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第一章

第36話 ピクニック

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「ぐひひ。あの宿屋、客もあいつらしかいないようだな。いつ行っても人がいないと聞く」

 奴隷商を営む私としてはあんな上玉があんな宿屋で働くなんてもってのほかです。奴隷に落として貴族や王族に売り払ってしまうのがこの世のため、ついでにあの赤い髪の女と猫獣人、更にさらにあの少年も奴隷に落として大金を手に入れてしまおう。くくく。

「アキム様、およびですか?」

 自分の店に戻り精鋭を集めさせた。精鋭の中でも優秀な男が早速命令を待って居る。

「雷の宿屋にいる者達を全員奴隷に落とすのだおっと、男は少年だけでいいぞ。20歳を超えると客がつかなくなるからな」

「……畏まりました」

「ぐひひ。これであの者達が手に入る。まずは味見そして、部下達にも甘い汁を吸わせるか」

 部下は命令を聞いて早々に扉を出ていった。30人程の精鋭が雷の宿屋を襲うだろう。見物に行ってもいいがこの体ではな。あまり歩きたくない。結果だけ知れれば満足だ。

「さて、猫族の獣人も帰ってくる。王族に知らせておくかな」

 粛々と準備をしていく。我がアキム商会が国を左右するほどの規模になるのだ。笑いが止まらんな。
 これも奴隷を戦士にしたおかげか。絶対服従の首輪で戦士を作り、無理やり鍛えさせて作り出した精鋭達。戦果も上々で冒険者などあてにしなくて済むようになった。
 大金を使わなくても良くなったことで私にお金が回るようになってくるわけだ。くくく。
 奴隷の命など、安い金で取引してしまえばいい。上玉の場合は違うがな。
 さあ、私のショーの始まりです。



「これで全部かな?」

「うん、お兄ちゃん。入口と裏口と窓、全部だよ」

 少し時間が遡って。
 魔道兵を配置した。魔道兵工房に入って作られていく魔道兵を見送った後、工房から出るとウィンドウに【配置】と言う項目が増えていた。【配置】という項目を指で触ると僕の前方が魔道兵のサイズに光って指を離すと配置されるって感じだ。魔道兵は鉄で作られているから無骨、インテリアとしてはマイナスな子達だな。

「全員、剣を使うのだな」

「ん、そうみたいだね」

 アイラの質問に頷く。魔道兵は全員剣を持ってる。
 僕が返事をするとアイラがおもむろに剣を引き抜いて魔道兵へと切りつけた。
 ガン! そんな音が宿屋に響く。

「ちょ! アイラ」

「今のを受けれるのか……」

 耳を塞いでアイラに抗議すると冷や汗をかいて魔道兵を見つめてる。
 ハッキリ言って切りつけたのが見えないほどの攻撃だった。それを片手で受け止める魔道兵、恐ろしいな~。

「ニカのいい訓練になるかも」

「ルキナちゃんにもいいかもね」

「え?「にゃ?」」

 アイラの言葉に振り返って話すとニカとルキナちゃんが首を傾げていた。二人は年齢不相応な強さになっているけど、更に強くなろうとしてるからな。魔道兵は役に立つかも。

「馬の魔道兵も出してみたいな」

「!? じゃあ、明日はみんなで外に行こうよ! 母ちゃんも一緒に」

「あらあら、いいわね。ふふふ」

 僕の声にニカが楽しそうに答える。ベロニカさんも宿屋の営業は休みにしてくれるみたいだ。嬉しそうに微笑んでる。
 毎日宿屋の経営は大変だもんな。偶には息抜きも必要だ。

 と言うわけで現在に至り、いつも通り砂糖を商人ギルドに卸して城壁の外へとやってきた。お金の問題はちょっと路地を掃除するだけで手に入るから簡単簡単。と言ってもだいぶ綺麗にしてしまったから東区にちょっと入ったけどね。
 
「エリュシオン! 競争!」

「ヒヒ~ン」

「わ~!? 早い早い!」

 アイラの乗るエリュシオンと馬の魔道兵が並走する。声のでない魔道兵はかなり不気味だ。まあ、鉄の独特のカッコよさはあるけれど。
 速度は同じくらい出せているみたいだな。次は乗り心地だけど。

「よいしょ」

 馬の魔道兵に跨る。跨る胴体の部分はシリコンのように柔らかくなっているようだ。座り心地はなかなか。鞍とかつけなくていいみたいだな。

「裸馬では危ないのではないか?」

「僕もそう思ったんだけど、座り心地は中々だよ」

 アイラが心配して声をかけてきてくれる。僕の感想を聞くと少し安心してくれる。

「ここいらは人が来ないからな。少し稽古をしようかニカ、ルキナちゃん」

「「は~い」」

 アイラの声にニカとルキナちゃんが反応する。三人は僕へと視線を向けてきたけど、僕は馬で忙しいのだ。
 野原に寝そべりながら馬の魔道兵の走る姿を見る。傍から見ると異質な感じだが、自然の馬と仕草は変わらないな。

「ハヤトさん、今日はありがとうございます」

「ああ、ベロニカさん。お礼なんていいですよ」

 お礼を言って横に座るベロニカさん。ふわっと優しい香りが香ってくる。

「あの奴隷商の人が怖かったのでみんなといられてよかった」

「そうですよね……」

 宿屋にいる時は感じなかったけど、ベロニカさんは気丈に振舞っていただけだったみたいだ。城壁の外に出て少しした時に彼女は安心で体が震えだしちゃったんだよな。
 みんなでベロニカさんを安心させようと手を握ったりしたけど、涙まで流させてしまった。あのアキムってやつが次に来たらギッタギタにしてやる。

「みんな~、そろそろご飯にしましょ」

 ベロニカさんと色々話して気がついたらお昼くらいになってた。彼女の作ったお弁当をインベントリにいれていたので次々に出すと美味しい匂いが鼻腔をくすぐる。インベントリの中の物は劣化しないからな。時間が止まるというのが正解かもしれないな。

「ん~。ベロニカの料理はうまいな~」

「うん! 母ちゃんの食べ物は世界一!」

「にゃう! にゃうにゃう~。美味しいにゃ~」

 アイラとニカとルキナちゃんが美味しそうに食べ物をかきこんでいく。訓練していたからかなりお腹が空いてるみたいだな。
 僕とベロニカさんはそんな三人を見て顔を見合うと笑ってしまう。

「もう、お兄ちゃんも訓練しようよ~。母ちゃんが美人だからってサボっちゃダメだろ~」

「ちょ! 何言ってんだよニカ」

 笑っているとニカがからかってくる。まったく、ニカはこういう時、空気読まないよな。

「ベロニカは料理も出来て経営の手腕もある。いいお嫁さんだな」

「そ、そんな。私なんか……全然ダメ」

「ど、どうしたベロニカ」

 アイラの言葉に俯くベロニカさん。

「実は私……人が怖くて。それでお客さんを入れられなくて」

「ん、それで僕がお客さんを選んでたってわけ」

 ベロニカさんの告白に驚くとニカがドヤっと胸を張る。
 なるほど、それでお客さんがいなくて、アキムにあんなに怯えていたのか。まあ、アキムに関してはそれ以上の何かが関わってると思うけど。

「この子のおかげもあって、少しずつましになったけれど……まだまだハヤトさん達に甘えてしまう」

 ニカを抱きしめて優しく頭を撫でるベロニカさん。

「えへへ、ハヤトお兄ちゃんのおかげだよ。本当にありがとね」

「ニカ……いや、別に僕は何も」

「ハヤトお兄ちゃんって男って感じがしなくていいなって思ったんだよね。川で体洗ってた時に確信したんだ」

「……ニカ?」

 ニカの言葉に照れていると台無しの言葉が告げられた。思わず首を傾げると満面の笑みのニカ。してやったりといった様子だ。

「ふふ、この子ったら。はい、ハヤトさん」

「あっ! 母ちゃん!?」

「ふふふ、いらっしゃいニカ君」

 ベロニカさんに突き放されるニカ。僕の胸に飛び込んできてくれたので抱きとめて頭をわしゃわしゃ撫でまわす。ぼっさぼさになるまで撫でまわすと力なく横たわっていった。ふふふ、因果応報だ。
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