巨乳教授M

あんどこいぢ

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第一話 福本舞花

覚醒篇

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(男たちにジロジロ観られるこのバスト以上に大きなヒップ──)
 舞花は本当に自分の体が嫌いだった。荒井は舞花のこの体のことを、一体どう思っているのだろうか?
(彼だって男なんだ……。きっと……。どうせ……)
 彼女はいまそのヒップを突きだし、胡坐を掻いた彼の前に四つん這いに這わされている。さいわい着衣のままだったが、ベージュカラーのパンツスーツはボンキュッボンのボディラインと相俟って、一瞬彼女が全裸であるかのような危険なシーンを演出している。
 高校時代、よく痴漢に遭った。いや初めて痴漢に遭ったのは小四の夏休み、──友だちと江の島にいった帰りのことだ。そして大学入学後もセクハラが絶えなかった。
 同性の女性たちも必ずしも味方ではなかった。私のカレに色目を使った、などといういいがかりはしょっちゅうだったし、意識高い系の女性たちからは〝男に媚びた体だ〟、などといわれた。
 学部のゼミでは〝デカ尻マイカ〟などという綽名まで奉られた。
 彼女の卒論は当該年度の文学部紀要別巻=大学院生特集号に特別掲載されたのだが、それさえ実力とは認められなかった。また彼女の院生時代にはまだまだ耐えなければならないセクハラが多かったのだが、そうした理不尽に歯を食いしばって耐えている彼女に、なぜか同性の女性たちが追い打ちをかけてくるのだった。もっとも日大の一連の不祥事などでは同大の危機管理学部までもがとばっちりを受けたりもしたから、いかにお堅いフェミニストと雖も、自身のお膝もとでのゴタゴタは困るのだろう。
 とはいえ舞花も自分の体に対し、それなりのプライドは持っている。ただでさえ大きいバスト、ヒップがダラッと垂れてはみっともないので、日々ジョギングは欠かさなかったし、営業が自粛された数週間をのぞきジム通いだって欠かさなかった。ジムでは彼女はちょっとしたスターだ。
 ──舞花さんって上背あるし脚だって長いから、グラマラスなラインが全然エッチにならないんですよね。
 ──腰だって足首だってキュッとしてるし、髪纏めるとうなじ辺りもシュッとしてるしね。
 だがそれはレオタード姿の話……。世のなかにはフォーマルなスーツ姿のほうが男を刺激してしまう女もいるのだ。
(でもこのひとは本当に、どう思っているの?)
 スーツ姿を避けていたのは優希もまた同じだったわけだが、そんな二人が俄かファッションショーのようなマネまで始めてしまったので、当惑していたのはむしろ河北だった。舞花たちに直接何かいうことはなかったが、れいのユニマットのところで、荒井にやや声を落として──。
「いや視ちゃマズいなとは思うんだけど、どうしてもその、なんちゅうか……。最近のあの二人、眼のやり場に困るっちゅうかさ……」
 にも拘らず、当の荒井のほうが、
「近々重要な一席でもあるんじゃないっすか? そのための予行演習っすよ、きっと──。だってスーツとしちゃぁいたって健全なモンでしょ? 私ファッションのことぁよく解んないっすけど──」
 などといった感じなのだ。
 今日の発表は舞花だった。荒井に手伝わせての三度目の発表……。その発表に向け週一強の打ち合わせ──。レジュメの修正──。さらに二人っ切りのリハーサルまでした。封印していたピチピチのTシャツ姿まで晒して……。彼の巨乳への食いつきの悪さに、彼女は初めてもどかしい何モノかを感じた。加えて今日午後の発表本番──。パッツンパッツンのパンツスーツ姿をたっぷり魅せつけてやったつもりなのだが……。
 四つん這い──。獣の姿勢──。しかもコンプレックスであり密かな誇りでもある〝デカ尻〟を彼の鼻先に突きつけるシチュエーションで……。が、彼の反応がないまま一体なん分経っただろうか? 第三者的時間ではおそらく一分経っていないのだろうが……。
 舞花自身の気持ちはともかくよくよく考えてみれば失礼な恰好である。そのため彼女の口を突いてでたのは、
「くっ、ごっ、ごめんなさい……。こんな恰好で……」
 という謝罪の言葉だった。だが荒井の対応が微妙にズレている。
「いやいや、先生が謝るこっちゃないっすよ」
(それはそうでしょう? 一体誰が好き好んで、こんな恰好するっていうの?)
 実はこれはドSだという荒井に命じられ取らされているポーズだった。彼の性癖を知らされてもなお引くことができなかった舞花……。そんな自分自身を、彼女は意外にもスーッと受け入れてしまっていた。いやそれどころかいままさに取らされているこのポーズ──。このポーズのままそこを鞭打たれる自分の姿が頭から離れなくなってしまっているのだ。やはり彼女はそこを罰して欲しいのだろう。と同時にまた、結局そこを構って欲しいのだろう。
(それなのに……。ひっ、ひどいっ……)
 問題のヒップと彼の頭との位置関係も気になる。ニオイを嗅がれてしまってもおかしくない至近距離なのだ。そして、彼女の危惧はまさに的中することになった。無情にも彼が、その点を弄り始めたのだ。
「ピューマでしたっけ? ジャガーでしたっけ? カーヴァーの短編にありましたよね? ……って、カーヴァーって短編と詩しか書いてないんでしたっけ?」
(なっ、なんの話よっ?)
「まぁとにかくアメリカ大陸に分布するビッグキャットで、カーヴァーの短編にでてくるんっすよね。確かハンティングとかが絡んでくる話で、それでカーヴァーもまたヘミングウェイの息子だってことがよく分かるって話になってくるらしいんすけど、そのピューマだったかジャガーだったかが、自分のニオイを完璧に消すことができるっていうんですね。獲物に忍び寄るときとか、或いは逆に彼のほうが狩られる側で、人間のハンターの追跡を躱したりするときなんかに、やっぱそういう能力って、必要になってくるんじゃないすかね? 突然ニオイだして相手をパニックに陥れ、……なんて手もあるんじゃないかな? なんて話も書かれてような、書かれてなかったような……。先生のニオイもさっきから急に凄いんですよ。ムウッと……。ホントにムウッとね──」
「ニオイ、……って? エッ? 嫌ああああああっ!」
 舞花は思わず、女としての根源から悲鳴をあげてしまっていた。と同時に体中が熱くなって、血ではないかと錯覚されるような汗が噴きだす。
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