上 下
9 / 43
第一章

第9話 外へ

しおりを挟む
「今日も頑張るぞ~」

 剣士の服をプレゼントして次の日。
 ニカに起こされてすぐにギルドへと向かった。朝ごはんを食べている時も剣士の服を着てて嬉しそうにしてた。こんなに喜ばれると嬉しいな。
 宿屋から出てぴょんぴょん跳ねて意気込みを話すニカ。今日は汚れないところに行ったほうが良いかな。
 
「鉄の冒険者証か」

 登録をしたときに受け取ったネックレス。これで身分を証明できるわけだな。この町に生まれない僕もこれで町の出入りが出来るわけだ。異世界言ったら冒険者ギルドって言うのは当たってるな。

「僕も早くほしいな」

「すぐだよ」

「は~、早く大人になりたいな~」

 はは、子供は大人になりたくて、大人は子供に戻りたい。一生終わらない苦悩だな。

 ニカと話しながらギルドに到着。すると昨日と違って人がいて視線が刺さる。

「子供を使ってバルバトスさんに目をつけてもらってるやつが来たぞ」

 陰口が聞こえてくる。やっぱり、有名人に注目されるとこういうことになるんだよな。この世界も結構分かりやすい。
 気にせずに受付に歩き出すとニカがいないことに気が付く。周りをキョロキョロ見るとさっき陰口を言って来た男の元にずかずかと歩いていくのが見えた。

「ハヤト兄ちゃんの悪口言うな!」

 ニカは大きな声で言い放つ。すかさず僕が男との間に入って愛想笑いを浮かべる。

「てめ~、恥ずかしくないのか?」

「ははは、依頼を受けないといけないのでそれでは~」

 愛想笑いをうかべながらニカの手を引っ張って受付に向かう。ヴェインさんが苦笑いで迎えてくれた。

「ハヤトさん。あんまり気にしなくていいよ」

「あっ、はい。大丈夫ですよ。それよりもニカ」

「え? 僕?」

 ニカと共に受付の椅子に座ってヴェインに答えるとニカに振り向いた。

「陰口を聞こえるように言ってくるやつは言い返されることを望んでいるやつだ。陰口を言うようなやつの望みをかなえてやる必要はない。そう思わないか?」

「う、うん」

「はは、でも、嬉しいよ。ニカに認めてもらえてるみたいでさ」

 忠告して頭をガシガシ撫でる。頬を赤く染めるニカは恥ずかしそうにしてるな。

「ニカは今日カッコいい服着てるな」

「うん! ハヤト兄ちゃんがくれたんだ。初依頼達成のお祝いってことで」

「そうなのか~。良かったな」

 ヴェインに褒められると嬉しそうに報告するニカ。ヴェインも嬉しそうに褒めるな。子供好きなのかな?

「さあ、今日はどんな依頼にする? 下水はやめるよな」

「そうそう、下水はいけないかな」

 ヴェインが怪訝な表情でダメだというと肯定する。彼も僕と同じように綺麗な服になったのに下水はないよね。

「え~。下水もいいと思うけどな~」

 二人で同意しているとニカが残念そうに声をもらした。まあ、初めての場所って特別だからな。行きたくなるのもわかる気はする。

「……まあ、無難に町からでてすぐの森の依頼がいいかもな。ゴブリンを五匹だ」

「ゴブリン……」

 ファンタジー物の定番の魔物だな。やっぱりこっちのゴブリンも緑の小人なのかな?

「緑の小人で大体木のこん棒を持ってる魔物だ。普通のやつは頭悪いからな。勝手に突っ込んできて壁に頭ぶつけて死ぬやつもいるとか」

 ヴェインの話を聞いて、やっぱりこの世界のゴブリンも最弱なようだ。それならやっても大丈夫かな。

「じゃあ、それで」

「よし。決まりだな」

 ヴェインが依頼の羊皮紙を手渡してくる。予め用意してくれてたのかもしれないな。

「ここは孤児院じゃねえぞ!」

 ギルドから出ようとするとそんな声がかけられた。はぁ、バルバトスって言う人はまだいないみたいだな。あの人がいればこんな声もかけられないんだろうけど。

「もう! あの人たちなんなんだろう。ハヤト兄ちゃんに嫉妬してるのかな?」

「ははは、そうかもね」

 ニカの指摘に笑って答える。まあ、言いたくなるのも仕方ないのかな。僕は気になる人がいても言わないけどね。

「ハヤト兄ちゃんも言われてばかりじゃダメだよ。舐められちゃう」

「僕はいいよ。言いたい人には言わせておくさ」

「ん~。お兄ちゃんは優しいな~」

 ニカは笑いながら話すと僕の手を取ってブンブン振り回す。そのまま、町の出口に向かうもんだから横いくみんなにクスクス笑われてしまった。まあ、ニカが楽しそうだからいいんだけどね。

 町の出口に着くと町から外に出るのは調べられないみたいで自由に出れる。外からの馬車や人はみんな列を作って、入るための順番待ちをしてる。

「町の外初めて! ワクワク」

 町の外に出て目的の森を見る。北門から出てすぐに森があるって言っていたけど、結構距離がある。街道をまっすぐ進んだ先に見えるな。

「ん、魔物が見えるな」

「狼の魔物かな?」

 街道を少し外れた草原に狼の魔物が見える。寝そべっているから気づかれないと思うけど、そのうちに倒すのも手かな?

「ハヤト兄ちゃんやっちゃう?」

「そうだな~」

「あっ」

「ん?」

 ニカが戦いたそうに言うから考え込んでいるとニカが狼のいる方向を見て声をあげた。僕も振り返ってみると馬に乗った白銀の騎士が狼を退治し始めていた。

「これで全部か。弱いな」

 馬に乗ったまま槍を操って狼を屠っていく。最後の一匹を蹴散らすと僕らの方向へと歩いてきた。

「やあ、エンプレスの町の冒険者かな?」

「はい! 僕はまだですけど」

「ははは、そうか。まだ登録できない年齢ってことね」

 フルフェイスの白銀の騎士が声をかけてくる。ニカが答えてくれる。そうか、この町はエンプレスって言うのか。そういえば聞いてなかったな。

「じゃあ、そっちのお兄さんが冒険者かな?」

「あ、はい」

 白銀の騎士はそういって馬から降りて近づいてくる。兜の中の表情は読めないけど、楽しそうな感じに顔を左右に振っている。

「ふむふむ、中々強そうかな。まあ、これからって感じか」

「え?」

「ううん。こっちの話~。これから私もこのエンプレスの町で冒険者をするから、よろしくね」

 白銀の騎士はそういって馬に乗ると町への列に並んだ。声からして女性っぽいな。

「強そうなお姉さんだったね」

「うん。たぶん、僕よりもはるかに強いと思う」

 僕よりはなんて言えるほどレベルも上がってないけどね。ニカに答えた自分に少し恥ずかしさを覚えて歩き出す。さあ、外の魔物はどんな感じだろうか? ニカじゃないけど、ワクワクが止まらない。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...