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第14章「Rain」3
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しばらくしてプロのオーケストラの演奏が終わり、審査結果の発表が行われた。
隆ちゃんが最優秀賞で私は審査員特別賞、隆ちゃんと同様私も副賞でプロのオーケストラに混ざって演奏することができるそうだった。
インタビューがあるとのことで私と隆ちゃんはコンクールスタッフに呼び出され、もう一度舞台衣装を着たまま、審査員が並ぶ舞台上へと向かった。
スタッフに見送られ照明が降り注ぐ舞台上に私と隆ちゃんが出ると盛大な拍手で迎えられ、笑顔を浮かべる審査員の横に私はお辞儀をしながら並んだ。
先に隆ちゃんの方がモデルみたいにスタイルの良い若い女性のインタビュアーからインタビューを受けて、今回のコンクールの感想やこれから目指すピアニストの理想像などを質問され、ハキハキと返答していた。
司会をするインタビュアーはとても仕事慣れしている様子で、隆ちゃんも上手く返答が出来ている様子だった。
隆ちゃんは他のコンクールでもこうした質問に答えた経験があるのか、緊張しているはずなのに父のことを聞かれても言葉に詰まることなく答えていた。
そして、次に私の番がやってきた。
私が声を出せないことを事前にインタビュアーはしっかり把握していたので、さっき急いで書き出した手紙をインタビュアーが代読する手はずになっていた。
私を安心させるように笑顔で私にアイコンタクトをして、手紙を持ちながら、マイクでインタビュアーが話し始めた。
「それでは、審査員特別賞を受賞された、素晴らしい演奏を披露してくれた、四方晶子さんのメッセージを代読させていただきます。
と、その前に、メッセージを理解しやすいように、テレビの前の皆様や会場の皆さんのために、少しだけ彼女の境遇を説明させていただきます」
事前の打ち合わせでも、手紙の内容を確認しながら、少しだけ境遇を説明させてほしいと、それでより理解が深まるでしょうと提案を受け、私は快く承諾した。
私自身、自分のことを知ってもらうことに抵抗はない。むしろ、知ってもらった方がこれから先のことを考えると、必要であると認識できた。
「四方晶子さんは先の震災で被災した際に両親を失い、自身も片耳が不自由になり、かつ声を出すことのできない後遺症を負いました。
しかしながら、先ほどの素晴らしい演奏を披露していただいた通り、四方晶子さんは立派にこのピアノコンクールに向けて真摯に練習に取り組み準備されました。
それだけ、芯の強いコンテスタントであるということです。
さて、簡単ですが、境遇についてご説明させていただきましたので、これから四方晶子さんからのメッセージを代読させていただきます」
片手に手紙、もう片方の手でマイクを持ちながら、会場やテレビの向こうのたくさんの人々に向けて、インタビュアーの女性は代読を始めた、
私はその様子を、隆ちゃんの横で緊張しながらも清々しい気持ちで見守った。
「私は先の震災の後遺症で片耳が聞こえなくなり、声が出せなくなりました。
でも、私は今、ここに立っています。
これが私の選んだ選択です。
私は震災で両親を失い、後遺症を抱え、一度はピアノを諦めかけました。
そんな時、私に立ち上がる勇気をもう一度くれたのは、ここにいる、佐藤隆之介君でした。
彼の演奏を聞いて、私は自分がピアノを大好きだったことを思い出しました。
そして、もう一度、ピアノを演奏することができるようになりました。
私はピアノなしでは生きていけません。
ピアノを弾くことが私の生きる意味なんです。
彼はそれを思い出させてくれました。
だから、今度は私がたくさんの人に勇気を届けたいと思います。
そのために、鎮魂の意味も込めて、独奏として最初にRainを演奏させていただきました。
この曲には大切なものを失って、傘を差しながら一人になろうとするほどに、孤独になってしまった少女の心傷ついた心情が込められています。
私は失うものがあって、苦しくても、ピアノを通じて癒してあげられる、もう一度歩き出せる勇気を持ってもらえるような、ピアニストになりたいと思っています。
そして私は、震災で今も苦しんでいる人たちのために、自分の足で現地に回ってピアノの音をたくさんの人に届けたいと思います。
それが、私の切なる想いです。
だから、どうか、聞いている皆さん、被災された方、生きることを諦めないでください。
困難にめげることなく私と一緒に今を生きていきましょう。
きっと、生きていれば報われることだってあるから。
帰ってこない人の分も、前を向いて歩いていきましょう」
代読が終わり、インタビュアーが真っ直ぐに綺麗なお辞儀をすると、コンサートホールにいる人々から盛大な拍手が送れられた。
ラブレターのような内容でもあり、ちょっと語りすぎ、言い過ぎてしまったかもしれないとも思ったが、これだけ伝えたい気持ちを詰め込んで印象的に届けた方が、大切なこととしてしっかり伝えられて私のことを覚えてくれるかもしれないから、これでいいかなと代読が終わった後で私は思った。
長いようで短かったピアノコンクールに明け暮れた日々も東京での本選をもって終わりを迎え、また、今日演奏していた実力者揃いのオーケストラと一緒に演奏する日を待ち望みながら、解散することとなった。
少なくとも、もう一度、オーケストラとの演奏会の時には隆ちゃんと一緒にいられる、私にとってはそれが一番のご褒美に違いなかった。
隆ちゃんが最優秀賞で私は審査員特別賞、隆ちゃんと同様私も副賞でプロのオーケストラに混ざって演奏することができるそうだった。
インタビューがあるとのことで私と隆ちゃんはコンクールスタッフに呼び出され、もう一度舞台衣装を着たまま、審査員が並ぶ舞台上へと向かった。
スタッフに見送られ照明が降り注ぐ舞台上に私と隆ちゃんが出ると盛大な拍手で迎えられ、笑顔を浮かべる審査員の横に私はお辞儀をしながら並んだ。
先に隆ちゃんの方がモデルみたいにスタイルの良い若い女性のインタビュアーからインタビューを受けて、今回のコンクールの感想やこれから目指すピアニストの理想像などを質問され、ハキハキと返答していた。
司会をするインタビュアーはとても仕事慣れしている様子で、隆ちゃんも上手く返答が出来ている様子だった。
隆ちゃんは他のコンクールでもこうした質問に答えた経験があるのか、緊張しているはずなのに父のことを聞かれても言葉に詰まることなく答えていた。
そして、次に私の番がやってきた。
私が声を出せないことを事前にインタビュアーはしっかり把握していたので、さっき急いで書き出した手紙をインタビュアーが代読する手はずになっていた。
私を安心させるように笑顔で私にアイコンタクトをして、手紙を持ちながら、マイクでインタビュアーが話し始めた。
「それでは、審査員特別賞を受賞された、素晴らしい演奏を披露してくれた、四方晶子さんのメッセージを代読させていただきます。
と、その前に、メッセージを理解しやすいように、テレビの前の皆様や会場の皆さんのために、少しだけ彼女の境遇を説明させていただきます」
事前の打ち合わせでも、手紙の内容を確認しながら、少しだけ境遇を説明させてほしいと、それでより理解が深まるでしょうと提案を受け、私は快く承諾した。
私自身、自分のことを知ってもらうことに抵抗はない。むしろ、知ってもらった方がこれから先のことを考えると、必要であると認識できた。
「四方晶子さんは先の震災で被災した際に両親を失い、自身も片耳が不自由になり、かつ声を出すことのできない後遺症を負いました。
しかしながら、先ほどの素晴らしい演奏を披露していただいた通り、四方晶子さんは立派にこのピアノコンクールに向けて真摯に練習に取り組み準備されました。
それだけ、芯の強いコンテスタントであるということです。
さて、簡単ですが、境遇についてご説明させていただきましたので、これから四方晶子さんからのメッセージを代読させていただきます」
片手に手紙、もう片方の手でマイクを持ちながら、会場やテレビの向こうのたくさんの人々に向けて、インタビュアーの女性は代読を始めた、
私はその様子を、隆ちゃんの横で緊張しながらも清々しい気持ちで見守った。
「私は先の震災の後遺症で片耳が聞こえなくなり、声が出せなくなりました。
でも、私は今、ここに立っています。
これが私の選んだ選択です。
私は震災で両親を失い、後遺症を抱え、一度はピアノを諦めかけました。
そんな時、私に立ち上がる勇気をもう一度くれたのは、ここにいる、佐藤隆之介君でした。
彼の演奏を聞いて、私は自分がピアノを大好きだったことを思い出しました。
そして、もう一度、ピアノを演奏することができるようになりました。
私はピアノなしでは生きていけません。
ピアノを弾くことが私の生きる意味なんです。
彼はそれを思い出させてくれました。
だから、今度は私がたくさんの人に勇気を届けたいと思います。
そのために、鎮魂の意味も込めて、独奏として最初にRainを演奏させていただきました。
この曲には大切なものを失って、傘を差しながら一人になろうとするほどに、孤独になってしまった少女の心傷ついた心情が込められています。
私は失うものがあって、苦しくても、ピアノを通じて癒してあげられる、もう一度歩き出せる勇気を持ってもらえるような、ピアニストになりたいと思っています。
そして私は、震災で今も苦しんでいる人たちのために、自分の足で現地に回ってピアノの音をたくさんの人に届けたいと思います。
それが、私の切なる想いです。
だから、どうか、聞いている皆さん、被災された方、生きることを諦めないでください。
困難にめげることなく私と一緒に今を生きていきましょう。
きっと、生きていれば報われることだってあるから。
帰ってこない人の分も、前を向いて歩いていきましょう」
代読が終わり、インタビュアーが真っ直ぐに綺麗なお辞儀をすると、コンサートホールにいる人々から盛大な拍手が送れられた。
ラブレターのような内容でもあり、ちょっと語りすぎ、言い過ぎてしまったかもしれないとも思ったが、これだけ伝えたい気持ちを詰め込んで印象的に届けた方が、大切なこととしてしっかり伝えられて私のことを覚えてくれるかもしれないから、これでいいかなと代読が終わった後で私は思った。
長いようで短かったピアノコンクールに明け暮れた日々も東京での本選をもって終わりを迎え、また、今日演奏していた実力者揃いのオーケストラと一緒に演奏する日を待ち望みながら、解散することとなった。
少なくとも、もう一度、オーケストラとの演奏会の時には隆ちゃんと一緒にいられる、私にとってはそれが一番のご褒美に違いなかった。
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