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第8話 生存者
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「ミサトさん、逃げて」
「カズキ君! あなた、何をしたかわかってるんですか!」
階段を駆け上がり声のする方向へと駆ける。声だけが聞こえてきてカズキ君が何かされたということがわかる。
生存者がいたってことか。
「うるせぇ! てめぇは自分の心配してろ!」
「キャ!」
知らない男につかみかかられているミサトちゃん。服をナイフで破かれてる。こんなやつも生存してるとは……。
「やめろ!」
「な!? なんだお前は!」
ナイフを持つ手をつかみ止める。ギリギリと男の腕を握る手に力をこめる。だんだん顔色を変えていく男、すぐに膝をつくことになる。
「や、やめてくれ! 腕を離してくれ~」
懇願する男を見下ろす。ミサトちゃんに顔を向けると彼女は首を横に振ってこたえる。その時ふと気になった。ミカンちゃんが見えない。
「ミカンちゃんは?」
「その人に刺されて……」
涙を流しながら僕の疑問に答えるミサトちゃん。
僕は男の腕を握りつぶす。男は悲鳴を上げて握りつぶれた腕をかばってうつぶせに倒れる。
「こいつはゾンビだ……」
目や体が熱くなるのを感じる。僕は呟いて男の足を踏み潰す。悲鳴も聞こえないほどの熱を体に感じる。僕はもう止まらない。
「な、なにをするつもりだ! や、やめろ~!」
男を担ぎ上げてマンションから放り投げる。男は何か言っていたみたいだけど、僕の耳には届かない。
「マナブさん……。ミカン!」
ミサトちゃんがハッと思い出すように部屋に入っていく。僕はカズキ君に視線を送ると頷いて答えてくれる。自分はいいからミカンちゃんをってことか。僕はミサトちゃんについていく。
部屋に入るといい匂いがして少しホッとしていると、血だらけのミカンちゃんが視線に入る。
「お、お姉ちゃん……」
「ミカン……」
ミカンちゃんは意識はある様子。切られたのは肩か血は派手に出ている。輸血ができない今の環境では……。
口にしたくない結論に僕は考えるのをやめる。
「とにかく傷口を見よう止血用のタオルを持ってきて」
「はい……」
彼女達の部屋、ミサトちゃんならタオルのあるところがわかるだろう。
「あの男の人は?」
「はは、僕らの心配はいらないよミカンちゃん。あの人はどっかにいった」
「よかった……」
優しいミカンちゃんは僕らの心配をしてくれていた。傷口を見ると血の量にしては浅い傷だった。
これなら命の別状はないかもしない。僕は素人だから何とも言えないけど、栄養付けて寝ていれば治る。
「ミカンは大丈夫ですか?」
「ああ、これなら大丈夫だと思うよ。あくまでも素人の僕の考えだけどね」
ミサトちゃんがタオルをもって心配そうに質問してくる。僕はタオルを受け取りながら答えるとミカンちゃんの傷にタオルを押し付ける。
「痛い」
「痛いって思うのは生きてる証拠だ。しばらく安静だよ」
痛がるミカンちゃんの頭をなでる。ほんと良かったけど、油断したな。
まともな人間ばかりじゃないんだ。法が関係なくなったと暴れまわる犯罪者たちも生まれてる。ゾンビ映画のよくある展開だ。ゾンビが飾りになって人との戦争が起こる。生存者のほうが危険なんだ。それなのに僕はみんなから離れてしまった。僕のせいだ。
「……カズキ君を見に行ってくるよ」
「はい……」
至らない自分に嫌気がさして声を上げる。ミサトちゃんはそれにこたえて僕の代わりにミカンちゃんのタオルを抑えてくれる。仲のいいしまいだ。彼女はすぐに頭をなでてあげてる。
「マナブさん」
部屋から出るとカズキ君が背中を抑えながら声を上げる。突き飛ばされて背中を壁に打ったのか。何だったんだあいつは。
「ミサトちゃんに聞くのも嫌な思いをさせると思って聞かなかったんだけど、あいつはなんだったんだ?」
「……支離滅裂でした。『僕の彼女にしてあげる』とか言ってミサトさんに近づいてきて。ナイフが見えてミカンちゃんがかばったんです」
はぁ、なるほどね。壊れてる人だったのか。でも、聞いて安心した。そんな人を近くにおいておけるほど、余裕はない。始末しておいて正解だ。……。
「それにしても凄かったです、マナブさん! あんな大人の人をぶん投げて! スーパーヒーローみたいでした!」
カズキ君は興奮している様子で褒めてくれる。スーパーヒーローか、彼らも初めて人を殺した時、何をかんがえていたんだろう。
僕は初めて人を殺してしまった。意識すると奴の顔が思い浮かんでしまう。思い出したくもないのに、考えたくもないのに視線に顔が浮かんでくる。犯罪者を殺めただけだと、正義を掲げても無意味、これが命を取るということなのかな。
でも、そんな弱気になっている場合じゃない。とにかく今はみんなを優先に考えないとな。そうすることで気にならなくする。すぐに忘れてやる。
「僕もマナブさんみたいに。うっ……」
「大丈夫か、カズキ君!」
興奮して話す彼は頭を押さえて倒れこむ。何とか受け止めることができたけど、彼もけがをしているのか。
「どこを打ったかわかる?」
「背中と頭を」
背中から壁に衝突して頭もか。カズキ君の説明に納得して頷く。彼も安静が必要だな。ミカンちゃんと一緒に寝かせておこう。
「ミサトちゃん、カズキ君の事もお願いできるかな」
「すみません……」
カズキ君を背負って戻るとミサトちゃんが驚いた表情で迎えてくれる。破れた服を直す暇もない。目のやり場に困るな。
「「スゥスゥ……」」
「よかった」
布団に寝かせると二人が眠ってくれる。二人の寝顔を見てミサトちゃんが安心してる。
「私のせいで」
ミサトちゃんは小さくそう声をあげる。はぁ~、僕と同じようなことを考えてる。
「君のせいじゃないよ。あいつのせい」
「で、でも、私がもっと」
「君は君のできることをやってるよ」
これ以上自分を傷つけてほしくなくて声をあげる。彼女はそれでも納得できない様子だ。
「お母さんなら、お母さんなら看護師だから。ミカンだってすぐに治るように」
「ここにいない人の話はダメ。起こってしまったことを後悔してもダメ。これからの事を考えなさい。正直、君だけが頼りだよ。二人が傷ついて倒れちゃったんだから」
料理は焼くだけしかできない僕だ。二人のための料理なんてできない。それにまだ生存者がいるかもしれない。マンションをくまなく調べないと。
「……わかりました。私なりに頑張ってみます」
「その意気だ」
ミサトちゃんがやる気を出してくれた。これで少しは前を向いてくれるかな。
夕日が落ちていく。夜がやってくる。それなのに僕は疲れていない。ステータスのおかげか、はたまた……。
「カズキ君! あなた、何をしたかわかってるんですか!」
階段を駆け上がり声のする方向へと駆ける。声だけが聞こえてきてカズキ君が何かされたということがわかる。
生存者がいたってことか。
「うるせぇ! てめぇは自分の心配してろ!」
「キャ!」
知らない男につかみかかられているミサトちゃん。服をナイフで破かれてる。こんなやつも生存してるとは……。
「やめろ!」
「な!? なんだお前は!」
ナイフを持つ手をつかみ止める。ギリギリと男の腕を握る手に力をこめる。だんだん顔色を変えていく男、すぐに膝をつくことになる。
「や、やめてくれ! 腕を離してくれ~」
懇願する男を見下ろす。ミサトちゃんに顔を向けると彼女は首を横に振ってこたえる。その時ふと気になった。ミカンちゃんが見えない。
「ミカンちゃんは?」
「その人に刺されて……」
涙を流しながら僕の疑問に答えるミサトちゃん。
僕は男の腕を握りつぶす。男は悲鳴を上げて握りつぶれた腕をかばってうつぶせに倒れる。
「こいつはゾンビだ……」
目や体が熱くなるのを感じる。僕は呟いて男の足を踏み潰す。悲鳴も聞こえないほどの熱を体に感じる。僕はもう止まらない。
「な、なにをするつもりだ! や、やめろ~!」
男を担ぎ上げてマンションから放り投げる。男は何か言っていたみたいだけど、僕の耳には届かない。
「マナブさん……。ミカン!」
ミサトちゃんがハッと思い出すように部屋に入っていく。僕はカズキ君に視線を送ると頷いて答えてくれる。自分はいいからミカンちゃんをってことか。僕はミサトちゃんについていく。
部屋に入るといい匂いがして少しホッとしていると、血だらけのミカンちゃんが視線に入る。
「お、お姉ちゃん……」
「ミカン……」
ミカンちゃんは意識はある様子。切られたのは肩か血は派手に出ている。輸血ができない今の環境では……。
口にしたくない結論に僕は考えるのをやめる。
「とにかく傷口を見よう止血用のタオルを持ってきて」
「はい……」
彼女達の部屋、ミサトちゃんならタオルのあるところがわかるだろう。
「あの男の人は?」
「はは、僕らの心配はいらないよミカンちゃん。あの人はどっかにいった」
「よかった……」
優しいミカンちゃんは僕らの心配をしてくれていた。傷口を見ると血の量にしては浅い傷だった。
これなら命の別状はないかもしない。僕は素人だから何とも言えないけど、栄養付けて寝ていれば治る。
「ミカンは大丈夫ですか?」
「ああ、これなら大丈夫だと思うよ。あくまでも素人の僕の考えだけどね」
ミサトちゃんがタオルをもって心配そうに質問してくる。僕はタオルを受け取りながら答えるとミカンちゃんの傷にタオルを押し付ける。
「痛い」
「痛いって思うのは生きてる証拠だ。しばらく安静だよ」
痛がるミカンちゃんの頭をなでる。ほんと良かったけど、油断したな。
まともな人間ばかりじゃないんだ。法が関係なくなったと暴れまわる犯罪者たちも生まれてる。ゾンビ映画のよくある展開だ。ゾンビが飾りになって人との戦争が起こる。生存者のほうが危険なんだ。それなのに僕はみんなから離れてしまった。僕のせいだ。
「……カズキ君を見に行ってくるよ」
「はい……」
至らない自分に嫌気がさして声を上げる。ミサトちゃんはそれにこたえて僕の代わりにミカンちゃんのタオルを抑えてくれる。仲のいいしまいだ。彼女はすぐに頭をなでてあげてる。
「マナブさん」
部屋から出るとカズキ君が背中を抑えながら声を上げる。突き飛ばされて背中を壁に打ったのか。何だったんだあいつは。
「ミサトちゃんに聞くのも嫌な思いをさせると思って聞かなかったんだけど、あいつはなんだったんだ?」
「……支離滅裂でした。『僕の彼女にしてあげる』とか言ってミサトさんに近づいてきて。ナイフが見えてミカンちゃんがかばったんです」
はぁ、なるほどね。壊れてる人だったのか。でも、聞いて安心した。そんな人を近くにおいておけるほど、余裕はない。始末しておいて正解だ。……。
「それにしても凄かったです、マナブさん! あんな大人の人をぶん投げて! スーパーヒーローみたいでした!」
カズキ君は興奮している様子で褒めてくれる。スーパーヒーローか、彼らも初めて人を殺した時、何をかんがえていたんだろう。
僕は初めて人を殺してしまった。意識すると奴の顔が思い浮かんでしまう。思い出したくもないのに、考えたくもないのに視線に顔が浮かんでくる。犯罪者を殺めただけだと、正義を掲げても無意味、これが命を取るということなのかな。
でも、そんな弱気になっている場合じゃない。とにかく今はみんなを優先に考えないとな。そうすることで気にならなくする。すぐに忘れてやる。
「僕もマナブさんみたいに。うっ……」
「大丈夫か、カズキ君!」
興奮して話す彼は頭を押さえて倒れこむ。何とか受け止めることができたけど、彼もけがをしているのか。
「どこを打ったかわかる?」
「背中と頭を」
背中から壁に衝突して頭もか。カズキ君の説明に納得して頷く。彼も安静が必要だな。ミカンちゃんと一緒に寝かせておこう。
「ミサトちゃん、カズキ君の事もお願いできるかな」
「すみません……」
カズキ君を背負って戻るとミサトちゃんが驚いた表情で迎えてくれる。破れた服を直す暇もない。目のやり場に困るな。
「「スゥスゥ……」」
「よかった」
布団に寝かせると二人が眠ってくれる。二人の寝顔を見てミサトちゃんが安心してる。
「私のせいで」
ミサトちゃんは小さくそう声をあげる。はぁ~、僕と同じようなことを考えてる。
「君のせいじゃないよ。あいつのせい」
「で、でも、私がもっと」
「君は君のできることをやってるよ」
これ以上自分を傷つけてほしくなくて声をあげる。彼女はそれでも納得できない様子だ。
「お母さんなら、お母さんなら看護師だから。ミカンだってすぐに治るように」
「ここにいない人の話はダメ。起こってしまったことを後悔してもダメ。これからの事を考えなさい。正直、君だけが頼りだよ。二人が傷ついて倒れちゃったんだから」
料理は焼くだけしかできない僕だ。二人のための料理なんてできない。それにまだ生存者がいるかもしれない。マンションをくまなく調べないと。
「……わかりました。私なりに頑張ってみます」
「その意気だ」
ミサトちゃんがやる気を出してくれた。これで少しは前を向いてくれるかな。
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