18 / 73
第5章「もう一度、はじめるために」1
しおりを挟む
晶ちゃんとの再会の時を夢見て日本に帰国した僕は、オーストリアにいた頃とまるで情報の伝達され方が違う、メディアから伝わるあまりに悲壮感漂う空気感にぞわぞわとした嫌な不安感を感じながら、日本列島を襲った今度の震災がどれだけ多くの人々に影響を与えているのか、その現実を垣間見た。
僕は母とピアノコンクールが終わるまでしばらく暮らすことになる都心にほど近い家に荷物を置き、翌日には宮城県内の病院に入院中の晶ちゃんの見舞いに向かうことに決め、その日はテレビのニュースに耳を傾けながら眠った。
僕が暮らすことになったその借り家にはまだ練習用のピアノが運ばれていなかったこともあり、僕は久々にクラシック音楽を聞くだけで、ピアノを弾かない一日を過ごした。
翌日、長い飛行機旅のせいで時差ボケに少し苦しみながら朝食を食べ、僕は式見先生に一度連絡してから、再会への期待と不安、両方を胸に秘めながら家を後にして、晶ちゃんのいる病院まで真っ直ぐに向かった。
式見先生は「残念だけど、今日は病院には来れないよ」と連絡した時に耳にしたので僕は心細かったが一人で病院までやって来た。
県内でもひと際大きい病院の自動ドアを通過して病院内を歩いていく。
なかなか来る機会のない病院内の通路を歩いて、晶ちゃんがいると聞いている病棟の階までエレベーターを使って上がり、患者の異様なくらいの多さに緊張しながら歩いた。
看護師がテキパキと慣れた様子で仕事をする病棟を歩いていると、より一層再会への緊張感がせりあがってくる。
(もうすぐ、会えるんだ……)
四年ぶりだ、大好きな女の子に再会出来るのだから嬉しくないわけがない。
(待たせてしまって、ゴメン。今行くから、元気でいてくれ)
このまま忘れることなんて出来ない大切な人が今、苦しんでいる。
僕は謝るなら、ちゃんと彼女の前で謝りたいと思いながら、スロープを歩いた。
病棟の奥の方に行くと徐々にスロープが静かに移り替わっていく。
高鳴る胸の鼓動を抑えられないほどに、成長した彼女の姿に会うことに緊張していた。
四年前の小学校卒業をきっかけにして離れ離れになってから、写真などはお互いに交換していなかったので、今の成長した姿をお互い知らない。
自分が背も伸びて、より男性らしい身体つきへと変わっていったのだから、きっと彼女も女性らしく、美しい姿に成長していることだろう。
そういう期待をしてしまうのは男の性かもしれない。
出来るだけ足音を立てないよう歩いて、一つの病室の前に僕は辿り着いた。
そして、四方晶子と病室の前に書かれたプレートを確認して、僕は呼吸を整える。
あまりに懐かしい、その名前を確認するだけで感極まって、だけど、ここで一度泣いてしまったら涙が止まらないだろうと気づき、グッとの泣き出してしまいそうな感情を抑えた。
”今日は……、晶ちゃんの前では明るく振舞おうと決めていた”
だって、晶ちゃんの悲しそうな顔をこれ以上増やしたくないから。例え、辛いことや悲しいことがあっても、僕はあの頃のような明るい笑顔を晶ちゃんにはしてほしいのだ。
そんなに簡単にすぐに気持ちを切り替えるのは難しいと分かってる、でも、少しでも自分と再会することで元気になれることを、僕は心から願っていた。だから、僕はここにいる、晶ちゃんにこうして会いに来たんだ。
(長い間、会えなかったけど。もう一度、はじめるために。何があっても僕は晶ちゃんの味方でいよう……)
怖くないかといえば嘘になる、晶ちゃんは…、僕の知ってる晶ちゃんは変わり果てているかもしれない。だけど、ここまで来た以上、後悔しないために引き返す選択はなかった。
だから、僕は勇気を出して一度ノックをしてから、意を決して扉を開いた。
僕は母とピアノコンクールが終わるまでしばらく暮らすことになる都心にほど近い家に荷物を置き、翌日には宮城県内の病院に入院中の晶ちゃんの見舞いに向かうことに決め、その日はテレビのニュースに耳を傾けながら眠った。
僕が暮らすことになったその借り家にはまだ練習用のピアノが運ばれていなかったこともあり、僕は久々にクラシック音楽を聞くだけで、ピアノを弾かない一日を過ごした。
翌日、長い飛行機旅のせいで時差ボケに少し苦しみながら朝食を食べ、僕は式見先生に一度連絡してから、再会への期待と不安、両方を胸に秘めながら家を後にして、晶ちゃんのいる病院まで真っ直ぐに向かった。
式見先生は「残念だけど、今日は病院には来れないよ」と連絡した時に耳にしたので僕は心細かったが一人で病院までやって来た。
県内でもひと際大きい病院の自動ドアを通過して病院内を歩いていく。
なかなか来る機会のない病院内の通路を歩いて、晶ちゃんがいると聞いている病棟の階までエレベーターを使って上がり、患者の異様なくらいの多さに緊張しながら歩いた。
看護師がテキパキと慣れた様子で仕事をする病棟を歩いていると、より一層再会への緊張感がせりあがってくる。
(もうすぐ、会えるんだ……)
四年ぶりだ、大好きな女の子に再会出来るのだから嬉しくないわけがない。
(待たせてしまって、ゴメン。今行くから、元気でいてくれ)
このまま忘れることなんて出来ない大切な人が今、苦しんでいる。
僕は謝るなら、ちゃんと彼女の前で謝りたいと思いながら、スロープを歩いた。
病棟の奥の方に行くと徐々にスロープが静かに移り替わっていく。
高鳴る胸の鼓動を抑えられないほどに、成長した彼女の姿に会うことに緊張していた。
四年前の小学校卒業をきっかけにして離れ離れになってから、写真などはお互いに交換していなかったので、今の成長した姿をお互い知らない。
自分が背も伸びて、より男性らしい身体つきへと変わっていったのだから、きっと彼女も女性らしく、美しい姿に成長していることだろう。
そういう期待をしてしまうのは男の性かもしれない。
出来るだけ足音を立てないよう歩いて、一つの病室の前に僕は辿り着いた。
そして、四方晶子と病室の前に書かれたプレートを確認して、僕は呼吸を整える。
あまりに懐かしい、その名前を確認するだけで感極まって、だけど、ここで一度泣いてしまったら涙が止まらないだろうと気づき、グッとの泣き出してしまいそうな感情を抑えた。
”今日は……、晶ちゃんの前では明るく振舞おうと決めていた”
だって、晶ちゃんの悲しそうな顔をこれ以上増やしたくないから。例え、辛いことや悲しいことがあっても、僕はあの頃のような明るい笑顔を晶ちゃんにはしてほしいのだ。
そんなに簡単にすぐに気持ちを切り替えるのは難しいと分かってる、でも、少しでも自分と再会することで元気になれることを、僕は心から願っていた。だから、僕はここにいる、晶ちゃんにこうして会いに来たんだ。
(長い間、会えなかったけど。もう一度、はじめるために。何があっても僕は晶ちゃんの味方でいよう……)
怖くないかといえば嘘になる、晶ちゃんは…、僕の知ってる晶ちゃんは変わり果てているかもしれない。だけど、ここまで来た以上、後悔しないために引き返す選択はなかった。
だから、僕は勇気を出して一度ノックをしてから、意を決して扉を開いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずっと君のこと ──妻の不倫
家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。
余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。
しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。
医師からの検査の結果が「性感染症」。
鷹也には全く身に覚えがなかった。
※1話は約1000文字と少なめです。
※111話、約10万文字で完結します。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる