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第三章 王都リナージュ

第一話 王都

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「[エタニティ]ユアンの凱旋だ」
「きゃ~、ユアン様素敵~」
「あれが災厄の白き龍か!人にも化けられるのか」

 王都リナージュにユアンが帰還した。人々は歓喜の声をあげ、シャラを見るとみんな怪訝な顔をしていった。ユアンは営業スマイルでそれに応えて王城への大通りを歩いて行く。王都の中央まで歩くと白馬が用意されていて騎士に乗るように促される。その時、ユアンは何を思ったかシャラを抱き上げて白馬に乗った。騎士はその姿が美しすぎた事で注意する事を忘れている。

「おい、ユアン。俺を抱き上げていいのか?」
「え?嫌だった?」
「いや、そうではないんだが。俺は災厄の龍と恐れられているんだぞ?」
「みんな喜んでいるから良いんじゃない?」

 白馬に乗った美男子が美少女の姿をした龍を抱き上げている。その姿はまるで絵本に出てきたかのような英雄の姿であった。見る者すべてを魅了してユアンは王城への階段を白馬で上っていく。階段には幾人もの騎士達が端に並びユアンという英雄の凱旋を歓迎している。

「ああ、ユアン様お帰りなさいませ。お怪我はありませんか?」
「アリス様わざわざ迎えてくれてありがとうございます。怪我はすぐに治したので大丈夫です」

 階段を上りきると純白のドレスを着た少女が立っていた。その少女はアリス、ティリスの姉にして王都リナージュの第一王女。彼女はユアンを見つめて頬を赤く染める。ユアンの帰還を喜びユアンに見惚れている。

「ユアン様、お父様がお待ちですよ」

 白馬から降りるユアンにてを貸すとユアンはその手にそっと触れて馬から降りた。アリスの手には一グラムも重さを感じさせずに降りた事でユアンの優しさを感じたアリスは、更にユアンに惚れていくのだった。

「おお、[エタニティ]ユアン、息災であったか!」

 王冠を被った金髪の男がユアンを抱き上げる。173センチのユアンを軽々と持ち上げているのを鑑みるとこの男も強い事が伺える。それもそのはず、この男こそ王都リナージュの王、バルト王その人である。ユアンに向ける笑顔はまるで家族に向けるそれである。

「バルト様、恥ずかしいですよ」
「はっはっは、すまんすまん。未来の息子に嫌われてしまうな」
「ハハハ、ご冗談を」
「冗談か、はっはっは、やはりユアンは無欲だな~。ますます、気に入った。アリスの夫はやはりお前に決まりだ!」
「あらあら、お父様ったら嫌ですわ」

 ユアンは激しくバルト王に好かれているようで話ながら背中をバシバシ叩かれている。バルト王の言葉にアリスも恥ずかしそうにしているがまんざらでもないようだ。

「その災厄の龍の捕獲を一人でなしてしまうとは、今までの英雄が束になっても勝てないのではないか?」
「その事なのですが僕一人の力ではありません」
「何!それは本当か?それが本当ならば国で雇用したいところだが」

 ユアンはとうとう黙っていられなくなったようでルークの話をしてしまう。しかし、王の反応はあまり芳しくなかった。

「何!・・・1レベルだと、それは本当なのか?」
「はい、僕の兄さんで僕よりも強いんです」
「ユアンよりも・・・伝承は本当だったという事か・・」
「バルト様?」

 ユアンの話を聞いてバルト王はブツブツと独り言を話して考え込んでいる。ユアンの心配などお構いなしで玉座の間の奥の部屋へと入っていってしまった。

「お父様?・・・ユアン様すみません。父は少し疲れているのかもしれません」
「そうですね。シャラの事なんてお構いなしでしたもんね」
「ふむ・・・」

 アリスがバルトの心配をするとユアンも首を傾げてシャラを見た。シャラはバルト王の様子を見て何か意味深な笑みを浮かべる。

「取りあえずシャラは僕の屋敷に連れて行きますね」
「大丈夫なのですか?」
「隷属の首輪がありますから大丈夫です。僕の指示には逆らえません」

 シャラはルークの作った隷属の首輪に支配されている。ユアンの命令を聞くように言われているのでシャラはそれに逆らえないのだ。つくづくルークの作る物は規格外と言える。

「伝説の生き物を使役してしまうなんて、その隷属の首輪はどんな方が作られたのですか?」
「・・・拾い物なのでわかりませんけど、そんなに凄い物なんですか?」
「はい、魔族の王が使役しているアースドレイクでさえ特別な魔道具で使役していますのに伝説の龍を使役するなんて、正直信じられません」

 ユアンもこういった魔道具関係の事は無知に近かった。アリスの言葉を聞いて、しまったと思ったユアンであった。
 アリスの言葉を聞くとどれだけ凄い事をしてしまったのかが伺えるが当の本人であるルークは何も気付いていなかった。伝説である龍を使役できるという事はどんなものでも使役できてしまうという事、それはどんな魔物よりも恐ろしく、権力を持っているものに恐怖を与える存在。
 ユアンは隷属の首輪を作った人を口にしないと神に誓った。ルークの身の危険を感じてしまったのだ。ルークの事を知ったバルト王が入っていった奥の部屋を見てユアンはため息をついた。
 肩を落としてユアンはカテジナの待つ屋敷に歩いて行くのだった。


「ユアン!」

 屋敷に入ってすぐ、ユアンはカテジナに抱きしめられた。外の歓声がここまで聞こえていたので帰ってくるだろうとカテジナは玄関で待っていたのだ。ユアンはこんなにも母であるカテジナが喜んでいる事に驚いている。

「母さんどうしたんですか」
「どうしたって、久しぶりに母さんに会ってそんな言葉しかでないのかい?それに親子の時は娘らしくしなさい」

 カテジナは久しぶりの親子水入らずを喜んでいるのだがユアンはそれに気付かずに唖然としている。
    カテジナは娘としてユアンを育てたつもりだったのだが、いつの間にか息子として育ってしまった事を残念に思っていた。しかし、その目的がルークだという事をカテジナは分かっている。なので好き勝手させていたのだが親子だけの時は娘として接して欲しいと願っていたのだった。

「母さん、僕は男なんです。そう言うのは諦めてください」
「そんな事言ってもね。アリス様の事は知っているんだろ?婚姻を申し込まれたらどうするんだい?」

 アリスはもちろんの事、父であるバルトにも好かれているユアン。女だと分かったとたんに二人の態度は大きく変わってしまうかもしれない。それを危惧しているカテジナは親として当たり前の心配をしているのだろうことが伺える。

「その時は断るだけだよ。遠くで僕を待っている人がいますとか適当な事を言って王都を旅立てば大丈夫でしょ」
「私としてはここを故郷にして暮らしてほしいと思っているんだけどね」

 ユアンの話にカテジナは遠回しに家族で暮らそうと話している。カテジナは今までの事もあるので正直に意見を言えないでいる。

「その中に兄さんがいないんだったら寛容できないよ」
「もちろん、ルークもいるわよ。私は家族で仲良く過ごしたいって言っているの」
「えっ」
「なによ」

 カテジナの言葉にユアンは驚きを隠せないでいる。カテジナは少し、寂しい思いをした事で家族の暖かさを欲した。ユアンに会った事でその波は大きくうねって温かい家庭を夢見てしまったのだ。

「それなら考えてもいいけど、そうなると王都では暮らせないかもね。バルト様とアリス様のお誘いを断らないといけないわけだから」
「ルークがアリス様と結婚すればいいんじゃないのかい?そうすれば・・・禁句だったね」

 ユアンが王都を出なくちゃいけないと言うとカテジナはよりにもよってルークをアリスと結婚させると言い出した。ユアンは殺気のこもった目でカテジナを見る、カテジナはそっぽを向いて俯いた。

「兄さんは僕の物、僕以外じゃ。モナーナさんかニャムさんにしかあげないもん・・・」

 ユアンは頬を膨らませて子供のように怒った。モナーナとニャムはユアンと親友になった。秘密を共有する事で芽生えた友情である。一緒に子供達の服を買いに行ったり試着室で可愛い服を着せてくれたりしてまるで女の子のように振舞えた。ユアンが夢にまで見た女の子のように。

「ユアンにも心許せる友達ができたんだね」

 カテジナの目には大粒の涙が溜まって落ちた。小さなころからユアンは自身を男の子として育ててほしいと言ってきて、今に至る。カテジナは女の子らしく育てたかったがユアンを尊重して男の子として接してきた。女だと分かると貴族にユアンを取られると思っていたカテジナと貴族に婚姻を求められると思っていたユアンの意見が一致したのだ。カテジナはやっと本当の自分をさらけ出せる友達を得たユアンに喜びの涙を流したのだった。

「ユアン、今日は久しぶりに一緒に寝ないかい?」
「良いけど」
「そっちの子も一緒に寝る?」
「俺?」

 カテジナはユアンに一緒に寝ようと促す、ユアンが肯定するとカテジナはシャラを見て話した。親子水入らずの再会に水を差さずに玄関の椅子に座って待っていたシャラ。その印象でカテジナはシャラが良い子だと思い、声をかけるとシャラは首を横に振ってこたえた。

「お母さんあれは龍なんだよ」
「災厄の龍とか言うのかい?あんなに可愛いのに?」

 ユアンがシャラを龍と言うとカテジナは首を傾げた。可愛らしい白いドレスを着た少女にしかみえないシャラ、それを見て龍だと思える人はそうはいないだろう。

「でも、こんな広い部屋に一人にしておくのも可哀そうだね。一緒の部屋で寝よう」
「俺は別にいい・・・」
「強がるところが何だか昔の私みたいだね。良いからおいで」
「あっ、何を・・・ううう」

 隷属の首輪によって完全に子ども扱いされるシャラ。カテジナに抱っこされるとベッドまで運ばれる。この日、三人で一番大きなベッドで寝る。

「温かい・・・温もりと言うやつか」

 シャラは一人呟く、初めての感情にシャラは戸惑っているのだった。
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