終末だけど、チートで楽して生存したい

カムイイムカ(神威異夢華)

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第12話 我妻 恵理子(アズマ エリコ)

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「急患です!」

 私の名前はアズマ エリコ。大学病院で医者をしてる。急患が病院に届けられてすぐに患者の瞳をライトで照らす。瞳孔が開いてる?

「ガァ!」

「きゃ!?」

 瞳孔が開いていると思って申し訳なく肩を落としていると患者が急に動き出す。ストレッチャーに縛り付けられていたから怪我はしなかったけれど……。

「この方は急に暴れるので縛ったんです。カルテに書いておいたのですが」

「ご、ごめんなさい。見させていただきます」

 救急医のカルテを受け取る前に患者を診てしまった。これは私の失敗。すぐにカルテに目を通すと信じられない報告が書かれていた。思わず救急医を見つめてしまう。

「これは本当のことなんですか?」

「はい、この方は周囲の方に噛みついていたということです。市民の方が叩き伏せて脳震盪を起こしたようなんですが脈がなくなっていて」

 確認を取ると説明してくれる。脈がなかったけど、ストレッチャーに乗せたら暴れたってことかな。それにしてもおかしな患者。年齢は40歳、名前は【サトウ エナコ】。持ち物に免許書があったからわかったみたいね。
 周囲の方にエナコさんのことを知っている人はいなかった。その為、患者のみの搬送を行ったのね。他にけが人は一人、制圧した男性……。

「怪我をした人を放置したんですか?」

「はい、男性は仕事に行くということでしたので頑なに断ってきて」

「そうですか……」

 暴れる患者を他所に嫌な予感が私を襲う。この症状はあの方の研究内容に似てる。

「すぐに手術室に。患者には触れられないように気を付けて。未知のウィルスを持っているかもしれないから」

「はい」

 看護師に指示を飛ばして暴れる患者を見つめる。運ばれていく患者を見送り救急医の肩に触れる。

「怪我をした人の特徴を警察に知らせて保護するように言ってちょうだい」

「え?」

「急いで!」

 私の指示に驚く救急医。しっかりと言い聞かせると手術室の前に研究棟に向かう。
 まだ憶測の域を出ないけれど、あの症状は見たことがある。

「サワダ先生!」

 研究棟の一角の一室にたどり着き扉を開けるとともに声をあげる。声を聞いて、サワダ イツキ先生が振り向く。

「どうしたんだね。エリコ君?」

 いつも通りのサワダ先生の表情。それでも私は険しい表情で質問する。

「プラントウィルスはどうですか?」

 サワダ先生の研究は植物の研究。植物のように長い時間を生きれるようになるための研究をしている。その中でプラントウィルスが完成している。それでもまだ人体実験には至らず、実用化はしていない……はず。表には絶対に出ていない……。

「どうとは? そこにあるのがすべてだぞ?」

 サワダ先生はそう言って冷蔵ケースに入れている試験管の液体を見つめる。

「これだけですか? 他には?」

「ん? 確か、試験的にモルモットに使うために隣の部屋にしまったはずだが」

 そう言ってサワダ先生は隣の部屋へと視線を向ける。私は急いで隣の部屋に向かう。

「え!?」

 隣の部屋に入って冷蔵ケースを見つめる。すると試験管の中身が無いことに気が付いて声をあげる。

「サワダ先生! 無くなっています! サワダ先生! 聞こえていますか?」

 試験管を見つめながら声をあげる。大きな声をあげているから聞こえないわけがない。それなのに返事が聞こえてこない。しびれを切らして私は戻ろうと部屋の扉に手をかける。扉は開かなかった。

「なに!? ど、どうなってるの? サワダ先生!」

 開かない扉を叩きながら声をあげる。するとサワダ先生が開かない扉の窓から顔をのぞかせる。

「今、プラントウィルスが原因だと知られると困るんだよ」

「え!? そ、それって……」

 私は冷や汗をかいて聞き返す。サワダ先生は真顔で話し出す。

「プラントウィルスは成功している。それなのにいつまでもこの場に留めておくのは研究者として恥だと思っていたのだよ」

「な、なにを言ってるんですか」

 淡々と話し出すサワダ先生。私は意味が分からなくて唖然としてしまう。そんな私を無視して彼はなおも淡々と話し始める。

「ダイナマイト。人々の暮らしを豊かにするために開発された危険な道具。人を殺すことに特化し、銃や爆弾に使われた。かくしてそれは開発者の望まぬ結果だったのか。否! 開発者は嬉々としてそれを受け入れていたはずだ。この私のように」

 サワダはそう言って冷蔵ケースに残っていたプラントウィルスを窓越しに嘗め回す。いかれてる、今やっとわかった。この人はいかれてしまったんだ。プラントウィルスを開発したことで狂ってしまった。でも、諦めたらダメだ。ここで私が彼を止められなかったら大変なことになる。

「サワダ先生。今ならまだ感染を防げる。傷を負った人は一人です。その人を監禁すれば」

「ん? おかしなことを言うね。空の試験管はいくつあると思ってるんだ?」

「え!?」

 試験管は10本ある。その中で空の物は8個……。そ、そんな、まさか。

「その空の試験管、8本は全て患者に打った。点滴としてな」

「な、なんていうことを! じゃあ、今回運ばれてきた人は、【サトウ エナコ】さんは!」

「そんな名前の【モルモット】だったかな。モルモットの名前など覚えておくのは億劫だったが、プラントウィルスのモルモットだったからな。少し覚えていた」

 サワダは楽しそうに話してる。私は憤って拳を握り、扉の窓を叩いて声をあげる。

「誰か! 誰か助けて!」

 助けを呼び、この人を逮捕してもらわないと。そう思って一生懸命、声をあげた。だけど、研究棟には人が少ない。声が届くことはなかった。

「無駄なことはやめなさい。気密性が高いのだから声が届くことはないよ」

「くっ!」

 無駄だと笑うサワダに私は睨みつける。すると彼は口角をあげる。

「そんな憎まれることはしていないと思うがな。私は君を守っているんだから」

「守る? こんなところに監禁しておいて何を」

「ははは、これからこの世は地獄と化す。プラントウィルスによって人の世は終わりを告げるんだよ。私の力で終わる。ふふふ、君はその証人になる。私がこの世界を終わらせたという証人に」

 わからない、この人が何を言ってるのかわからない。

「なぜプラントウィルスを一本こちら側に置いていたかわかるか?」

「……」

「わからないか。私ならば、理性をもって【プラント化】できるはずだ。選ばれしものだからな。そう、それが成功したら君を出してあげてもいいか。まあ、それは成功してから話そう」

 サワダは話し終わると試験管の液体を飲み干す。彼は静かに椅子に座りなおすとうつむいたまま動かなくなる。

「プラントウィルスを取り込んだ生物は本能のみで動くようになる。栄養を取ろうと行動する。その行動とは【食】だ。肉、水を求めて噛みつく。咀嚼咀嚼咀嚼……」

「な、なにを言ってるの……」

 うつ向いたままサワダはプラントウィルスの説明を始める。話し終わるとしばらく話さなくなる。私はどうにかこの部屋から出る方法を探すためにあたりを見回す。買い物袋がいくつか転がっている。その中には缶詰と非常用品がいくつか入ってる。証人と言っていた、私を本当に証人にしようとしていたんだ。だから、生かすために食べ物や飲み物を。

「なんて奴なの。早く出して!」

 私が怒りがこみあげてきて扉を殴りつける。ミサトやミカンと約束をした。今日は二人と買い物に行く予定だった。早く二人の顔を見たい。
 涙を流しながら扉を叩いていると不意におかしなことに気が付く。
 サワダがいない!?

「ど、どこにいったの! 早く私を。!!!!????」

 居なくなったことで焦って声をあげて扉を叩く。すると扉の窓に下からサワダが顔をのぞかせてきた。急に現れたことで驚いて後ろに倒れこむ。

「ガァ! ガウウウウウ!」

「……プラントウィルス」

 奴は選ばれたものじゃなかったってわけね。自我のないただの出来の悪いゾンビになった。
 それからしばらくすると扉から唯一見える窓から見える景色が騒がしくなる。【プラント化】、【ゾンビ化】した人が食を求めて罪のない人を襲い始めたんだ。私はここから見ていることしかできない。
 私の入っている部屋はどちらからも開けることが出来ないようになっていたから……。
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