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第13話 僕ら以外
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◇
「昨日の救急車大丈夫だったかな~」
「……」
救急車を見送って、次の日。
朝食をとりながらミサトちゃんが呟く。僕はそれに答えずに食事を進める。相変わらずトマ子のトマトは美味しい。今回はサラダに添えられているだけなのにな。
「お母さんの病院が機能してるのかな~」
「……」
食事を進めているとミサトちゃんが更に声をあげる。無言で食事を進める僕と彼女を交互に見るカズキ君とミカンちゃん。テニスの観客のように首を左右に振ってる。可愛いかよ。
「見に行きたいな~。行っちゃおうかな~」
「ダメだよミサトちゃん。ベランダから見たらわかるだろ?」
ミサトちゃんの声に答える。やっと答えてくれたと彼女は否定されているのに喜んでる。
ベランダから地上を見るとところどころに人がいる。立っていたり、寝っ転がっていたり、異常な光景だ。
救急車が通った時、音に反応してのそのそと音の方向に流れていた。そのせいで、僕らのマンションの周りはゾンビが多くいる。今外に出るのは悪手だ。音を出すのも憚られる。
「……わかってます。わかってますけど、お母さんは生きてるんです。わかるんです」
「お姉ちゃん……」
ミサトちゃんは胸を抑えて訴えてくる。ミカンちゃんが彼女を抱きしめると、彼女はミカンちゃんの頭を撫でる。仲のいい姉妹だな。
「……マナブさん。何かできませんか?」
「カズキ君……。ん~」
カズキ君は二人を見て居てもたっても居られずに問いかけてくる。みんなを放っておいて一人で行くならいける。今の僕は3階くらいまで跳躍で届く、ゾンビに気づかれても逃げ切れる自信がある。
ミサトちゃん達を連れていくとそれはできない、助けるために奔走して共倒れだ。……みんなを危険な目に合わせたくない。
「カズキさんは優しいから。僕らに何かあったらダメだって思ってるんですよね。わかります」
顎に手を当てて考え込んでいるとカズキ君が嬉しそうに呟く。わかってくれる彼の優しさに思わず頭を撫でてしまう。ミサトちゃんもこの子くらいわかってくれればな~。彼女の方を見ると頬を膨らませて見せてくる。
「わ、私だってわかってます。だから、寝ている間に出て行ってないでしょ!」
「そうですか。でも、前科があるからね。それでやっとプラマイゼロかな」
フグのように頬を膨らませて弁解の言葉を述べるミサトちゃん。僕の答えに更に頬を膨らませてる。可愛い顔が台無しだな。
「……私達は静かにしてる。そうすれば、危険な目に合わないよねお兄ちゃん」
「理論上はね」
「お兄ちゃんだけなら大丈夫だよね?」
ミカンちゃんが冷静に言葉をかけてくる。僕の答えを聞くと目をキラキラと輝かせて聞いてくる。無言で頷いて見せると彼女はミサトちゃんの顔を見つめる。
「お姉ちゃんはカズキお兄ちゃんと一緒に見張ってる。だから、お兄ちゃん。お母さんを助けて!」
「ちょっと、ミカン!?」
ミカンちゃんの言葉に驚くミサトちゃん。ミカンちゃんは更に僕を見つめてきて目をキラキラさせる。
「……僕がいなくてもしっかりと自分たちを守れる?」
僕は声をあげながら三人を見据える。三人はそれぞれ頷く。
「ゾンビよりも人の方が怖くなる。出来るだけ、人との接触も控えるようにね。マンションの敷地に入れないように。いいね?」
ゾンビ映画で当たり前のように描かれる描写だ。ゾンビはのろのろと動くので前半でしか脅威ではない。最初はゾンビだと気づかずに人だと思って、殺意を持って戦えないんだ。人殺しは誰でもやりたくないからね。
最終的には人と人との戦いになる。ゾンビを盾にして戦うようなそんな戦いだ。まだこの世界はゾンビの世界になったばかりだから、まだ理性を持った人ばかりだと思うけどね。
「じゃあ、早速行ってくるよ」
「え! もう行くんですか?」
「うん、夜になる前に帰ってきたいからね」
一駅隣にある病院だ。住宅街をまっすぐ進めばそんなに時間かからないけど、ゾンビのいる中だから慎重に進まないといけなくなるだろう。そう考えると片道3時間は考えた方がいい。早く終わるに越したことはないしね。
「あ、カキコとリンコの収穫はやっておいてくれる?」
「え? あ、はい」
「植物に名前を付けるの好きなんだね。なんだか可愛い」
リュックに必要なものを入れて、声をあげる。ちゃんと柿とリンゴもとっておいてもらわないとね。カズキ君が返事をするとミサトちゃんに笑われてしまった。恥ずかしいけど、ちょっと気に入ってる自分がいる。
「お兄ちゃん! トマ子が一つプチトマト作ってくれたよ。持って行って」
「ミカンちゃんありがと。トマ子もありがとな」
気を利かせてトマ子が急遽プチトマトを作ってくれたみたいだ。ミカンちゃんにお礼を言いながらトマ子にもお礼を言うとトマ子は元気に体を揺らす。
救急道具と槍と柵あとは、袋に入ったままの惣菜パン。更にトマトをラップに包んでしまう。トマ子のトマトがあれば重傷者も助けることが出来るだろう。
「行ってきます」
「あ、待って!」
マンションの1階に降りて見送ってくれてるカズキ君とミカンちゃん、二人に挨拶を交わしてると階段を急いで降りてくるミサトちゃんが声をあげる。手にはお弁当箱が握られてる。
「はぁはぁ。簡単なお弁当だけど」
「え……。あ、ありがとう」
急いで作ってくれたみたいで息を切らしてる。女の子の手作りお弁当……こんな世界になる前に味わいたかったものだな。
「じゃあ、期待して待ってて」
「は、はい!」
手作りお弁当で気をよくした僕は思わずにっこりと微笑んで手を振る。三人も元気に見送ってくれる。
さて、外はどういう状況になっているのかな。どういう状況になっているのか興味はあったんだよな。楽しみであり、怖さもあるな。
「昨日の救急車大丈夫だったかな~」
「……」
救急車を見送って、次の日。
朝食をとりながらミサトちゃんが呟く。僕はそれに答えずに食事を進める。相変わらずトマ子のトマトは美味しい。今回はサラダに添えられているだけなのにな。
「お母さんの病院が機能してるのかな~」
「……」
食事を進めているとミサトちゃんが更に声をあげる。無言で食事を進める僕と彼女を交互に見るカズキ君とミカンちゃん。テニスの観客のように首を左右に振ってる。可愛いかよ。
「見に行きたいな~。行っちゃおうかな~」
「ダメだよミサトちゃん。ベランダから見たらわかるだろ?」
ミサトちゃんの声に答える。やっと答えてくれたと彼女は否定されているのに喜んでる。
ベランダから地上を見るとところどころに人がいる。立っていたり、寝っ転がっていたり、異常な光景だ。
救急車が通った時、音に反応してのそのそと音の方向に流れていた。そのせいで、僕らのマンションの周りはゾンビが多くいる。今外に出るのは悪手だ。音を出すのも憚られる。
「……わかってます。わかってますけど、お母さんは生きてるんです。わかるんです」
「お姉ちゃん……」
ミサトちゃんは胸を抑えて訴えてくる。ミカンちゃんが彼女を抱きしめると、彼女はミカンちゃんの頭を撫でる。仲のいい姉妹だな。
「……マナブさん。何かできませんか?」
「カズキ君……。ん~」
カズキ君は二人を見て居てもたっても居られずに問いかけてくる。みんなを放っておいて一人で行くならいける。今の僕は3階くらいまで跳躍で届く、ゾンビに気づかれても逃げ切れる自信がある。
ミサトちゃん達を連れていくとそれはできない、助けるために奔走して共倒れだ。……みんなを危険な目に合わせたくない。
「カズキさんは優しいから。僕らに何かあったらダメだって思ってるんですよね。わかります」
顎に手を当てて考え込んでいるとカズキ君が嬉しそうに呟く。わかってくれる彼の優しさに思わず頭を撫でてしまう。ミサトちゃんもこの子くらいわかってくれればな~。彼女の方を見ると頬を膨らませて見せてくる。
「わ、私だってわかってます。だから、寝ている間に出て行ってないでしょ!」
「そうですか。でも、前科があるからね。それでやっとプラマイゼロかな」
フグのように頬を膨らませて弁解の言葉を述べるミサトちゃん。僕の答えに更に頬を膨らませてる。可愛い顔が台無しだな。
「……私達は静かにしてる。そうすれば、危険な目に合わないよねお兄ちゃん」
「理論上はね」
「お兄ちゃんだけなら大丈夫だよね?」
ミカンちゃんが冷静に言葉をかけてくる。僕の答えを聞くと目をキラキラと輝かせて聞いてくる。無言で頷いて見せると彼女はミサトちゃんの顔を見つめる。
「お姉ちゃんはカズキお兄ちゃんと一緒に見張ってる。だから、お兄ちゃん。お母さんを助けて!」
「ちょっと、ミカン!?」
ミカンちゃんの言葉に驚くミサトちゃん。ミカンちゃんは更に僕を見つめてきて目をキラキラさせる。
「……僕がいなくてもしっかりと自分たちを守れる?」
僕は声をあげながら三人を見据える。三人はそれぞれ頷く。
「ゾンビよりも人の方が怖くなる。出来るだけ、人との接触も控えるようにね。マンションの敷地に入れないように。いいね?」
ゾンビ映画で当たり前のように描かれる描写だ。ゾンビはのろのろと動くので前半でしか脅威ではない。最初はゾンビだと気づかずに人だと思って、殺意を持って戦えないんだ。人殺しは誰でもやりたくないからね。
最終的には人と人との戦いになる。ゾンビを盾にして戦うようなそんな戦いだ。まだこの世界はゾンビの世界になったばかりだから、まだ理性を持った人ばかりだと思うけどね。
「じゃあ、早速行ってくるよ」
「え! もう行くんですか?」
「うん、夜になる前に帰ってきたいからね」
一駅隣にある病院だ。住宅街をまっすぐ進めばそんなに時間かからないけど、ゾンビのいる中だから慎重に進まないといけなくなるだろう。そう考えると片道3時間は考えた方がいい。早く終わるに越したことはないしね。
「あ、カキコとリンコの収穫はやっておいてくれる?」
「え? あ、はい」
「植物に名前を付けるの好きなんだね。なんだか可愛い」
リュックに必要なものを入れて、声をあげる。ちゃんと柿とリンゴもとっておいてもらわないとね。カズキ君が返事をするとミサトちゃんに笑われてしまった。恥ずかしいけど、ちょっと気に入ってる自分がいる。
「お兄ちゃん! トマ子が一つプチトマト作ってくれたよ。持って行って」
「ミカンちゃんありがと。トマ子もありがとな」
気を利かせてトマ子が急遽プチトマトを作ってくれたみたいだ。ミカンちゃんにお礼を言いながらトマ子にもお礼を言うとトマ子は元気に体を揺らす。
救急道具と槍と柵あとは、袋に入ったままの惣菜パン。更にトマトをラップに包んでしまう。トマ子のトマトがあれば重傷者も助けることが出来るだろう。
「行ってきます」
「あ、待って!」
マンションの1階に降りて見送ってくれてるカズキ君とミカンちゃん、二人に挨拶を交わしてると階段を急いで降りてくるミサトちゃんが声をあげる。手にはお弁当箱が握られてる。
「はぁはぁ。簡単なお弁当だけど」
「え……。あ、ありがとう」
急いで作ってくれたみたいで息を切らしてる。女の子の手作りお弁当……こんな世界になる前に味わいたかったものだな。
「じゃあ、期待して待ってて」
「は、はい!」
手作りお弁当で気をよくした僕は思わずにっこりと微笑んで手を振る。三人も元気に見送ってくれる。
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