上 下
58 / 165
第二章 黒煙

第十四話 ユアンの属するクラン

しおりを挟む
 次の日、僕はいつも通り日課の掃除の依頼を受けに来ました。昨日の事もあったので警戒してたんだけど今日はアレイストさんがいたので睨まれるだけでした。

「ルークも[金色の旗]に入るかい?」
「ええ?!」

 睨まれている事に気が付いたアレイストさんが僕にそんな事を言ってきました。僕がユアンの入った、そんな凄いクランに入れるわけないじゃないか。僕は首を横に振った。

「まだ1レベルを引け目に感じているのかい、あんたステータスだってかなり高いだろ?ギルマスから聞いたよ。昨日ここで冒険者に絡まれたんだってね」

 アレイストさんは昨日の事をギルドマスターから聞かされていたようです。

「また、ジグとザグみたいな事になるかもしれないよ。そうならない為にも力を見せるか、クランに入るかした方がいいんじゃないかい?」

 心配しながらそう話すアレイストさん、だけど今の所、僕はクランに入ろうとは思っていません。だってそんな凄いクランに入ったら目立つのは必至だからね。それも1レベルが入るなんて前代未聞でしょ。

「クランには入りませんけど確かに前回みたいなことになるのは困りますね。どうしよう」
「クランに入らないとなるとやっぱり力を見せるべきだよ。ルークはまだEランクなんだから舐められるのは当たり前だしね。ちょちょいとD、Cになってユアンを追いかけてみちゃどうだい?」

 冒険者ランクか~、あんまり急いであげようと思ってなかったけど手っ取り早く力を示すにはいいのかな~。ギルドマスターを倒すっていう手もあるけどそれだと目立ちすぎるしね。

「という事でDランクの試験だ。ここから一日程の距離にある村からの要請でゴブリンの撲滅の依頼だよ。コボルトも楽に倒せる二人なら余裕だろ?あのメイとか言うのも行くんだったら更に余裕だろうしね」
「ゴブリンですか、じゃあ行ってみようかな~」

 ゴブリンなら余裕だろうという事でアレイストさんは依頼の紙を僕に渡した。報酬は銀貨3枚で簡単なゴブリン退治としては高い様な気がするけど・・・

「あの、これ・・」
「つべこべ言わずに受理してきな、他の人にとられちまうよ」

 詳細を聞こうと思ったらアレイストさんに背中を押されてしまいました。仕方なく受理するとアレイストさんは笑って二階に上がっていってしまった。何だか罠にはまった気分です。

 気を取り直して、僕は日課の掃除をしていく、今日は噴水広場の一件にしておいた。この後、モナーナと打ち合わせてすぐにでも向かうからね。ゴブリン達は繁殖能力が高いからすぐに村とかを襲っちゃうから、急いだほうがいいんだ。

「ルーク、お待たせ。待った?」
「ううん。あれ、メイさんは?」
「メイさんはクコを見張っているみたいだから一緒に行けないんだってさ」

 自分が護衛兼見張り役だって忘れているのかな?僕はメイさんに呆れてため息をつく。まあ、ゴブリン位大丈夫だろうって事かな。

「じゃあ、向かってみようか」
「うん」

 僕とモナーナはゴブリンに悩まされている村、キウイ村へと向かった。






「は~~~」
「ルークさんがいなくなってニャムは元気ないわね」

 天まで届くようなニャムのため息がエリントスの冒険者ギルドに木霊する、その姿を見ていたノーラが心配そうに見ていた。ニャムはルークが旅立ってから毎日、でかいため息をついていた。彼女は初めての恋をして告白もしたのだがまだ返事を聞いていないうちにいなくなってしまったので未練が募っているのだった。

「あの~、この街でお兄ちゃんじゃなかった。ルークっていう冒険者はいらっしゃいますか?」

 ため息ついて机にデコをこすり付けていたニャムにルークと同い年位の少年が声をかけた。その容姿はまるで勇者のような装備を身に纏っていてとてもイケメンだ。

「少し前までいたにゃ、あなたはルークのなんにゃ?」

 ニャムは不審ながらも少年に答える。少年はギルドカードも提示しているのでニャムはちゃんと答えた。ニャムは質問をしながらギルドカードの名前を見て固まる。

「にゃ、ユアン様にゃ?」
「あ、はい。そうです。ルークは僕の兄さんで」
「お兄ちゃん!」

 ニャムは尻尾をピンと立たせて椅子から立ち上がった。まさか、ルークが今勇者と名高いユアンと兄妹だとは思っていなかったのだ。その声はギルド中に響いた。

「少し前にいたって事はまたどこかへ?」
「ワインプールに行きましたにゃ」

 少し緊張したニャムはそう答えた。ニャムは顔の整ったユアンを綺麗だと思って見つめる。しかし、そこに恋愛感情が生まれるような事はなかった。ただただ綺麗だと思うだけだった。まるで女神を見ているかのような神々しさを感じるのだった。

「綺麗にゃ・・」
「え?ははは、ありがとうございます。僕は男なので綺麗って言われるのは何だか新鮮ですね」

 ニャムの言葉にハニカミながら答えるユアンは少し嬉しかった。男として見られているユアンはすれ違う人達にカッコイイとは言われるものの綺麗や可愛いなどと言われた事はなかった。男を褒める言葉はかけられるのだが女を褒める言葉をかけられた事はなかった。ユアンは照れて頬を掻く。

「ワインプールですか。黒煙龍の逃げた方角なのでお兄ちゃんに会う口実にしたのですが丁度いいかもしれませんね」

 ユアンはパーティメンバーを王都に残して黒煙龍を追っていた。実質この行動はユアンの身勝手な主張、[金色の旗]ではこれが問題になりユアンのパーティーメンバーの同行を禁止した。行きたければ一人で行けと言われたのだ。ユアンはそれを笑顔で肯定して、今ここにいる。

「ニャムさんありがとうございました。私はすぐにワインプールへ向かいます」
「え?夜も深くなってくるにゃ、ルークの泊っていた部屋が空いているはずだからそこに泊っていけばいいにゃ」
「兄さんの泊っていた部屋!!それは国宝級ですね」

 ユアンの旅を中断させるルークの残り香の残る部屋、威力は絶大だった。

「[小鳥のさえずり亭]はここにゃ」
「おお~、珍しい佇まい。流石、兄さん」

 二階が入口になっている小鳥のさえずり亭に何度も頷くユアン、ニャムの案内で小鳥のさえずり亭に入っていく。

「スリンさん、お客さんを連れてきました」
「あら、直接案内するなんて。凄いお客さんかいって勇者様?」

 珍しい事もあるもんだねとスリンさんが厨房から出てくる。スリンさんはユアンの神々しいオーラに驚いて声をもらした。その声に小鳥のさえずり亭のお客さんみんなの視線がユアンに集まった。

「まさか、君は[エタニティ]のユアン君ではないか?」
「え、はい。確かに僕はユアンですけど、エタニティって言うのは初めて聞きました」

 虎狼のリーダーバッツは驚いてユアンの名を呼んだ。ユアンも驚いて答えるとバッツが近づいて握手を求めた。

「虎狼のリーダー、バッツだ。まさか、エタニティに会えるなんて光栄だよ」
「虎狼のバッツさんですか、噂はかねがね。王都でも有名でしたよ」

 新進気鋭の虎狼は王都でも中々に名がしれている。王都生活をしていたユアンも知っていたようだ。

「今回のワーウルフの襲撃でも名をはせたらしいですね。何でしたっけ?ボーンガーディアンのバッツでしたっけ」
「あ~ははは、お恥ずかしい」

 バッツは頭を掻いて答えた。バッツはワーウルフの襲撃でクルシュの屋敷に向かっていた。クルシュの屋敷のワーウルフ達が冒険者達に気付いて襲ってきたのだ。数はそれほど多くはなかった。しかし、先頭を走っていた虎狼は少し危ない状況だった。

「はあ!ダンク、まだ行けるか?」
「まだまだ大丈夫だが、二人を守ってだと危ないな」

 後衛であるキャシーとフィオナはこういった魔物と相性が悪い、一瞬の気のゆるみが命の危険を招くのだ。戦いながらそう話していると早速ワーウルフの手がキャシー達に届き始める。

「キャ!」
「ハア!大丈夫か?」
「え、ええ大丈夫」
「少し下がろう」

 魔法使いであるフィオナが腕を引っ掻かれた。腕は血で染まって杖を持てないほどだがポーションを買っておいたのですぐに使うと傷はなくなっていった。

「おい、凄い威力だな」
「そうね。エリクサーレベルね」

 回復している様子を見ながらフィオナとダンクが感心している。しかし、そんな暇はなかった。

 ワーウルフ達が動きの止まった僕らを見て襲ってきたのだ。四方から迫るワーウルフ達、僕とダンクは眼前の敵を切り伏せたけど残りのワーウルフがキャシーとフィオナに迫っていた。

「キャ!」
「この~・・・」

 その瞬間信じられない事が起こり、バッツ達は唖然とした。

 バッツの鎧、ボーンアーマーのボンチャンの形が変わり二人を襲おうとしてきたワーウルフの首をはねたのだ。唖然としている間もボーンアーマーは無双していった、辺りのワーウルフ達を撃滅していくのだ。
 
 ボーンアーマーはルークに装備してもらえなかったうっぷんを晴らすように活躍してしまった。冒険者達が当初予定していたよりも早くワーウルフを始末出来たのもバッツ、ボーンアーマーのおかげだったのだ。ルークの作る物はここでも人を救っていた。

しおりを挟む
感想 293

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。 女の子と言われてしまう程可愛い少年。 アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。 仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。 そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた 願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~

処理中です...