羽月の頭の良さはみんな周知されている事だろう?」

「創作が頭の良さで全部決まるわけじゃないから、あんまり信用ならないと思うけど……。
 演劇って娯楽じゃない? 多くの人が娯楽として楽しめるものを作らなきゃならない。
 どれだけ真剣に作ったとしても、共感されなければ受け入れられない、頭の固い私には荷が重いかもしれない」

 アイディアは出せても脚本を作る技術の部分では未熟であることに変わりはない。
 勉強は努力で補えても創作はそうはいかないと分かっているだけに不安は残った。

「それでも、伝えたい熱意があれば、きっと届くはずだ、そうだろう?」

 真っすぐな言葉で諭すように浩二は言う、浩二は興味を持ってくれているのだろうか、私が選んだ題材を元に仕上げた、私の作る脚本を。

「信じていいのかな?」

 心配になった私は浩二に聞いた。不安そうな私の顔を見ても、浩二は揺らいだ様子はなかった。

「あぁ、演劇の舞台は、生身の身体で人に伝えるものだから、信じて演じきることが一番大切さ」

 浩二が本当に演劇を好きな気持ちが伝わってきて、私はその熱意にしっかりと応えていかないければならないと痛感した。

「分かった。じゃあ、書いてみる。
 負けたくないから、精一杯やってみるわ」

 浩二は私の言葉に頷いた。
 私の選ぶ題材となる作品は、ずっと心の中で温めて来た作品、私が脚本を書いてこそ意味があるということを、浩二も受け入れてくれた様子だった。

 私にできるのだろうか、そんな不安を未だ抱えながら、それでも私は共に信じる道を進むことに決めた。
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