上 下
31 / 43
第一章

第31話 捜索隊

しおりを挟む
 施設が追加されて次の日。冒険者はみんなギルドに集められた。
 グールの群れが北から流れてきたことについて、カタリナ様が捜索隊を組むことになったらしい。
 国全体の危機と言う話でバルバトスさんを軸に隊が組まれて街道沿いを北に進んでいくとか、ん~早く魔道兵工房を使ってみたいんだけどな~。

「俺の隊が先行して、後方にはハヤトたちについてもらいたい」

「ええ!?」

 二階から声をあげるバルバトスさんの言葉に視線が僕らに集まった。
 いやいや、僕はまだ鉄の冒険者なんだけど。

「鉄の冒険者の僕が?」

 当然のことを叫ぶとバルバトスさんがニカっと笑って、

「何いってんだ銀の冒険者だろ。グールとの戦いのときの功績は大きい。特にポーションによる支援がな」

 そう話すと更に耳元で『城壁を直した魔法とかも』とウインクしてくる。
 流石に情報が早い、カタリナ様から話は行ってたんだった。

「でも、僕なんかじゃ……」

 周りの冒険者を見回す。ダンもその中にいて、顔がしかめっ面。やはり少し嫌みたいだな。

「ダン? 何か言うことはあるか?」

「いえ、妥当だと思います」

「え?」

 僕に視線に気が付いたバルバトスさんがダンに声をかける。すると思いもよらない言葉がかけられた。

「ハヤトは周りへの気配りも早い。支援してもらえると思うと戦闘に集中できると思います」

「はは、ダンも大人になったな」

 ダンの言葉を聞いて喜ぶバルバトスさん。ダンもリーサさんの件で僕への評価を変えてくれたみたいだな。

「もちろん、ダンも俺の隊に入ってもらってる。あと二人程選んでる。全員了承してくれてるってわけだ。今回は助かった村人の捜索も視野に入れてる。ハヤトのような人材がいてくれると助かるんだ。ダメか?」

 僕を振り返ったバルバトスさん。気持ちのいい笑顔でお願いしてくるとリーサさんへと視線を向ける。彼女は小さくガッツポーズをとって僕を見てくれた。

「お兄ちゃん。僕らなら大丈夫だよ」

「ええ~。でもさ~」

「ハヤト。私も大丈夫だと思うぞ」

 ニカが袖を引っ張って声をあげるとアイラも同意して話す。ルキナちゃんは分かってないみたいで二人の真似をするだけだな。
 別に行ってもいいんだけどさ、ゴミを換金して魔道兵工房を作りたいんだよな~。
 まあ、みんなが行きたいならその場で異世界商店のお金に換えられそうなものを入れていけばいいか。

「分かりました。みんなも行きたいみたいなので」

「よし! ありがとうハヤト。実はな王都からも騎士団が動き出すらしくてな。急がないとエンプレスのギルドは使えないってレッテルが張られちまうんだ。威信がかかってるわけなんだよ」

 バルバトスさんはそういって頭を掻いてる。騎士団って言葉にアイラがピクッと動いたような気がする。

「そういうわけだ。更に、第一騎士団隊長自ら出向くようだよバル」

「やはりそうか、イクシオン」

 二階からバルバトスさんとは別の声が聞こえてきてバルバトスさんが答えた。銀髪切れ長の目の美形が僕らを見下ろしてくる。

「みな……そんなに見つめないでくれ」

「あ~、すまん。イクシオンは視線に弱くてな。捜索隊以外は解散してくれ」

 イクシオンさんは頭を抱えて二階の奥へと帰っていった。捜索隊に選ばれた僕らと三名が二階にあがる。

「この間のグール討伐にもいたんだが一応紹介する。エンプレスの冒険者ギルドを統括してるイクシオンだ。マスターというやつだな」

「め、目立つの苦手なのでな。いる時はバルに任せているんだ」

 バルバトスさんに紹介されて、汗をかきながら説明してくれるイクシオンさん。控えめに行っても美形だな。男性か女性かわからないほどだ、髪も長いしね。

「それじゃ、準備ができ次第北門に集合だ」

 イクシオンさんのことも考えて早々に話を切り上げるバルバトスさん。目立つのが苦手なのにマスターなんて大変だな。

 僕らは依頼をやろうとおもってギルドに来ていたので準備は出来てる。なので一度、遠出することをベロニカさんに伝えるために雷の宿屋に帰ることにした。

「母ちゃんただいま~」

「お帰り早かったわね」

 抱き着くニカを抱きとめるベロニカさん。

「実は少し遠出することになっちゃって」

「あら? そうなの?」

「それでニカも行ってくれるみたいなんですがベロニカさんの許可を」

 ニカは未成年だからね。遠出となると今までとは話が違う。一日で帰ってこれない距離は流石にね。

「母ちゃんダメ?」

「ううん。大丈夫よ。だけど、決して帰ってこれないなんてことにはならないでね。また置いてかれるのは嫌だから」

「母ちゃん……」

 ニカのお願いにベロニカさんは答えてくれた。彼女の言葉を聞いて旦那さんは魔法使いだったことを思い出す。ニカを連れて行っちゃいけないような気がするな。

「ハヤト兄ちゃん! 僕は行くからね」

「え?」

「兄ちゃん優しいからダメとか言いそうだったもん」

 色々と考えていたらニカに心を読まれてしまった。頬を含ませて怒る姿はリスにしか見えないな。

「ニカは男の子ってことだよハヤト」

「ニカお兄ちゃん偉いにゃ!」

 アイラがそういうとルキナちゃんがニカに抱き着く。

「分かったよ」

 ニカを危険に晒さないように頑張ろう

「じゃあ行ってくるね母ちゃん」

「はい、行ってらっしゃい。皆さんも無事に帰ってきてね。お客さんはハヤトさん達だけですからね」

 ベロニカさんに見送られて宿屋を後にした。
 
 北門に着くとダンたちが待っているのが見える。ダンは大きな斧を背負っていて、他の二人は魔法職っぽい服装だ。

「バルバトスさんと一緒じゃなかったの?」

「ん? ああ、そっちと一緒だと思ってたぞ」

 ダンに声をかける。普通に接してくれるようになって本当に良かった。

「さっきは自己紹介できなかったわね。私はルビア、こっちはエナよ」

「どうもです」

 ダンの後ろにいた女の子達が自己紹介をしてくれた。ダンと同じパーティーなのかな?
 バルバトスさんに選ばれた先頭を任せられるメンバーに入っているってことは相当な魔法を使える人なんだろうな。

「エナは無口だけど、言っていることは理解してくれるから」

「……」

「よ、よろしく」

 ルビアさんに説明されてエナさんを見ると無言で見つめてくる。長身で黒服だから威圧感が凄いな。

「不思議……」

「!? エナが喋った。ちょっとエナ~」

 エナさんが顔を近づけてきて呟くとルビアさんが驚いて声をあげる。エナさんは呟くと北門の方へと歩いていってしまった。慌ててルビアさんが追いかけていく。

「不思議な奴らだ」

「ん? ダンさんはあの人たちと一緒のパーティーじゃ?」

「いや、違う。俺は雇われで急遽入ることはあっても属さないからな」

 ダンのパーティーメンバーだと思ったら違うみたいだな。彼はソロ専門ってことか。

「マスター」

「ん? どうしたの? ルキナちゃん?」

 ズボンの裾を引っ張ってくるルキナちゃん。彼の視線を追うとバルバトスさん達が見えた。

「よし。みんな集まったな。出発だ」

 バルバトスさんの号令で町を旅立つ。
 は~、遠出は緊張するな~。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...