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第一章

第22話 復元

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「今日も下水道~」

 魔法石を数種類買って次の日。
 試しうちをするために下水道の依頼を受けてやってきた。ニカが楽しそうに歌って魔法石を構えている。
 ネズミに向かって無慈悲な魔法が数発飛び交う。魔法石を使った魔法はMPを消費しないから撃ち放題。といっても使用回数が決まってるみたいだから乱発は厳禁だな。

「ThreeMagic Lightningbolt」

 バチバチ! 僕も負けじと覚えたての雷撃の魔法をネズミに放つ。雷撃なだけにえげつない速度で逃げる暇さえ与えずに、黒焦げになってドロップアイテムを残して消えていった。逃げる魔物には良い魔法だな。

「お兄ちゃん! 依頼数は終わったよ~」

「そうか~、もう終わっちゃったか」

 グールの生き残りがいるんじゃと思って来てみたんだけど、ネズミしかいないな。バルバトスさんの話ではリッチが死んだことでグール達は勝手に死んでるらしい。魔石が散らばって落ちていたのはそのせいかもな。インベントリに入れておいたけど、これは僕らが狩ったものじゃないだろうからギルドに返さないとな。

「ハヤト! スライムが」

「よし! ThreeMagic って別に他の人がいるわけじゃないから端折っていいのか。Firebolt!」

 アイラの声に反応してスライムへ炎の塊を放つ。リッチを一発で倒した炎がスライムに当たると一瞬で蒸発して、ドロップアイテムを残して消えていった。

「うん。便利便利。武器がいらないくらいだな」

「ハヤト。接近されたらどうするの。今度訓練しよう」

「ええ!? アイラと?」

「なに? 嫌なの?」

 楽観的に考えているとアイラにつっこまれてしまった。これは強制的な訓練の流れだな。剣士でもないから接近戦は極力やりたくないんだけど。

「ニカ殿もやっているんだ。ハヤトもやるべきだと思うぞ」

「お兄ちゃんとやりたい!」

 アイラとニカが詰めよってくる。
 僕が起きるよりも早く二人は訓練してるんだよな。木剣でカンカン音を鳴らしてたっけ。
 あれを僕もやる……正直寝ていたいな~。

「僕は遠慮するよ。魔法の方がいい」

「お兄ちゃん! やろうよ~」

「いやいいよ~……あっ! スライムだ。待て~」

「あ~お兄ちゃんが逃げた~」

 ニカに詰め寄られるけど誤魔化して逃げる。スライムは見えないけどリッチと戦った広間に走る。
 広間に入るとあの時の傷が所々に刻まれてる。直さなくて大丈夫なのかな?

「わ~ひびだらけだね~」

「放置すると大変なことになりそうだな」

 ニカとアイラもついてきて声をあげる。そういえば、復元の魔法石とか言うのもあったんだよな。試しに使ってみようかな。
 インベントリから復元の魔法石を取り出してひび割れた壁に向けて使用する。壁が光だして直っていく。

「復元の魔法石……」

「お兄ちゃん……」

 唖然とする二人。それを無視するように、

『Restoreを習得しました』

 声が脳内に響く。

「お兄ちゃん! 復元の魔法石がいくらすると思ってるの! 子供の僕でも知ってるよ!」

「まあまあニカ殿、ハヤトだから」

 ニカが珍しく怒ってきた。アイラがなだめてくれてるけど、そんなに高いのかな?

「因みにいくらくらい?」

「白金貨一枚はくだらないかな」

「……価値的には?」

「雷の宿屋が三棟買えるくらいかな。土地を含めて」

 僕の質問にアイラが答えてくれる。流石の答えにクラッと立ち眩み。
 店が買えるってどんだけ……。

「まあ、そういうわけだからあんまり表立って使わない方がいい」

「わ、分かりました。とりあえず、ここは全部直しておこうかな」

「……はぁ~」

 アイラが忠告してくれる。答えてひびを直していくと彼女が大きなため息をついてきた。だって、このままにしてたら大変なことになっちゃうじゃないか。

「アイラお姉ちゃん、お兄ちゃんだから」

「そうだった。ハヤトだったね」

 ニカとアイラが失礼なことを言ってる。別にいいのだ。いいことをしているんだから気にしないのだ。
 一通り直すと依頼も終わったのでギルドへと帰還することにした。下水道から上がって路地を出ようと思ったら見知った顔の人が複数人たむろしていた。

「この奴隷風情が! 告げ口しやがって」

「私はバルバトス様の奴隷です。あなた達のではありません」

「うるせえ!」

 男の声と女性の声が聞こえてきて言い合いしているように聞こえる。たむろしていたように見えたけど違うみたいで男達が女性を囲んでる。男が声を荒らげて女性に手をかける。口から血を出しながらも睨みつける女性、彼女は確かリーサさんと言ったかな。ってそんな場合じゃない!

「やめろ!」

 リーサさんの前に出て男を遠ざける。この顔は見覚えある。確か、ダンとかいう人だな。

「あぁ? てめー孤児院じゃねえか!」

 胸ぐらを掴んでくるダン。僕は無抵抗に睨みつける。

「女性に手を出すなんて最低だな」

「そうだそうだ!」

 アイラとニカも駆けつけてくれる。男達はいたたまれない様子、ダンも渋々僕から手を離した。

「奴隷と孤児院は仲がいいんだな」

 訳の分からない捨て台詞を吐いてダンたちはギルドへと歩いていった。まったく、弱い者いじめの何がいいんだか。

「ありがとうございます皆さま」

 深々とお辞儀をするリーサさん。

「いえいえ、そんなに畏まらないでください」

「ですが私は奴隷ですので」

「奴隷?」

「はい」

 この世界には本当に奴隷なんて制度があるのか。ダンが勝手に言っていたわけじゃないんだな。でも、奴に言っていたように僕の奴隷でもないわけだよね。

「リーサさんは僕の奴隷ですか?」

「え?」

「違いますよね。じゃあ、ダンの奴隷ですか?」

「違います!」

「じゃあ、アイラの? ニカの? 違いますよね。じゃあいいじゃないですか。僕らにはため口で」

 僕の話を聞いて口が開きっぱなしになるリーサさん。アイラとニカも呆れて笑ってるよ。

「バルバトスさんの奴隷なら僕らの友達ですよ」

「と、友達?」

 バルバトスさんの物って言うなら、僕らにとっては友達だ。バルバトスさんは恩人みたいなものだしね。リーサさんはキョトンとしながらも考え込んでる。しばらくすると首をブンブン振って口を開く。

「と、とにかく! ありがとうございます。それでは!」

 考えるのをやめてギルドの方へと歩いていっちゃった。そんなに難しいことかな?

「よっ、ありがとな」

 少し悲しくなっていると後ろから肩に手が回る。全然気づかなかったけど、バルバトスさんが見ていたみたいだ。ニカッと笑ってお礼を言われた。

「リーサの奴は奴隷って言ってるけどよ。別にそんなんじゃねえんだ」

 肩に手を回したまま、悲しそうに告げるバルバトスさん。

「俺が若い頃、三歳程だったリーサを街道で助けたんだ。両親と共に馬車に乗っていたリーサは盗賊に襲われて一人だけ助かった。あと一歩早ければ両親も助けられたんだがな」

 肩に回る手に力がこもる。後悔が見て取れるバルバトスさん。

「リーサはそれから俺が両親の代わりに育ててきた。男手一人で育てたのがいけなかったのかね。あんな無愛想で人を遠ざける嘘をつき続けてる」

「嘘?」

「奴隷の話だよ。別に奴隷契約なんてしてねえのにな」

 奴隷の話自体が嘘なのか。でも、なんでそんな嘘を、人をわざわざ遠ざけなくてもいいのにな。

「済まねえなハヤト。こんな話しちまって」

「いえ」

「仲良くしてやってくれよ。正直、俺には荷が重いんだ。子供の育て方なんて知らなかったからな。施設に預けるって言うことも出来たんだがな。リーサが嫌がるもんでな」

 リーサさんはバルバトスさんから離れたくなかったんだろうな。彼の優しさに惹かれたのかもしれない。……ん? 惹かれた?

「じゃあ、俺もギルドにいくわ。この話俺が言ったって内緒な。リーサに怒られるからよ」

 あることに気づいて口を開こうと思ったらバルバトスさんがそそくさとギルドの方へと走っていった。
 アイラとニカと顔を見合うと僕は呟いた。

「リーサさんバルバトスさんの事好きすぎじゃない?」

 その言葉に二人とも大きく頷いて答えた。
 奴隷と言って人を遠ざける。それでバルバトスさんと二人きりでいられるわけだ。遠回りな愛情表現だな~。

「もどかしい関係だ。バルバトス殿は全然気づいてないみたいだし」

「ん~、年齢が離れすぎっていうのもあると思うけどね~」

 アイラが握りこぶしを作って話すとニカも呟く。確かに20歳は離れているもんな。

「まあ、僕らが何か言うようなことじゃないかな。リーサさんも何か考えてると思うしね」

 色恋沙汰に他人が入るのはご法度だ。ゆっくりと二人を見ていこう。って上から目線になってるな。恋愛なんてしたことないくせに偉そうだな、僕。
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