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第一章 始まり

第二十二話 クルシュ様のメイドさん

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 今日は製作をしていこう、という事で宿屋の部屋に籠ろうと思ったんだけどスリンさんに追い出されました。

「製作ならモナーナの所でやっておくれ。一度は顔を出さないと私が承知しないよ」

 という事らしいです。確かに一日に一回は会わないとダメかなとパーティメンバーとして思ってはいたけど何だか気恥ずかしい。あんなこともあったしね。

 僕は小鳥のさえずり亭を出てモナーナ魔道具店へと歩いて行く。その少しの間にあの時の事を考える。

「僕は凄いか~」

 本当は反則のような能力なんだけどな、と自己嫌悪に陥る。少しずつでも周りに還元していかないとね。
 考えながら歩いて行くとモナーナ魔道具店の前にメイドさんとモナーナが立っていた。

「どうしたんですか?」
「あ、ルーク」
「あなたがルークさん?」

 隣のおばさん、プラレさんに聞いた通りクルシュ様のメイドさんのようです。この地域では珍しい黒髪で長髪のメイドさんは黒ぶち眼鏡をクイッとさせて僕を見つめてきた。

「私はプラムと申します。あなたがこの首飾りと指輪を?」
「はい」
「そうですか、では一緒にクルシュ様に会っていただけますか?」
「え?僕がですか?」

 驚いて僕が聞き返すとプラムさんは頷いた。

 有名にならないようにしてきた手前あんまり貴族の人とは会いたくないんだけど、と困った顔でモナーナを見ると目をキラキラさせて肯定の意を示している。元々モナーナは僕の凄さを知らしめたいわけだからそりゃそうだよね。

「今からですか?」
「はい。クルシュ様の要請ですので従わない場合は・・・」
「あ~、なるほど」

 プラムさんの言葉に僕はうなだれる。貴族の命令を守らないと不敬罪とか言われて衛兵さん達から追われる身になってしまう、この場合は軽い罪だけど目立ちたくないよね。

「わかりました。モナーナも一緒で大丈夫ですか?」
「え?私もですか?」

 フフフ、僕だけこんなめんどくさい事になるのは嫌だからね。

「良いんですか?私も一緒にいって」

 僕に顔を近づけてすっごい喜んでる。僕のようにめんどくさいと思っていなかったようで結果的に喜ばせることになってしまった。まあ、いいんだけどさ、なんだか僕が小さい男みたいじゃんってその通りだけど。

「では馬車にお乗りください」

 僕らはプラムさんに促されて馬車に乗って行く。服装は屋敷に着いてから用意してくれるらしい、それだけ僕と早く会いたいみたい。

「クルシュ様に会えるなんて光栄です」
「クルシュ様はとても人の好いお方ですからね。皆さんに愛されています」
「・・そうなんですね」

 それにしては結構強引に僕を連れて行こうとしていますよねプラムさん、僕はため息をつきながら馬車に揺られている。

 クルシュ様の屋敷は城壁の外にある。街を一望できる丘に建てられている屋敷だ。本来城壁内になくてはならないのだがクルシュ様は外に作った。貴族が同じ街にいたら色々と面倒だろうと言って外に作ったらしい。この時点でクルシュ様は民衆を一番に考えている事が伺えるがクルシュ様を狙ってくる夜盗もいるだろうと思うのだがそれも無駄な心配のようです。

「クルシュ様はAランク冒険者に匹敵する方です。夜盗などいかほどの恐怖にもなりません。それに騎士も駐在していますからね」

 だそうです。騎士達も重装備でしっかりと訓練された人達らしく、更にBランク以上の人で構成されている。人数は30と少ないものの精鋭として有名で、それだけで盗賊達はしり込みしているというわけ。屋敷というより要塞なんじゃないかな?

「着きましたよ」

 雑談をしていると馬車は屋敷に着いた。馬車の外には屋敷を囲う壁の内側が見える。

「キレ~」

 モナーナが歓喜の声をあげる。屋敷の庭は噴水を囲うようにピンクの花が咲いていた。左右対称を意識しているような庭はとても綺麗だ。僕も思わず目を奪われる。

「ふふ、お二人共、こちらですよ」

 プラムさんは嬉しそうに笑い僕らに手招きをしている。屋敷も左右対称の建物、玄関に入ると二階の部屋に通された。

「衣装を持ってきますのでお待ちください」

 普通の寝室のような部屋で僕らは待たされるみたいベッドがとても豪華で天幕みたいなものがついてる。窓から見える庭がとても綺麗でモナーナが身を乗り出して見惚れてる。

「こんなお屋敷に住みたいです、ね!ルーク」
「え?・・そうだね。ほんとに綺麗だね」

 窓の外の景色を背景にモナーナが際立って見えて僕はモナーナに見惚れて誤魔化すように庭を見下ろした。

「ふふ、それではお二人共。こちらに着替えていただけますか?」
「「あっはい!」」

 二人で外を見ているとプラムさんから声がかかって振り向いた。プラムさんは愛おしい物でも見るように僕らを見つめている。何だか僕とモナーナは恥ずかしくなり俯いて服を手に取った。

「こんな高価な物、いいんですか?」
「大丈夫ですよ。それはお二人に差し上げる物ですから」
「「ええ!」」

 細やかな装飾がされている洋服を見つめて声を上げた。なんと僕らにこの服をくれるらしいです、怖い怖いよ。

「貰えませんよ!」
「そうです。こんな高価な物もらえません」

 僕とモナーナはそう言って服を手放す。プラムさんはその様子を見て笑い出した。

「お二人は本当に面白いですね。あのような高価な物を安価で売っておいて、この金貨2枚の服を高価だというのですから」

 笑顔で話すプラムさん、ちょっと怒っているようにも聞こえて怖いです。モナーナも怖いのか僕の腕に捕まってる。ああ、お胸が。

「その方々がプラムの持ってきた装飾品の職人さん?」
「ルビリア様」

 僕らが恐怖していると部屋に真っ赤な髪の女性が入ってきた。プラムさんは少し困った顔である。

「その服では嫌だったかしら?」
「えっと、嫌というよりタダで貰うわけには行かなくて」
「あら、そうなのね。じゃあ私に何か珍しい物をいただけないかしら?」

 ルビリアさんはそう言って手を差し出した。手をグーパーしてくるので急かしているのだろう。

 珍しい物って何だろうと思っているとモナーナが腕を引っ張ってきた。

「モナーナどうしたの?」
「ルビリア様だよ」
「ん?そうだね。ルビリア様って言ってるね」

 モナーナが恐縮している、という事はとても偉い人だというのが分かる。

「ちょっと二人でヒソヒソと話さない!早く何か見せてよ」

 ルビリア様は怒った顔で言ってきた。仕方なく僕は最近作り始めた金の指輪をだした。これは側溝の掃除をした時に得た金で作ったもので結構いい出来だと思う。

「あら?金の指輪ね、何だか普通ね。・・・え?」

 ルビリア様は指輪を手渡されるとまじまじと見渡した、指輪の内側を見たルビリア様は驚いて目を見開く。

「まさか、付与されているの?」

 あの金の指輪は回復の魔法が付与されている、単純な回復魔法が使えるようになっているんだけど作った時にモナーナに怒られました。スキルをアイテムに付与するって凄い事らしいです、田舎者なので僕は知りませんでした。ただ売れればいいなくらいの気持ちでしたすいません。

「あの骨細工を見た時から思っていたけどこれほどとはね。これはもらっておくわね」

 ルビリア様はそう言って大事そうに指輪を持っていってしまった。お店で銀貨8枚くらいで売ろうと思ってたんだけど金貨2枚の服に化けてしまいました。それも二着、何だか悪い事した気分。

「では、お二人共、服を着替えてください」

 ベッドの天幕を下ろして目隠しにして僕とモナーナは着替え始めた。

「・・・あの着替えたいんですが」
「お構いなく」

 僕も着替えようとしているのにプラムさんが出ていってくれない。僕が戸惑っているとプラムさんが近づいてきてズボンを下ろそうとしてきた。

「お着替えを手伝いますよ」
「ええ!ちょっと、自分で出来ますよ」
「え?ルーク大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ!」

 プラムさんと小競り合いをしているとモナーナが心配して声をあげる。

「冗談ですよ。では外で待っていますね」
「目が本気でしたよ」

 プラムさんが部屋から出ていってやっと僕も着替えようと上着を脱ぐと目の前に可愛らしい青いドレスを着たモナーナが立っていた。

「どうですかルーク。似合ってますか?」
「凄く綺麗だよ」

 上半身裸で褒めるとモナーナは俯いて照れた。

「着替えていい?」
「あ、ごめんなさい」

 モナーナは気が付いたみたい。僕の上半身を見てベッドの天幕に隠れてしまった。
 
 僕はモナーナの姿に頬を染めて着替えていく。

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