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第11話 治癒のトマト
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「これがそのトマト粥? 赤くないけど?」
トマト粥っていうから赤いものだと思ったけど、普通の粥って感じだ。プチトマトが一つ入ってるだけだから少し赤みがかってるか。それでも違いがわからないくらいだな。
「折角だから僕もいただこうかな」
「あ、はい。よそいますね」
みんなを治してくれたトマ子のトマト粥。ミサトちゃんによそってもらって一口口に含むとフワッとトマトの香りが鼻を通る。
「美味しい」
初めてトマ子のトマトを食べたときも思ったけど、普通のトマトよりも甘味や出汁のような風味を感じる。それだけでも美味しいのにご飯と合わさると最高の料理だ。
「お姉ちゃんよかったね!」
「み、ミカン!」
ミカンちゃんの声でミサトちゃんを見るとなぜかガッツポーズをしてた。僕に言われたことを気にしていたのかもしれないな。なんて言ってもお母さんからも言われていたんだから。
「ん? カズキ君?」
「え? 僕は何もしてないですよ」
二人をほほえましく見ていると腰あたりを誰かが触れる。カズキ君だと思って振り返ると彼はかなり離れてる。
確かに誰かに触られたんだけどな。……ん? トマ子?
「もしかしてトマ子?」
周りを見渡すと一番近くにいるのはトマ子だ。これだけ凄いトマトを作るんだから意思があっても驚かない。
トマ子の葉っぱに触れてなでてみる。すると葉っぱが嫌と言わんばかりに僕の手を叩いてきた。完全に今のは嫌がってたな。
「どうしたんですかマナブさん? さっきから?」
「あ、いや……。このトマ子がね」
「え? と、トマ子?」
カズキ君が心配して聞いてくる。それにこたえて思わずトマ子の名前を話すと彼はポカンとしてしまった。植物に名前を付けるなんておかしいよな。なんだか恥ずかしくなってきた。
「トマ子ちゃんっていうの? かわいい!」
「え? 反応してる? かわいい!」
元気になったミカンちゃんとミサトちゃんもトマ子に反応して声を上げる。トマ子は僕の時と違って葉っぱをピコピコと揺らして楽しそうにしてる。どうやら、僕は嫌われてるみたいだ。再度触ろうとしたら避けられた。
思ってみれば元の主人を殺めた人だもんな。仕方ないな。
「毎日トマトを実らせてくれる子だから大事にしてやってね」
「はい!」
僕の言葉にミカンちゃんが答えると二人も頷いて答えてくれる。
でも、本当に怪我が治ってよかった。柿やリンゴも同じような効果があったらかなり有利にことを進められるな。といってもけがをするつもりはないけど。
そういえば、ゾンビたちはどうやってゾンビになってるんだ? ゾンビたちを調べる必要があるな。歯形が付いてたりしたらかまれたらってことになる。
「まあ、考えるよりも行動だな。おなかもいっぱいになったし、作業に戻るよ」
「あ! 僕も手伝います」
「いや、カズキ君はまだ休んでな。けがが治ったのは外だけだよ。ミカンちゃんは血も出てるんだから一週間は安静にね」
カズキ君は優しいから無理してしまう。僕はずっと作業に没頭しちゃうだろうから一緒になって働いてたら大変なことになる。まだまだ休んでもらおう。お父さんを埋葬するなんてこともさせてるから、気を休める時間も必要だろう。
「さて、全部落としてあるからこいつから」
マンションの玄関を出て声を上げる。
マンションの通路で倒したゾンビも全部落としておいた。こうやってみると凄い数を倒したもんだ。穴を掘るのも一苦労だな。
「カズキ君のお父さん。隣に埋めていくので騒がしくなりますがすみません」
カキ子とリン子の横でもあるから二人にも悪いけど、我慢してもらおう。
「ハァハァ、流石にきつい……」
地下のゾンビは流石にエレベーターで運んできた。それも合わせると28体程になった。それを埋められるほどの穴をほるにはさすがにきつい。
そもそも、普通の庭ってそんなに深く掘るために作られていないからレンガで囲ってあるんだよ。それよりも深く掘るにはこんなスコップじゃ無理。結局素手での作業になってしまった。
流石の僕のステータスでも無理だと思ったんだけど、何とかなっていく。それでも爪の間に土が凄いことになって大変。はぁ~、怠惰な日々が懐かしい。
「それにしても歯形の怪我はなかったな……」
ゾンビの体はちゃんと調べた。歯形の傷はなかったんだよな。一番驚いたのはエンドウだ。
奴は普通の状態だった。それなのに死体だと思って近づいたら動き出したんだ。僕に噛みつこうと必死に這いずってきた。骨が折れてしまっていたから立てなかったけど、立てていたら襲ってきただろう。
僕は奴のことを二度殺めて埋めている。ちょっと前まで普通に寝ていた僕、あの時じゃ考えられない状況だな。
「ゾンビにかまれてなったんじゃないとなると何が原因なんだろう」
やっとこさ堀った穴にゾンビを入れていく。幅6メートル、深さ10メートル程掘れて何とか入れられた。なんか嫌な光景だけど、世紀末だから仕方ない。すっかり日が落ちてきてる。そろそろ戻らないとみんなが心配する。
「ん!? 救急車?」
マンションに戻ろうと思ったら救急車のサイレンの音が聞こえてきた。僕は急いで屋上にあがる。
「やっぱり生存者が他にもいる」
僕らが生きていたように他にも生きている人が相当な数いる。隣のマンションにだっているかもしれない。これならもしかしたらミサトちゃん達のお母さんも……。
屋上にたどり着いてカメラを起動させる。盗撮のためなのか、エンドウは望遠レンズも持っていた三脚もあった。まったく、ため息しか出ないな。
まあ、今はそのおかげで救急車を確認できたけど。
「大きな病院はミサトちゃん達のお母さんの病院が一番近い。やっぱりそこに向かってるみたいだな」
サイレンを鳴らしている救急車は思った通り、その病院に向かってる。確か、【藤堂病院】とかいう名前だったかってそんなことはどうでもいいか。でも、やっぱり生存者は普通にいるんだ。車を見つけて運転できるようにしていってみるしかないか。
ルートはあの救急車と同じルートで行けば進めるだろう。車は結構放置されてるから進めないと思ったけど、そこは流石日本、道の端っこに寄せているおかげでギリギリ進めそうだ。
「みんなと相談しに行くか」
救急車の音が聞こえなくなって姿も見えなくなった。暗くもなってきたのでみんなのもとに戻る。希望が出てきたな。
トマト粥っていうから赤いものだと思ったけど、普通の粥って感じだ。プチトマトが一つ入ってるだけだから少し赤みがかってるか。それでも違いがわからないくらいだな。
「折角だから僕もいただこうかな」
「あ、はい。よそいますね」
みんなを治してくれたトマ子のトマト粥。ミサトちゃんによそってもらって一口口に含むとフワッとトマトの香りが鼻を通る。
「美味しい」
初めてトマ子のトマトを食べたときも思ったけど、普通のトマトよりも甘味や出汁のような風味を感じる。それだけでも美味しいのにご飯と合わさると最高の料理だ。
「お姉ちゃんよかったね!」
「み、ミカン!」
ミカンちゃんの声でミサトちゃんを見るとなぜかガッツポーズをしてた。僕に言われたことを気にしていたのかもしれないな。なんて言ってもお母さんからも言われていたんだから。
「ん? カズキ君?」
「え? 僕は何もしてないですよ」
二人をほほえましく見ていると腰あたりを誰かが触れる。カズキ君だと思って振り返ると彼はかなり離れてる。
確かに誰かに触られたんだけどな。……ん? トマ子?
「もしかしてトマ子?」
周りを見渡すと一番近くにいるのはトマ子だ。これだけ凄いトマトを作るんだから意思があっても驚かない。
トマ子の葉っぱに触れてなでてみる。すると葉っぱが嫌と言わんばかりに僕の手を叩いてきた。完全に今のは嫌がってたな。
「どうしたんですかマナブさん? さっきから?」
「あ、いや……。このトマ子がね」
「え? と、トマ子?」
カズキ君が心配して聞いてくる。それにこたえて思わずトマ子の名前を話すと彼はポカンとしてしまった。植物に名前を付けるなんておかしいよな。なんだか恥ずかしくなってきた。
「トマ子ちゃんっていうの? かわいい!」
「え? 反応してる? かわいい!」
元気になったミカンちゃんとミサトちゃんもトマ子に反応して声を上げる。トマ子は僕の時と違って葉っぱをピコピコと揺らして楽しそうにしてる。どうやら、僕は嫌われてるみたいだ。再度触ろうとしたら避けられた。
思ってみれば元の主人を殺めた人だもんな。仕方ないな。
「毎日トマトを実らせてくれる子だから大事にしてやってね」
「はい!」
僕の言葉にミカンちゃんが答えると二人も頷いて答えてくれる。
でも、本当に怪我が治ってよかった。柿やリンゴも同じような効果があったらかなり有利にことを進められるな。といってもけがをするつもりはないけど。
そういえば、ゾンビたちはどうやってゾンビになってるんだ? ゾンビたちを調べる必要があるな。歯形が付いてたりしたらかまれたらってことになる。
「まあ、考えるよりも行動だな。おなかもいっぱいになったし、作業に戻るよ」
「あ! 僕も手伝います」
「いや、カズキ君はまだ休んでな。けがが治ったのは外だけだよ。ミカンちゃんは血も出てるんだから一週間は安静にね」
カズキ君は優しいから無理してしまう。僕はずっと作業に没頭しちゃうだろうから一緒になって働いてたら大変なことになる。まだまだ休んでもらおう。お父さんを埋葬するなんてこともさせてるから、気を休める時間も必要だろう。
「さて、全部落としてあるからこいつから」
マンションの玄関を出て声を上げる。
マンションの通路で倒したゾンビも全部落としておいた。こうやってみると凄い数を倒したもんだ。穴を掘るのも一苦労だな。
「カズキ君のお父さん。隣に埋めていくので騒がしくなりますがすみません」
カキ子とリン子の横でもあるから二人にも悪いけど、我慢してもらおう。
「ハァハァ、流石にきつい……」
地下のゾンビは流石にエレベーターで運んできた。それも合わせると28体程になった。それを埋められるほどの穴をほるにはさすがにきつい。
そもそも、普通の庭ってそんなに深く掘るために作られていないからレンガで囲ってあるんだよ。それよりも深く掘るにはこんなスコップじゃ無理。結局素手での作業になってしまった。
流石の僕のステータスでも無理だと思ったんだけど、何とかなっていく。それでも爪の間に土が凄いことになって大変。はぁ~、怠惰な日々が懐かしい。
「それにしても歯形の怪我はなかったな……」
ゾンビの体はちゃんと調べた。歯形の傷はなかったんだよな。一番驚いたのはエンドウだ。
奴は普通の状態だった。それなのに死体だと思って近づいたら動き出したんだ。僕に噛みつこうと必死に這いずってきた。骨が折れてしまっていたから立てなかったけど、立てていたら襲ってきただろう。
僕は奴のことを二度殺めて埋めている。ちょっと前まで普通に寝ていた僕、あの時じゃ考えられない状況だな。
「ゾンビにかまれてなったんじゃないとなると何が原因なんだろう」
やっとこさ堀った穴にゾンビを入れていく。幅6メートル、深さ10メートル程掘れて何とか入れられた。なんか嫌な光景だけど、世紀末だから仕方ない。すっかり日が落ちてきてる。そろそろ戻らないとみんなが心配する。
「ん!? 救急車?」
マンションに戻ろうと思ったら救急車のサイレンの音が聞こえてきた。僕は急いで屋上にあがる。
「やっぱり生存者が他にもいる」
僕らが生きていたように他にも生きている人が相当な数いる。隣のマンションにだっているかもしれない。これならもしかしたらミサトちゃん達のお母さんも……。
屋上にたどり着いてカメラを起動させる。盗撮のためなのか、エンドウは望遠レンズも持っていた三脚もあった。まったく、ため息しか出ないな。
まあ、今はそのおかげで救急車を確認できたけど。
「大きな病院はミサトちゃん達のお母さんの病院が一番近い。やっぱりそこに向かってるみたいだな」
サイレンを鳴らしている救急車は思った通り、その病院に向かってる。確か、【藤堂病院】とかいう名前だったかってそんなことはどうでもいいか。でも、やっぱり生存者は普通にいるんだ。車を見つけて運転できるようにしていってみるしかないか。
ルートはあの救急車と同じルートで行けば進めるだろう。車は結構放置されてるから進めないと思ったけど、そこは流石日本、道の端っこに寄せているおかげでギリギリ進めそうだ。
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