いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第14話 エリュシオン

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「アイラさん、どうしたの?」

「あ、ああ~ハヤト殿、ニカ殿……ははは、少し残念なお知らせを受けてしまってな~」

 はははと力なく笑う彼女。僕とニカは顔を見合って首を傾げる。

「思ったよりも狼の常時依頼が安くてね。ここら辺じゃ狼はすくないのだな」

「そ、そうなんだ……」

「その魔物が多ければ多いほど常時依頼は高いものなのだがな。ここいらはゴブリンの方が高いみたいだ。トホホ」

 予定よりも安くて宿代で飛んでしまう、そう付け加えてアイラさんが肩を落とす。
 狼よりもゴブリンの方が高く買い取ってくれるのか。それは僕とニカにとっては助かる情報だな。
 それにしても今までいなかった魔物がいるようになったってことか……なんかいやな予感がするけど。

「は~。ベロニカ殿に宿代を払うといった手前それは払わなくてはいけない。だがそうすると一文無しだ。どうしよう……」

 涙目で更に肩を落とすアイラさん。ん~、ここで助けるのはおかしいかな? でも、昨日はあの不良たちから庇ってもらったしな。あっ、そうだ!

「じゃあ、僕とニカとパーティーになろうよ」

「へ?」

「パーティーメンバーなら僕が宿代を払ってもおかしくないだろ?」

 僕の言葉に考え込むアイラさん。しばらく考え込むと差し出した手を掴んで顔をあげた。

「ではお言葉に甘えさせてもらおうかな。武器も新調しないといけなかったから手づまりだったのだ」

「あ~、本当だね。早速買い物に行こうか」

「いやいや、最初からおんぶにだっこでは騎士の沽券に関わる。壊れかけの槍と剣だがゴブリンくらいは行けると思う」

 ん~、それなら依頼に行けばすぐにでもお金が手に入ったんじゃ? とか思ったけど、黙っておこう。彼女なりに何か考えがあったんだろう。

「アイラお姉ちゃんって残念な人なの?」

 僕と同じ考えに至ったニカが口を滑らせる。

「む? 残念とは?」

「だって、ゴブリンくらい行けるんでしょ。それなら狩りに行けばいいじゃん」

「そ、そういわれれば……エリュシオンに乗ればすぐだと思うしな」

 再度考え込んでしまうアイラさん。ニカもハッキリと言いすぎだ。
 エリュシオンは乗っていた馬のことかな? 馬に乗ったことがないから乗ってみたいな。

「ん~、まあお二人とパーティーになれたし、よしとしようではないか。お二人は嫌か?」

「僕は別に~。ハヤトお兄ちゃんが居ればいいけどさ~」

「ははは」

 アイラさんの質問にジト目で僕を見つめるニカ。二人よりも三人の方が安心感が違うだろ。そう思ったんだけど、ニカは少し嫌みたいだな。

「わ~、高い高~い」

 アイラさんとパーティーを組んで早速外へとやってきた。ゴブリン五匹の討伐依頼を受けて森への街道を歩く。
 ニカがアイラさんの馬に乗せてもらって大喜び。さっきは僕に怪訝な表情を向けてきたけど、今はそんなことはないな。

「ふふ、エリュシオン。スピードも見せてやれ」

「ヒヒ~ン!」

「わ~、早い早~い」

 アイラさんとニカを乗せたエリュシオン。一瞬で森の前まで走っていく。かなりの速度だな。

「ハヤトおにいちゃ~ん早く~」

「二人共ずるいぞ」

「ははは、ハヤト殿の馬も欲しいところだな」

 ニカとアイラさんに笑われて森まで走る。僕の馬か……馬を買っても乗れなかったら意味がないけどね。ってそういえば、

『乗馬を習得しました』

「やっぱり」

 エリュシオンの横っ腹を触る。思っていた通りスキルを習得できた。本当にお手軽な学習アシストさんだ。君がいなかったら僕は裸で暮らすところだった、ありがとう。

「どうしたのだハヤト殿。いじけてしまったか?」

「あ、いやいやこっちの話」

「?」

 腹に手を添えたまま目を瞑っているとアイラさんに怪しまれてしまった。

 気を取り直して僕らは森の中へと入ってきた。馬でも入ってこれる森の中、アイラさんは馬上で槍を構えて敵に備える。

「敵発見!」

 森に入ってすぐにゴブリンを発見するアイラさん。エリュシオンが走り出して槍を突き入れる。一瞬で絶命するゴブリン。アイラさんはやっぱり、名のある騎士なのかな? 強すぎじゃない?

「ふむ、やはり壊れかけの槍はどうも使い心地が……」

 一瞬で仕留めたって言うのにため息をつくアイラさん。確かにボロボロの槍だけど、十分じゃないのかな? まあ、一応彼女の槍と剣は異世界商店で買ってあるからいつでも出せるけどね。用心はしておかないとな。

「ん? 狼の群れか」

「グルルルル」

 ここら辺じゃ珍しいはずの狼がまたもや現れた。5匹が僕らを囲って威嚇してくる。

「お二人とも、行きますよ」

「おう」

「は~! ってどこへ行く!」

 アイラさんの声に頷いて答えて力んで剣を構える。アイラさんが特攻をかけようとエリュシオンを二本足で立たせると狼がどこかへ行ってしまった。

「変だね。何かから逃げてるみたい?」

 ニカが逃げる狼たちを見て首を傾げた。その言葉に狼たちがやってきた方向を見据える。なんでか黒い気配を感じる。

「ゾンビ? いや、グールか!?」

 黒いゾンビ、グールがのそのそと歩いてくる。アイラさんは驚愕してニカを掲げてエリュシオンに乗せる。
 焦る気持ちは分かる。グールの数が尋常じゃない。

「逃げるぞ!」

「了解」

 アイラさんはエリュシオンに跨って町へと走り出す。グールの速度はそれほどでもない、僕は徒歩で十分逃げ切れる。

『疾走を習得しました』

「はいはい、ありがとうございます」

 ただただ走っているだけなのにスキルを覚えた。まったく、学習アシストさん、空気読んで。
 森を抜けて街道を突っ走る。スキルのおかげでかなり速度が上がってる? ただ、体力が増えたわけじゃないから疲れるな~。
 背後を見るけど、グールの姿はまだまだ見えないな。

「グールの群れだ! 門を閉めろ~!」

 町にたどり着いて声をあげるアイラさん。その対応が常識なのが分かるほどに兵士達は慣れた様子で対応していく。
 外に並んでいた列と共に命からがら町へとたどり着いた。は~、疲れた。
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