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第二章 黒煙

第七話 黒煙龍のクコ

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「治してなのじゃ~」

 あの日から僕は端仕事にせいを出して街の掃除をしています。毎日毎日黒煙龍の幼女が話しかけてきてしつこいったらない。でも、嫌がらせをするわけでもないので思ったよりもいい子なのが伺える。

「クコ?こんな所でどうしたんだい」
「あっ、ワティスさん」

 黒煙龍がクコと呼ばれてワティスと呼んだ綺麗な服を着たおじさんの所へ駆けていった。黒煙龍はクコと名乗っているようでとても仲がよさそう、頭を撫でられて目を細めている。

「あの冒険者さんと遊んでたの~」
「そうか、すいませんね。うちの姪が」
「・・あっいえいえ、僕も子供は好きですから」

 ワティスさんと僕はペコペコとお辞儀をしながら挨拶を交わす。この人は事情を知らないみたい、どういった経緯でこんな関係になったのかしらないけどワティスさんは凄く良い人なのがわかった。

「クコ、お口が汚れているよ」
「えへへ、ありがと~」

 黒煙龍はパンを食べていたんだけどそれが頬に付いていたようでワティスさんに注意されている。黒煙龍はにこやかに笑ってまるでほんとの家族のようだ。

「私は仕事にいくからね。あまりルークさんに迷惑をかけないようにね」

 僕とワティスさんは自己紹介をしあった。幼女を知らない人に任せるのは危ないもんね。

 ワティスさんは白い豪華な建物へと入っていった。

「とても良い人だね」
「ああ、知らないわらわをこの街にいれてくれた人じゃ。盗賊に襲われたと思って甲斐甲斐しくも面倒を見てくれているのじゃ。恩を返す為にも早く眼を治して欲しいのじゃ」

 やっぱり、盗賊を襲ったのは黒煙龍だったみたいだね。
 ワティスさんとの関係を見ると助けてもいいかな~って思うけど、治ったら豹変するんじゃないだろうか。とても悩みます。

「早くわらわが治らんと困るんじゃがな~」
「そう言われてもユアンに復讐するんでしょ?兄としてそれは見過ごせないよ」
「復讐か・・それならわらわの方にも言い分はあるぞ。儂はあの山でのんびり暮らしておったのじゃ食い物も魔力を使わなければ抑えられるからの一日一匹の魔物で過ごしておったのじゃ。そこへ鎧を着た騎士が来てな、心臓をよこせとか抜かしたもんだから食らってやったのよ。そうしたら複数の人間達がわらわを倒そうと襲ってきよった。全く迷惑この上ないことじゃ」

 騎士の人が心臓を欲しがったのか、という事は黒煙龍は正当防衛・・・でも食べちゃうのはよくないよね。てかやっぱり怖い存在なんだな。

「誰かを殺したらやっぱりその人の属している国とかから目をつけられちゃうよ。僕も前の街で目立っちゃって困った事があるもの」
「そういうもんかの~。わらわは同族が討たれても復讐なぞ考えた事もないが、しいていえばライバルが減ったと考えるのだが」

 龍の常識を話されても困る。でもそんなに冷たい龍なのにワティスさんに向ける目はとても信頼のおけるものだった。何かあったのかな?

「それにしてはワティスさんには温かい目をしていたね。何だかお父さんを見るような」
「・・・信頼のおける者は大事にしたいとは思う。ハッキリと言ってしまうと龍とはあまりいい存在ではない。数えられるほどの者しか良い心を持った者はいないのだ。ただでさえ少ない我ら龍種であるのにともに食らい合っておるしな」

 なんだか悲しいな。争い合っているから死んでも知らないか。ワティスさんへは特大の信頼を置いているって事だね。

「じゃから治して」
「そんな潤いを帯びた目で見てもダメな物はダメだよ。取りあえず信頼のおける人がギルドにもいるだろうからその人と話してからだよ」
「わらわのことを話すのか?」
「この街にいる事は話さないよ。混乱するだろうからメイさんもそのつもりで手紙を書いたはず、対話ができたらどうするか聞いて判断を仰ぐって感じかな」

 黒煙龍のクコは頷いてホッとしている。やっぱり、それほど人を憎んでいるわけじゃないみたい。

 クコと話ながら残りの掃除を済ましていく。今日は6か所の掃除をしました。見違えるようにピカピカになって何だか誇らしい。もちろん、素材もいっぱい、素材だけでお城が出来ちゃうほど手に入りました。アイテムバッグがいっぱいになってしまうかと思ったけどまだまだ警告の色は緑です。



「ここがお前達の泊ってる宿屋かの?」

 掃除を終えて宿屋に帰ってきたんだけど黒煙龍のクコもついて来てしまった。まだダメだと言っているのに治してとしつこいったらないです。

「嗜む子牛亭か、中々に住宅から離れているからわらわも気をつけなくても大丈夫そうじゃな」
「流石に龍にはならないでよ」

 畑で見えないとはいえ、龍のサイズになったら流石に見えちゃうからね。

「わかっておるわ。しかし、欠損も治せるようなお主がこんな宿屋に泊っておるのか?」

 僕の事を何か勘違いしているのかおかしなことを言っています。別に僕はお金持ちじゃないんだけどな。

「僕はお金持ちじゃないよ」
「そうじゃそれじゃ。人の世とはおかしな世界じゃな。強くてもお金が無くては暮らせん、お主のように能力を持っていても大っぴらにできずに影に隠れてしまう。何ともおかしな世界じゃ」

 今までの僕の行動を見ていてクコは隠していると思ったようだ。そんなにわかりやすいのかな?

「ルークさんお帰りなさい」

 宿屋に入るとカルロ君が迎えてくれた。

「何じゃこの可愛い存在は!」
「あう、この人は誰ですか?」

 クコがカルロ君に近づき撫でまわしている。確かにカルロ君は可愛いが撫でまわし過ぎです。

「お主も可愛いと思ったがそれ以上がいようとは」

 クコもモナーナとメイさんみたいなことを言っている。何でそこで僕が出てくるんだろう。リバーハブ村は若い人が少なかったからよくわからなかったけど僕って可愛いのかな?ユアンの方が可愛いと思うけどな~。

「ルークさん・・助けて」
「カルロ君、僕には無理だよ。飽きるまで撫でられて」
「そんな~」

 カルロ君はうなだれながらクコに撫でられている。傍目には子供同士で抱き合っているように見えるので何だか微笑ましい。

「じゃあ、ルーク君、カルロの代わりに掃除を頼んだよ」
「ええ~、製作しようと思ったのに」
「お願いします」

 因果応報、カルロ君をクコの手から守れなかったせいで僕は宿屋の掃除をしなくちゃいけなくなりました。

 やると決まったら僕は100%の力でやっていきます。水の湧く桶を置いてモップ掛け、僕のスキルのおかげでモップをかけるとモップが触った範囲から半径1mほどが綺麗になっていく、普通にモップをかけても取れないような油汚れもするっとモップに吸い込まれて行く。スキルって凄い。

「いや~見事な掃除技術だな。うちにほしいよ」
「いえいえ、スキルのおかげです」
「スキルって事はそれだけ掃除をしているって事だろ。それならそれはルーク君の力だよ」

 そうなのかな。僕の力か、掃除なんてしょうもない事だけど僕の唯一誇れることなのかも。他の力は反則で得られた事だから誇れないけど掃除や洗濯は僕の努力の結晶なんだよな~。

「ただいまー」
「もどりました」

 モナーナとメイさんが帰ってきた。確か二人でコボルト討伐に向かうとか言っていたけど。僕は遠慮したんだよね。だって、ワーウルフをあれだけ倒したら骨とか毛皮とかいっぱいあるから要らないもん。討伐の合間にメイさんは情報を収集しているわけだ。すごいな~。

「いや~モナーナさんの魔法は何なんでしょうか」
「流石に強すぎるよルーク」

 モナーナの杖が凄い力を見せてしまったようです。ワーウルフとの戦いの後、モナーナも魔法を学んでいる。エアーショットだけじゃなくて火の魔法も学んだらしい、まだ見せてもらっていないので何が使えるのか僕はわかりません。モナーナは火の属性にも適性があったんだね。

「ただ火を出すだけのファイアですら業火のようでしたよ」
「火の魔法系は怖くて使えないね」

 どうやら、風の魔法よりも威力が目に見えて、つよくなっていて危なっかしくて使えないみたい。

「しかも、あのローブですよ。何ですかあれ」
「火の魔法で草が燃えたんだけどそれを吸い取ったんだよ。どういう事なの?」

 細かい説明をしていなかった事でローブに驚いたようです。まさか、僕も火の魔法で燃えた火も吸収するとは思いませんでした。

「って黒煙龍がいる」
「ついてきちゃった。クコって呼んであげて、クコって名乗ってるんだってさ」

 メイさんが驚いていたので黒煙龍の事を伝えると狼狽えていました。少しするとカルロ君とクコの抱き合う姿にメロメロで微笑んでいたから大丈夫でしょう。
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