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第一章

第7話 討伐

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「わぁ~!」

 ルガさんに案内されて降りてきたところと同じ入口から地下に来た。ニカは地下に下りて一声、感動しているみたいだ。臭いのに楽しそうで僕は複雑な心境だ。

「町の地下にこんな空間があるなんて~」

 目をキラキラさせて声をあげるニカ。冒険って言うのを体で感じてるみたいだな。剣を構えて素振りまで始めちゃったよ。

「ハヤト兄ちゃん! 早く!」

「はいはい」

 仕事のことも忘れてネズミの魔物を探すニカ。急かすように手招きしてくる。僕も普通に冒険に来ていればワクワクしたんだろうな。裸スタートだったからワクワクよりもオドオドって感じだったからな。

「ネズミ!」

「普通のやつだな」

 普通のネズミの魔物が三匹、地面の匂いを嗅ぎまわっている。気づかれる前に近づいて仕留めたいな。

「やあ!」

「ああ……」

 ニカが声をあげて駆け寄っていった。するとネズミ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「あれ?」

「ははは、あんな声をあげたら逃げてっちゃうよ。奇襲は静かにね」

「ん、難しいな」

「少しずつ慣れていこう」

「うん!」

 ニカの頭をポンポンして慰める。初めての狩りは失敗だけど、ただの失敗では終わらせないぞ。

「いた!」
 
 逃げていったネズミを追いかけて、やっと追いついた。三匹が一匹になってしまったけど、初めての討伐としては丁度いいだろう。

「静かにだよね」

「そうそう」

 ネズミは僕らにまだ気が付いてない。背中を向けてキョロキョロと前方を見ている。ニカは中腰で近づいて剣を振り上げる。そして、

「や!」

 振り下ろされる剣。見事にネズミに命中してドロップアイテムが落ちる。

「やった~!」

「おめでと」

 喜ぶニカの頭を撫でる。嬉しそうにドロップアイテムを拾う。

「尻尾はいくつだっけ?」

「三本だな」

「じゃあ、あと二匹だね! よ~し」

 ニカは鼻息荒く気合を入れる。僕は掃除に勤しむかな。

「待て~!」

「ははは、やってるやってる」

 ニカの声を背景に僕は下水の詰まりを掃除していく。横穴から漏れ出る水を遮っているゴミを取り除いていく。は~臭い臭い。

「ハヤト兄ちゃん。終わったよ~」

「ええ!? 早いね」

「うん。見つけるのが大変なだけですぐに倒せたから」

 ニカは才能があるかも知れないな。教えたことをすぐに実行できるし。

「これでこっちもおしまいだ。一度ギルドに帰ろうか」

「え~。まだまだ狩りたいよ」

「クレイジーラットとかにあったら危ないだろ?」

「ん~」

 ニカはまだまだやりたいみたいだ。あんまり長居しても体に悪そうだしな~。
 
「ぎゃ~! 助けてくれ~!」

 帰ろうとニカを説得しようと思っていたら声が聞こえてきた。この声はルガさん?

「ハヤト兄ちゃん!」

「いこう!」

 助けを呼んでる声はたぶんルガさんだ。昨日に続いて下水の依頼をしに来たんだろう。

「ぎゃ~! 腕が~」

「!? 急ごう!」

 遠くから聞こえてくる声に危機感を感じて走る速度をあげる。ニカも何とかついてこれてる。

「ひい」

「ルガさん!」

「ハヤト!」

 声の元にたどり着くとルガさんが緑色のヘドロに襲われていた。右腕がヘドロに覆われていてジューと焼ける音が聞こえてくる。

「スライム!? 火がないと倒せないよ!」

 ニカが息を切らせて声をあげた。スライムは火がないと倒せないの!? ど、どうしよう、って異世界商店で買うしかない!
 僕はすぐに異世界商店に入店して松明を買う。すぐに取り出してスライムに火をあてがう。
 みるみるルガさんから遠ざかるスライム。

「この! よくもルガさんを!」

 スライムに松明を差し入れる。ヘドロがなくなって赤い球みたいなものが地面に落ちる。赤い球は生きているようにウネウネ動いてる。

「コアかな? これを切れば」

 短剣を球に差し込む。思った通り、コアみたいで短剣を差し込むとドロップアイテムと魔石が落ちた。

「助かった。ありがとうハヤト」

「いえ、こちらこそ……」

 怒られて追い出された後だから気まずいけど、お礼を言ってくれるルガさん。ルガさんの右手が焼かれて無残なことになってる。

「ハヤトを追い出した罰か。あのスライムヤロウ、天井から落ちてきやがった。昨日はいなかったのにな」

 ルガさんは泣きそうになりながら右手を眺めている。動かすのもいたいみたいで顔を歪ませる。

「……」

 僕は無言で異世界商店に入店して道具を買う。赤いポーションと言われるアイテム。説明を見ると回復すると書いてあった。ゲーム知識で考えるとこれで怪我が治るはずだ。

「これを」

「!? こりゃポーションか! こ、こんなもんもらえねえ」

「じゃあ、かけますね」

「わっぷ」

 受け取ろうとしないルガさんに無理やりかける。火傷のように黒くなっていたルガさんの右手がみるみる回復していく。

「……ありがとうハヤト」

「いいんですよ。恩を返せてよかった」
 
 ルガさんは治った右手を涙目で眺めてお礼を言って来た。

「兄ちゃん」

「ん? ああ、そうだね。帰ろう」

 ルガさんに手を貸して引き起こすとニカが声をあげた。ニカはルガさんがやられていたのを見て怖がってるみたいだ。すぐに帰りたくなっちゃったみたい。ある意味ニカのいい経験になったかもな。
 ルガさんと共にギルドに帰ってきた。表からは入れないと渋っていたルガさんだけど、無理やり表から入る。くさいのは僕らも同じだからね。
 すると、さっきとは違う反応が返ってきた。

「くせっ!?」

「なんだこの匂い!?」

 ギルドに入るとさっきよりも人がいて、若めの冒険者達に睨みつけられる。構わずに受付のヴェインさんに声をかける。
 
「仕事終わらしてきました」

「お、おう」

 冷や汗をかいてヴェインは鼻も摘ままずに答えてくれる。それでも周りの視線は気になるようでキョロキョロと視線を動かしている。

「汚れ仕事ってやつはどうしても汚れる仕事だ。みんな許してやれ」

 ひときわ大きな声が聞こえてくる。その声の先を見ると二階で大きな戦斧を持った人がいた。胸の前で組んでいる両腕には無数の傷跡、顔にも大きな傷がついていていかにも歴戦の冒険者って感じがする。

「あの人はバルバトスさんだ。このギルドの一番くらいの高い冒険者。苦労人だからな。ハヤトさん達のことを応援してくれてんだ。実は昨日の時点でハヤトさんに目をつけていたとか言ってた」

「ええ!? 目をつけるってなんで?」

「さ、さあ?」

 なぜかそんな凄い人に目をつけられてた? でも、応援してくれてるならいいことなのか?
 まあ、とにかく。

「スライムもいたので狩ってきたんですが報酬出ます?」

「え!? スライム!? 大丈夫でしたか? 魔法がないと勝てないと思いますが?」

「え? 松明の火で何とか」

 報告をしようと思ったんだけど依頼になかったスライムのことも聞いておこうと声をあげるとヴェインは驚きの声をあげた。
 属性しか効かないと言ってもやりようはあるよな。

「なるほど、そんな方法が……でも、普通は松明の火じゃ勝てないから逃げてきてくださいね」

「あ、はい」

 逃げるったってな。とニカとルガさんと顔を見合う。あの状況で逃げたらルガさんは確実に死んでたからな~。

「じゃあ、報酬の銅貨5枚とスライムの魔石の報酬が銀貨1枚」

「え!? スライムの魔石ってそんなに高いんですか?」

「高いって汚れ仕事は安いから。スライムは魔物のランクとしてはDだからそれほどでもないぞ」

 報酬をもらって驚くとヴェインは笑って答えてくれた。
 どうやら、この世界の魔物の魔石は高価っぽいぞ。ネズミの魔石を一個異世界商店にいれてみようかな。ギルドに卸すよりも高かったらそっちの方がいいから依頼を達成する数だけ納めて、ムフフ。

「ハヤト兄ちゃん? 何考えてるの?」

「あ、いや、何でもないよニカ」

「ふ~ん」

 ルガさんも報酬をもらってるみたいなので依頼を一通り見てルガさんを送っていこう。
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