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第一章 

第8話 グレンとシーラ

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 ティルを見送ったシーラと俺は受付の後ろの部屋で会議をしていた。共に椅子に座って机をはさんでいる。

「ティル君が魔法を?」

「ああ、それもなかなかの威力だったぞ。あんな雷撃を受けたら俺でも身動きとれねえ。ジェネラルワーウルフが動けねえんだからな」

 個室だというのにひそひそと話を進める俺達。ティルを思ってあまり大事にしたくないからな。現場に初めて行ったティルが魔法を覚えたなんてことがみんなに知れたら教会がなんて言うかわからないからな。
 やつらは回復魔法を独占しようとしてるからな。
 冒険者の中でも使えるやつはいるが暗黙のルールであまり広めないようにしてる。
 それでも回復魔法を使わないといけないときは教会に依頼を出して多額の寄付で雇うことが出来るが依頼にはあまり連れて行きたくない連中だ。
 戦闘ではあまり使えないうえに上から目線で何ともいけすかねえからな。

「ジェネラルワーウルフは60レベル相当の魔物よね?」

「ああ、俺ですら一人じゃ倒せねえよ。それの動きを止める初級魔法を放ったんだ。あれはスキルを持っているに違いない」

「ティル君って魔法才能があったのね」

 才能? そんなレベルじゃねえよ。まったく、ティルが可愛いからって甘やかしやがって、ってそれは俺もか。
 しかし、確かに末恐ろしい奴だよティルは。ちゃんと俺達が守ってやらねえとな。

「これから一緒に行動するんでしょ?」

「ああ、強くなれるってことが分かったからには色んなものから守ってやらねえとな」

「本当にティル君に優しいわね。まあ、私もだけどね」

 シーラも同じことを思っていたみたいだな。頬杖を突いて俺のでこをつついて来て微笑みかけてくる。

「本当にお前はそういうの反則だよな」

「ふふ、じゃあティル君みたいに優しくしてよ」

 いたずらっぽく微笑んでシーラは目を瞑った。頭をかきながら唇を合わせる。

「久しぶりだね」

「そうだったか?」

「そうよ。この間なんてふてくされて帰っちゃったじゃない」

「あれはお前がティルに危険なことをさせるなって俺を止めてきたんだろ。それで言い合いになって」

 前々からティルをレベル上げようと思っていたんだが、頑なにシーラに止められてたんだ。
 レベル上限が5なんてありえないからな。何か謎かあると思っていたんだ。俺の思った通り、ティルには不思議な力が隠されてる。

「だって、ティル君はギルドの弟なのよ。危ないことさせられるわけないじゃない」

 シーラは頬を膨らませる。
 ティルのやつは気づいてないが人気ものなんだよな。目立たないようにしようとしている俺達がどんなことをしても目立ってしまうだろう。
 俺もイケメンの部類らしいがティルは可愛いと言われる部類らしい。女心は分からないが守ってやりたいんだとよ。
 たまにシーラがティルと話していると胸が締め付けられるがティルを見ると納得してしまう。
 そんな可愛いティルが強かったら更に凄いことになってしまうだろう。恐ろしい。
 しかし、ギルドの弟か……あっ

「そうだ、ギルドで思い出した」

「え?」

「ティルの解体業をしばらく休むことはできないか?」

「ええ~!? それは困るわよ。ティル君の解体は正確で速いんだから。昨日だって終わらせてあなたと出かけたのよ」

 流石【解体中級】ということか。
 スキルってやつも持っていないやつが大体で初級でも持っていれば強い奴の仲間入り、ティルはそれに気づいていないみたいなんだよな。
 俺の弟のように【剣士下級】を持っているようだし、今のところ出来ないことはないって感じだな。

「ティル君の事だから、朝に解体を片付けてあなたと合流しようと考えているはずよ」

「あ~そうだと思うんだがな。それだと遠くにいけないだろ。こんな辺鄙なところでくすぶるような男じゃないだろ」

「う、ん~」

 シーラは残念そうに机に頬をつく。

「私達のティル君がエイクテッドを去る時が来ちゃうのね……」

 涙を流して呟くシーラ。
 まったく、受付にいる時はキリッとしているくせに。まあ、俺にだけ見せているところは可愛いと思うがな。

「まだまだ後になるだろうがな。その前に解体士を探しておいてくれよ」

「うん。わかった。ティル君のためよね」

 元気になったシーラは両手でガッツポーズを作り意気込む。
 ティルの為に本当に頑張るお姉ちゃんだな、まったく。
 俺も見習ってしっかりとティルを強くしていくぞ。ついでに俺もレベルアップだ。
 ジェネラルワーウルフ達を倒して一レベル上がった。最近はやる気が出なくて近辺の依頼しかしていなかったが、ティルの成長を見てやる気が出てきてしまった。
 今更だが、ティルは迷惑に思っていないだろうか?
 ザックとの勝負も勝手に俺が決めてしまった。今度ちゃんとティルに聞いておくか。

「じゃあ、また夜ね」

「ああ」

 シーラとのティル会議を終えてギルドを後にする。外に出るとすぐにザックが絡んできた。

「よう。解体士のレベル上げはあきらめたのか?」

 まったく、こういう雑魚はどうしてこう……

「ああ、順調だよ。明日にはもうお前を超えてるだろうな。いや、すでにといったほうがいいか」

「はんっ。そんなわけねえだろ。寝言は寝て言えよ。グレン」

 今まで弱いと思ってたティルが自分よりも強くなってる、そんなことを他人に言われても信じるわけがないよな。特にこんな聞き分けのない子供みたいなやつに。

「まあ、焦るなよ。お前は強いんだろ」

「……」

「勝負は一週間と言っていたが三日でもいいかもしれないな。どうする?」

「言ったな……じゃあ。三日後だ」

 ザックはニヤッと口角をあげるとついでとばかりに話し続ける。

「そうそう、ティルのやつ解体室に生きたシャドウウルフがどうとか言ってなかったか?」

「ああ、言っていたが?」

「そうか。実はあれは俺がやったんだ。死ぬほど怖がってただろ?」

 ……まさか、こいつのおかげとはな。少し優しくしてやるか。

「そうだったのか。ありがとよ」

「は?」

「そのおかげでティルが強くなれたんだ。お礼にいいことを教えてやるよ。怠けずにただただ腕を磨けよ。さもないと一撃でティルに負ける」

「はぁ~?」

「優しい忠告だよ。とにかくありがとよ」

 ポンポンとザックの肩を叩いてその場を後にする。
 ザックのやつは唾を吐いてふてくされてるよ。
 ティルに負けるはずがないと高をくくってるんだろうな。
 俺も鑑定スキルなんてもんがなかったら、ああなっていたんだろうな。
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