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第四章 平穏

第二話 夢

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「スリンさん、お久しぶりです」
「おお、お帰り」
「ルークお兄ちゃん!」

 木に扉が付いているような外観の二階の入り口から小鳥のさえずり亭に入るとスリンさんとルルちゃんが迎えてくれた。ルルちゃんはすぐに僕に飛びついてきて僕はそのまま高い高いしてあげると満面の笑みで喜んでくれた。

「こら、ルル。ルーク達も長旅で疲れているんだから、それくらいにしてやりな」
「え~、そうなの?ルークお兄ちゃん」

 スリンさんに怒られるとしょんぼりしてルルちゃんが訪ねてきた。僕は全然かまわないだけど。

「じゃあ代わりに僕が高い高いしてあげるよ」
「わ~、ユアンお兄ちゃんだ~」
「合流できたんだね」

 ユアンが僕の代わりにルルちゃんを抱き上げた。そう言えばユアンもここに泊まったって言っていたね。

「ルークの部屋はそのままにしてあるから好きに使いな。エリントスの英雄の部屋ってことでずっとそのままなんだよ」
「ええ、そんなことしなくてもいいのに」
「いいんだよ。私がそうしたいだけだからさ」

 英雄が泊まった部屋か。何だかエリントスの英雄の肩書は外れそうにないな~。

「じゃあルーク。私は一度お店の方に行ってるね」
「えっ、モナーナさんのお店があるんですか?」

 そういえば、ルナさんにはそのことを話したことなかったね。

「ルナさんも来る?」
「はい、ルークさんのアイテムもありそうなので見てみたいです」

 モナーナとルナさんは一緒にモナーナ魔道具店にいくみたい。僕は知り合いにあいさつでもしに行こうかな。バイスさんとリック君、あとは久しぶりのエリントスの端仕事をしてあいさつしよう。

「とりあえず、部屋に行って手荷物だけでも置いていこうか」
「ルルも手伝う!」
「はは、大丈夫だよ。ルルちゃんに持ってもらうほど大きなものもないし」
「ダメ、私が持つの」
「ルルちゃんにはかなわないな~」

 ルルちゃんが頑なに荷物を持ちたいといってきたのでアイテムバッグの入っている大きなバッグを渡した。ルルちゃんよりは小さいけど結構大きいからまるでバッグに足が生えているみたい。なんだが可愛いな。

「お客様、お部屋はこちらです」
「はい、ありがとうございます。これはお礼だよ」
「わ~、これはなーに?」
「王都のお土産だよ。黒砂糖っていう東の国の砂糖を溶かして固めた物なんだ。確か名前はべっこう飴とか言ったかな」

 王都には珍しいものがいっぱいあった。あまり回る時間もなかったけど祭りをし始めるといろんなものがあって目移りしてたんだ。他にもいろいろ手に入ったので製作の案を色々考え中です。

「あれ?何だか眠くなってきちゃった」
「僕も安心したら眠たく・・・」

 ベッドに座っていると眠くなってきてそのまま横になってしまった。僕とユアンは色々あったので疲れているのかもしれない。体力的には十分余裕があったはずなんだけどね。







「ルーク、ルーク」
(お父さん・・・)

 景色がぼやける。草原に横たわる僕にお父さんが体をゆすって起こしてくれた。とてもイケメンなお父さん、黒髪ロングなお父さん。凄くかっこいい。

「いいかルーク。剣っていうのはこう扱うんだぞ」

 剣を振るうお父さん、剣が早すぎで見えない。それもそのはず、僕は一歳くらいの子供に戻っていたのだから。これは昔の記憶の夢なんだね。何だか悲しくなってきちゃった。

「ビエ~ン」
「おっとっと、怖かったか?ルークも男の子なんだからこんなことで泣いちゃだめだぞ」
「ちょっとカイト、ルークを連れて行ったと思ったら剣を見せているの?まだ早いんじゃない?」
「いやいや、こういうことは早い方がいいだろ?」

 お母さんとお父さんが教育方針で喧嘩をしている。何だか面白い。

「キャハキャハ」
「ははは、面白いか」
「ふふ、何だか幸せすぎて怖いわね」

 二人は僕の頬をツンツンと突っついてほほ笑んだ。このまま、二人がいれば、僕はカテジナさんと一緒にいられなかった。確かに14歳まではこき使われていたけど、そのおかげでユアンとも親密になれたし、モナーナやエリントスのみんなとも会えた。今思うと僕のお母さんがカテジナさんでよかったなんて思ってしまう。

「アキノの子供もルークと同い年だな。あと14年もすれば成人してこの世界で花を咲かせるんだろうな」
「そうね。どうか、平和な時代でありますように」
「大丈夫さ。いざとなったら俺が本気出すよ」
「ふふ、そうね。でも、私だって本気だすんだからね。ルークを守るのは私の魔法よ」

 お母さんが天に祈りながら話しているとお父さんが後ろから抱きしめて話した。お母さんは魔法使いなのか手から色々な魔法を指に纏っている。やっぱり異世界人は勇者だっていうのは本当みたいだね。

「ちょっと寒くなってきたな」
「そうね。そろそろ家に帰りましょ」

 お母さんが僕を抱き上げると僕の夢は暗転していった。

 とても幸せな夢、二度と得られない温もりで僕はベッドを涙で濡らしてしまう。
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