”小説”震災のピアニスト

shiori

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第4章「錆び付いた対面」2

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「あのね、ちょっと言うべきか迷っていたのだけど、やっぱり伝えるわね、時間もあまり残ってないから。
 晶子のご両親が見つかったの、それで、今、偶然だけどこの病院にいるの。
 会える機会は、おそらく今日が最後になると思うのだけど、それでも、晶子は会ってみたいかしら?」

 式見先生の言葉はちゃんと正確に伝えようとしていたからか、丁寧な言い方だったが、私は予想外のことで身構えていたのに言葉を噛み砕いて理解するのに時間がかかった。

 父と母と対面できる最後の機会……そう言われると必然的に迷いが生じた。
 私は返答に迷っていると、先生は言葉を続けた。

「迷っているところごめんなさい。
 あのね、無理に会わなくてもいいの、今はあなたは身体を休めることの方が大事だから、自分を大事にして、このまま私に全部任せていてもいいのよ」

 でも、先生は”会っても仕方ない”とは言わなかった。

 それでも、父と母に対面するということは、二人の死を受け止めることになるということを、受け入れなければならないだろう。

 私はタブレット端末の画面を見つめながら、どう返事をするかを考えた。

 私はどうしたいのだろう……、会えるのが今日が最後と言っている以上、会ったとしても声を聞くことはおろか、今の私の気持ちを伝えることも出来ない、すでに物言わぬ身体となっていることはよく分かった……。

 それにきっと、対面したとして、それは気分のいいものでもなくて、見てしまったら最後、目に焼き付いて離れなくなるであろうこと。そのことも加味した上で、無理に会わなくてもいいと式見先生は私に言ってくれているのだと分かり、余計に複雑な気持ちになった。


 でも……、私はそれでも、私を産み、ここまで育ててくれた両親にどんな形でも会いたいと思った。

 だから私は……、今の気持ちをしっかり言葉にして伝えることにした。


「会います、両親と会わせてください、後悔したとは言いませんから」

 淡々とした音声でタブレット端末に内蔵されたスピーカーから再生された私の想いは、式見先生に伝えられた。

「そう、分かったわ、それじゃあ、行きましょうか」

 私が落ち込む可能性を心配していた式見先生も、納得した様子で立ち上がって、私を待つ。
 私が靴を履いて立ち上がると、先生がカーディガンを私にかけてくれた。

 これから物言わぬ両親に会いに行くというのに先生が隣にいてくれるおかげで、私は思いのほか冷静で落ち着いていられた。

 あぁ、気分のいい対面にならないことは目に見えていたが、この調子ならなんとか耐えられそうだ、そう私は思いながら先導する先生の後を付いて歩いた。
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