いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第37話 鉄の人形

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「アキム様が言っていたのはこの宿屋だな」

 アキム様の命で雷の宿屋にやってきた。人気のない宿屋と言うのは本当のようで中から声が一切聞こえてこない。
 精鋭である部隊を任せられた俺だが、こんな簡単な任務は初めてだ。

「隊長、すべての入口の鍵がかかっていません。罠の可能性も」

「なに……そんなことアキム様は言っていなかったが」

 アキム様は命令を下すだけ、相手の情報など収集することもしない。
 私達は奴隷で構成されている部隊。その中でもアキム様への忠誠心の高いものたちが集められて作られた部隊。
 あの方が自分で汗を流すことは少ないからな。

「罠でも関係ない。我々は任務を遂行するだけだ。バラバラで入るのは危険だ。罠の場合それだけで相当な数がやられる」

 部下にそういうと俺自ら先頭を歩く。正面から、罠があるというならどこから入っても同じだ。それならば正面から人数が多くても入って行ける所からだ。

「では入るぞ」

 罠だとわかっているせいで緊張が走る。扉に手をかけて中に入ると左右に鉄の人形が飾られている。まるで貴族の屋敷のようだが、別段変わった様子はないな。

「隊長誰もいないようです」

「罠もなし、人もいない……不発か」

 宿屋だというのに主人もいないとはな。店の中を全て調べ終わり報告してくる部下。
 今回は失敗に終わりそうだ。

「ん? 何の音だ?」

 椅子にもたれかかり失敗を嘆いていると音が聞こえてくる。鉄と鉄が擦り合うような音が四方八方から聞こえてくる。

「た、隊長!?」

「なっ!? 人形!?」

 俺は夢を見ているのか? 飾ってあった鉄の人形が動き出している。部下も驚いて声をあげ、怯えが顔を作り出している。

「剣を抜け!」

 抜剣して指示を飛ばす。
 しかし、俺の行動は人形たちにとって恐ろしいほど遅かったようだ。
 瞬く間に部下たちが気絶されていく。抜いた剣がその場に落ちる音がそこら中から聞こえてきて俺の意識も一瞬でかりとられた。
 そして、意識を取り戻すと宿屋の外に出ていた。部下達も無事で全員気絶して横に寝ていた。
 全員で白昼夢を見ていた……そう思いたかったが抜いた剣がなくなっていることに気が付く。

「た、隊長……」

「……俺達」

 部下が次々と目覚めて声をもらす。腰にぶら下げていた剣がないことに気が付いて宿屋に視線を向ける。

「夢ではないんだ。失敗だ」

「……」

 俺の言葉に部下たちは俯く。俺達にとっての失敗は厳しいものだ。アキム様の元に帰って失敗を告げたら恐ろしいことが待っている。
 それでも帰らなければ服従の首輪が首を絞めてくる。アキム様が殺そうと思えば私達は指も使わずに殺せる。自由などないのだ。



「ただいま~。って何この剣の数!?」

 ニカが驚きの声をあげる。
 城壁の外から帰ってくると宿屋の中に剣が散乱してる抜き身の剣でギラギラと存在感をかもしだす。

「刃こぼれが酷い剣だな。奴隷の戦士といったところか?」

「そういうもん?」

「ああ、奴隷の戦士は装備に金をかけさせてもらえないからな」

 アイラが剣を拾ってまじまじと見て話す。騎士なだけあってこうゆう情報にも精通してたんだな。

「早速魔道兵達が役に立ったってことかな」

「そうみたいね」

 ベロニカさんと顔を見合って話す。今回で済んでくれればいいんだけど、血の後とかがないからすぐに来るだろうな。奴隷ならなおさらで、命令を忠実に聞くことしかできない存在だもんな。うちのルキナちゃんには首輪なんていらないってことでつけてないけどね。

「お兄ちゃん剣いる?」

「ああ、全部もらうよ」

 ニカに答えるとみんなが剣を集めてくれる。30本集まって異世界商店に売ると全部で3万Gになった。一本1000Gか、なかなか美味しいな。

「マスター。この後どうするの?」

 ルキナちゃんに質問されて考える。まだ眠るような時間じゃないな。ルガさんのところにでも行ってみるか。

 ということでニカ、アイラ、ルキナちゃんと一緒にルガさん達の住んでる布で出来た小屋へと向かった。

「おお、ハヤトか。ルガさんはまだ帰ってきてないぞ」

「ルガさんは最近、仕事場に残ることが多くなったんだ。カタリナ様に言われて手甲を増産してるんだってよ」

 小屋に着くとおじさん達が迎えてくれてルガさんのことを話してくれた。そうなのか、ルガさんは鍛冶屋にいるってことか。

「帰ってくるまでみんなと騒ごうかな~」

「おっ、そうか。じゃあ酒だ酒~」

 ルガさんの帰りを待つことにしてみんなとお酒を飲むことに。ニカとルキナちゃんは飲めないのでお酒は僕のアイラだけで相手をすることに。

「ハヤト飲んでるか?」

「アイラ、飲みすぎだよ」

「ん? 全然飲んでないじゃないか。注ぐから飲む。常識だぞ~」

 だいぶ時間も経ってアイラがべろべろに酔ってきてしまった。抱き着いてきてニカと一緒に呆れているとルキナちゃんの寝息も聞こえてくる。

「かなり酔ってるなアイラ」

「私は酔ってない……酔ってないぞ~、むにゃむにゃ。Zzz」

「あら、寝ちゃったか」

 背中に抱き着きながら脱力していくアイラ。ルキナちゃんも寝ちゃったし、ニカが無事な間に帰るか。ルガさんに会えなかったのは残念だけど、仕事じゃ仕方ないな。

「すみません皆さん。僕らはそろそろ帰りますね。何か困ったことがあったら」

「ハヤト、そういうのは大丈夫だといっただろ」

「おう、既に俺達も仕事に就いたからな。家は後々考えることにしてる安心しろよ」

 おじさん達に挨拶して帰ろうと声をかけるとおじさん達はニカっと笑って頭を撫でて答えた。

「ルガさんにも言われてるとは思うけどよ。俺達はハヤトに感謝してるんだ」

「おう、一張羅しかなかった俺達に服をくれた。それだけじゃねえ、まだまだこの世界にはお前みたいな守るに値するやつがいるってわかったんだ。ありがとよハヤト」

 わしゃわしゃ撫でてくるおじさん達。力が異様に強いおじさん達だから体が揺れる揺れる。ルガさんもそうだけど、おじさん達は凄い人達なんだな。服を新しくしただけで職に就けるんだからね。

「臭いってだけで門前払いだったところなんだが」

「おう、服を新しくしただけで合格よ! 思ったよりも簡単だったぜ」

 おじさん達はそういって胸を張った。ん~、やばいところじゃないだろうな? 腕っぷしだけで合格ってことでしょ? 
 まあ、仕事が見つかったってことで良しとするか。

「じゃあ、ルガさんによろしく言っておいてください」

「おう、またなハヤト」

 眠るアイラを抱っこして別れの挨拶を交わす。ニカもルキナちゃんを抱っこしてついてくる。

「お兄ちゃん、重くない?」

「ははは、僕よりも背が大きいアイラだからな。少し重いぞ」

「私は重くない……」

 ニカが心配して言ってくる。素直に答えるとアイラが寝言を話す。起きてるんじゃないかと思ったけど寝息が聞こえるから寝てるんだろう。

「ルガさんも大変だな。こうなるのが嫌で路上にいたのに……少し悪いことしちゃったかな」

 僕が服を新しくしなかったらルガさんが仕事に追われることはなかった。

「無理してるならカタリナ様に言わないとな」

「そうだねお兄ちゃん」

 僕の呟きにニカが同意してくれる。
 ルガさん無理してなきゃいいけど。
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