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第二章

第42話 ヴァルバレスへ

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 ビシャスさんが来てから次の日。
 クランロード様に確認を取ったら早速、ヴァルバレスに行くこととなった。
 もちろん、朝一で解体は済ませたから一週間くらいは解体が溢れることはないはず。
 僕が解体をしてから倉庫がいっぱいになることはなかったからね。偶にはそのくらい溢れていたほうがいいのかも? 後進が育たないって言うのもあるしね。

「あれ? 今日はブラッドホースの馬車は?」

「すみません。今回は馬車で来なかったので野営をはさんでの歩きとなります」

 町から少し街道を歩いてふと気づくとビシャスさんが説明してくれた。
 ブラッドホースも数が少ないのかな? まあ、ないなら仕方ないかな。

「荷物は僕がマジックバッグを持っているから安心していいよティル君」

「ありがとうございますクランロード様」

 馬車があるといちいちマジックバッグに入れなくてもいいものはそのまま出していられたから良かったんだけど、ないものねだりしても致し方ない。

「みんなでお散歩楽しいねスーム~」

「ぴ~」

 リルムちゃんの頭の上でスームがくねくねと体を揺らす。楽しそうに歩く二人を見て微笑むとビシャスさんの視線を感じてみると笑っていた。

「可愛らしいものをみるティル様も素敵ですね」

「はは、それは同意ですね。ですがわかっていますか?」

「はいはい。グレン様にも言われていますわ」

 ビシャスさんの呟きに忠告をするクランロード様。グレンさんには耳にたこができるほど言われていたからね。僕には迷惑をかけないってね。

「あら? 早速魔物? 最近増えてるって噂になっていたけど本当に増えたのね?」

 街道を進んでいると前に狼に乗ったゴブリン達が通せんぼしているのが見える。
 僕らに気づいたゴブリンライダー、狼に乗ったゴブリンが走ってくる。

「【ひれ伏しなさい】!」

 ビシャスさんが言葉を放つとゴブリンライダーたちが地面に伏した。これは最初に会った時にクランロード様とグレンさんがやられたものだ。セイガンの魔法とは違って地面に影響はない。凄い魔法だな。

「はい! これでおしまいっと。まったく、敵に強さくらいわかったらどうなのかしら?」

 地面に伏していたゴブリン達と狼たちの額にナイフを投げて絶命させるビシャスさん。めんどくさいといった様子で屠る彼女はやっぱり強いな。

「脅威としか言いようのない強さですね」

「あら? お褒め頂きありがとうございます王子様」

「……王子様なんて呼ばないでいただきたいな。しかし、その魔法? はどうやって?」

 クランロード様が強さを褒めるとビシャスさんは光栄とばかりにお辞儀をして応えた。
 クランロード様を王子様なんて呼ぶのはグレンさんくらいのもの、それはからかった時にしか言わないから本当は呼ばれたくないんだろうな。
 僕も気になっていたことをクランロード様が聞く。

「始祖としてのスキル【言霊】と言われる物ですね。自分よりも弱いものに驚異的な効果を付加します。ですから最初会った時にティル様が飛ばれましたけど、弱かったら地面に叩きつけられていたはずです。単純に強かったので無理でしたけど」

「……なるほど、僕らは君たちよりも弱いってことか」

「いえ、お二人は私一人では無理でした。アビス姉様とルビスが一緒だったから出来たんです。自信を持ってください」

「そ、そうか……」

 クランロード様を気遣うビシャスさん。偶に暴走するけど、彼女も優しい人だな。

「じゃあ、私は~?」

「ふふ、リルムちゃんも強いわよ~。そうね~、ルビスよりは強いかもね~」

「ルビスお姉ちゃんは弱いの?」

「そうね~。剣術とこの言霊だからね。彼女が外に出る時は私達も一緒に居るからそうそう負けないんだけどね」 

 リルムちゃんの質問に答えると悲しい表情になっていくビシャスさん。魔法の使えないルビスさんはそこそこの強さみたいだ。だから、姉妹での行動が多くなってるのかな?

「ビシャスお姉ちゃんが一番強いの?」

「リルムちゃんは強さに夢中なのね。そうね~、アビスお姉さまは戦術、戦略が得意だけれど、私は勝てる気がしないわね。実質最強はアビスお姉さまね」

 リルムちゃんの質問に彼女の頭を撫でながら答えるビシャスさん。
 アビスさんが一番強いのか。でも、いい方からすると単純な強さはビシャスさんっぽいな。
 そんな話をしながら歩いていると森が見えてきた。このままのペースじゃ二日三日かかっちゃうな。

「そろそろ野営の準備をしますか」

 日が傾いてきてクランロード様が声をあげる。森の中での野営ということで見張りを立てることに、時間を決めて一人一人眠りにつく。

「綺麗な星空」

 森に囲まれた少し開けた所にテントを張ってる。空を見上げると星が僕を見てと輝いてるのが見える。
 天の川のような物は見えないけど、綺麗な円を描く竜巻のような星空が目立つ。まるで気象予報の画面の台風みたいな形だな。大きさは比較にならないけれど。
 そこからわかるように、ここは地球じゃない異世界なんだな。

「ぴ~」

「ん? スーム? 眠れない?」

 テントからスームが出てきて声をあげる。気になってテントを見るとビシャスさんがリルムちゃんを抱きしめているのが見える。たぶん、スームはあの間に居て潰されたんだろう。それが嫌で出てきたのかな。

「おいで、一緒に星を見よ」

「ピー!」

 僕の肩に乗ってくるスーム。彼は僕の言葉を容易に理解して反応してくれる可愛い子だ。戦いのときも軽く攻撃してくれて敵の隙を作ってくれる。

「ピ~!」

「ん? どうしたの?」

 星を一緒に見てるとヴァルバレスの方角を見て声をあげるスーム。警戒してるから注意してみると森の中から黒い騎兵が現れた。

「ど、どちら様?」

「……」

 声をかけても動じない騎兵。しばらく、警戒してみていると騎兵が僕らへと近づいてきた。

「ちょ、ちょっと、これ以上近づくなら攻撃をする!」

「ピ~!」

 太刀を抜いて警告をする。同時にスームの水球が騎兵にかけられる。攻撃として見てないみたいでそのままぶっかけられる騎兵。
 しばらくすると馬から落ちて倒れる兵士。ドサッという音でクランロード様が飛び起きてくる。

「ど、どうしたティル君! そ、その鎧は王都の!?」

 クランロード様が驚いて声をあげた。どうやら、この騎兵は王都の人みたいだ。
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