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第十三話「夜を駆ける」4
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葛飾と呼ばれた男は銃口を突き付けられたことでようやく諦めたのかそれ以上抵抗することはなかった。
静かに男の手首に手錠が掛けられる、それでこの場はとりあえず、ようやく終わったように感じて、脱力した。
「なんとか間に合ったな」
礼二さんが呟いた。礼二さんが裕子の縄をほどく、裕子が小さくか細い声で”ありがとう”と言っているのが聞こえた。
「助かりました、二人を信じてよかったです。来てくれて、ありがとうございます」
「こんな大事になってるのに、俺をのけ者にしてたんじゃ承知しねぇからな、連絡をくれて感謝してるぜ、これでもう一度この事件を考え直すことが出来る」
村上警部の言葉が胸に沁みた。いろいろな人に支えられて今生きている、そんなことを素直に感じられた。
カバンに入れていた無線の電源は入れていたので、この場の音は二人にずっと聞こえていた。それが私の仕掛けた一番の仕掛けだった。
私がやったこととすればちづるへの書置きにこれからここに来ること、裕子が人質に取られていること、そして村上警部の連絡先を書いて”この人は頼れる”と書いて残していったくらいだ。
一枚の書置きから生まれた連携によって。無事裕子を助け出すことが出来た。私の計画に乗ってくれたみんなには感謝しておかないと。
「お前の強さは見させてもらった、今回はお前の勝ちでいいさ。じゃあな」
一言だけ言い捨てるように、男は言った。
その潔さには疑念を抱かずにいられなかったが、今かける言葉も思いつかなかった。
「後は警察に任せてくれ。君の気持ちはわかっているつもりだ」
村上警部はそれ以上は言わなかった、信じてもいいだろう。村上警部が男の腕を握り連行していく、間もなくパトカーが来て署まで連行していくようだ。
私としては父の無実が証明されることを願うばかりだ、そうすれば留置所にいる柚季さんも解放される。そのためにここまでやってきたのだ、どうか報われてほしい。
「ふぅぅ・・・、なんとかなったわね。
勘づかれたらどうしようかと思ったけど」
フロアに三人が残される、やり切った気持ちで脱力して座り込んだままの私の傍に二人が駆け寄ってくる。
「無茶ばっかしやがって・・・、急いできて正解だった」
なかなか経験しないようなことをやり遂げて、無事に二人を見ているだけで安心できた。
「ちづる!! ちづる!!! ごめんね、あたし・・・、あたしずっと本当は謝りたかったの。でもどう言っていいのかわからなくて、素直になれなくて、本当にごめん! あたしはちづると一緒にいたい、一緒にいたいよぉ!!」
私は抱き着いてきた裕子を抱きしめ返す、こんなに泣かせることになるだなんて思わなかったけど、裕子の気持ちは嬉しかった。
「私も一緒だよ、ごめんね、怖い思いさせちゃって。裕子の事、巻き込んじゃったね。
私も裕子と一緒にいると安心する、大切な友達だって思えるの」
「違うよ、巻き込んだのはあたしの方なの、あたしは顔は覚えてなかったけど、あの男と会ったことがあるの、だから狙われたの。
あの男はあたしのことを最初から殺すつもりでいた、口封じのために、あたしはあの日、玄関で倒れてるちづるのお父さんを見てしまったから、そして白いワゴン車も一緒に」
「白いワゴン車・・・」
裕子の言葉に礼二さんは反応した。その言葉の意味するところは私には分からなかったが、裕子には目の前にいるの人が本当は礼二さんであることは言えないので、この場で白いワゴン車について聞くのはやめた。
「でもあたしは誰にも言えなかった。言えば今度は殺される、そう思って言えなかった。だってあの男はあたしのことを知っているんだから。
ごめん・・・、あたしは貴重な目撃者の一人なのに、あの男に薬で眠らされて、気づいたら公園に倒れてて・・・、あたしはこの事を忘れようとしたの、ちづるの気持ちを無視して、あたしが臆病だったから!!」
裕子が捲くし立てるように事情を話す、初めて聞いた話ばかりでなかなか自分の中でも整理がつかない。
「話しは後でゆっくり聞こう、今はここを出てけがの治療をするのが優先だ、考えるのは後だ、気になることはたくさんあるけどな。
村上警部があの男のことを葛飾蓮舫と呼んでいた。あいつが今回の事件に大きくかかわっていることは間違いない、あいつの素性が分かれば、事件は一気に解決に向かうかもしれない」
礼二さんは冷静に振舞い、裕子を落ち着かせてくれた。
「その葛飾という男が麻生さん一家三人を殺した元凶なんだ、一体何者なんだろう・・・、一体どうしてこんな事件を起こしたんだろう。
本当にお金のため? 依頼されたんだとしたら一体誰がそんなことを・・・、どんな動機があってそこまでしなくちゃならなかったんだ」
考えることは山ほどあった。
色々な情報が出てはきたが、まだ整理の付いていないことだらけで、疲れた頭ではなかなか正解が見えてこない。
この場は収まったが、葛飾という男が事情聴取で何を話すのか、出来ればそれで父の容疑が晴れて、柚季さんが釈放されればいい・・・。
そこまでの結果をすぐにというのは望みすぎかもしれないが、今はそういう方向に向かっていくことが一番重要だ。
気付けば、外はもう暗く、丸い月が高い空に昇っていた。
静かに男の手首に手錠が掛けられる、それでこの場はとりあえず、ようやく終わったように感じて、脱力した。
「なんとか間に合ったな」
礼二さんが呟いた。礼二さんが裕子の縄をほどく、裕子が小さくか細い声で”ありがとう”と言っているのが聞こえた。
「助かりました、二人を信じてよかったです。来てくれて、ありがとうございます」
「こんな大事になってるのに、俺をのけ者にしてたんじゃ承知しねぇからな、連絡をくれて感謝してるぜ、これでもう一度この事件を考え直すことが出来る」
村上警部の言葉が胸に沁みた。いろいろな人に支えられて今生きている、そんなことを素直に感じられた。
カバンに入れていた無線の電源は入れていたので、この場の音は二人にずっと聞こえていた。それが私の仕掛けた一番の仕掛けだった。
私がやったこととすればちづるへの書置きにこれからここに来ること、裕子が人質に取られていること、そして村上警部の連絡先を書いて”この人は頼れる”と書いて残していったくらいだ。
一枚の書置きから生まれた連携によって。無事裕子を助け出すことが出来た。私の計画に乗ってくれたみんなには感謝しておかないと。
「お前の強さは見させてもらった、今回はお前の勝ちでいいさ。じゃあな」
一言だけ言い捨てるように、男は言った。
その潔さには疑念を抱かずにいられなかったが、今かける言葉も思いつかなかった。
「後は警察に任せてくれ。君の気持ちはわかっているつもりだ」
村上警部はそれ以上は言わなかった、信じてもいいだろう。村上警部が男の腕を握り連行していく、間もなくパトカーが来て署まで連行していくようだ。
私としては父の無実が証明されることを願うばかりだ、そうすれば留置所にいる柚季さんも解放される。そのためにここまでやってきたのだ、どうか報われてほしい。
「ふぅぅ・・・、なんとかなったわね。
勘づかれたらどうしようかと思ったけど」
フロアに三人が残される、やり切った気持ちで脱力して座り込んだままの私の傍に二人が駆け寄ってくる。
「無茶ばっかしやがって・・・、急いできて正解だった」
なかなか経験しないようなことをやり遂げて、無事に二人を見ているだけで安心できた。
「ちづる!! ちづる!!! ごめんね、あたし・・・、あたしずっと本当は謝りたかったの。でもどう言っていいのかわからなくて、素直になれなくて、本当にごめん! あたしはちづると一緒にいたい、一緒にいたいよぉ!!」
私は抱き着いてきた裕子を抱きしめ返す、こんなに泣かせることになるだなんて思わなかったけど、裕子の気持ちは嬉しかった。
「私も一緒だよ、ごめんね、怖い思いさせちゃって。裕子の事、巻き込んじゃったね。
私も裕子と一緒にいると安心する、大切な友達だって思えるの」
「違うよ、巻き込んだのはあたしの方なの、あたしは顔は覚えてなかったけど、あの男と会ったことがあるの、だから狙われたの。
あの男はあたしのことを最初から殺すつもりでいた、口封じのために、あたしはあの日、玄関で倒れてるちづるのお父さんを見てしまったから、そして白いワゴン車も一緒に」
「白いワゴン車・・・」
裕子の言葉に礼二さんは反応した。その言葉の意味するところは私には分からなかったが、裕子には目の前にいるの人が本当は礼二さんであることは言えないので、この場で白いワゴン車について聞くのはやめた。
「でもあたしは誰にも言えなかった。言えば今度は殺される、そう思って言えなかった。だってあの男はあたしのことを知っているんだから。
ごめん・・・、あたしは貴重な目撃者の一人なのに、あの男に薬で眠らされて、気づいたら公園に倒れてて・・・、あたしはこの事を忘れようとしたの、ちづるの気持ちを無視して、あたしが臆病だったから!!」
裕子が捲くし立てるように事情を話す、初めて聞いた話ばかりでなかなか自分の中でも整理がつかない。
「話しは後でゆっくり聞こう、今はここを出てけがの治療をするのが優先だ、考えるのは後だ、気になることはたくさんあるけどな。
村上警部があの男のことを葛飾蓮舫と呼んでいた。あいつが今回の事件に大きくかかわっていることは間違いない、あいつの素性が分かれば、事件は一気に解決に向かうかもしれない」
礼二さんは冷静に振舞い、裕子を落ち着かせてくれた。
「その葛飾という男が麻生さん一家三人を殺した元凶なんだ、一体何者なんだろう・・・、一体どうしてこんな事件を起こしたんだろう。
本当にお金のため? 依頼されたんだとしたら一体誰がそんなことを・・・、どんな動機があってそこまでしなくちゃならなかったんだ」
考えることは山ほどあった。
色々な情報が出てはきたが、まだ整理の付いていないことだらけで、疲れた頭ではなかなか正解が見えてこない。
この場は収まったが、葛飾という男が事情聴取で何を話すのか、出来ればそれで父の容疑が晴れて、柚季さんが釈放されればいい・・・。
そこまでの結果をすぐにというのは望みすぎかもしれないが、今はそういう方向に向かっていくことが一番重要だ。
気付けば、外はもう暗く、丸い月が高い空に昇っていた。
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