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第一章

第42話 戦争と潜入

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「タリウス様! 国境に動きが!」

 屋敷の庭での訓練が日課になりつつあった時、伝令の声が響いた。
 タリウス様と共に兵士に続いて城壁へと上った。
 城壁から国境を見ると煙が立ち上っていた。
 山の上にある町の城壁だから、かなり遠くまで見えるな。

「国境の砦が包囲されているようです」

 煙は狼煙のようだ。兵士が説明するとタリウス様が動き出す。

「すぐに帝都へと馬を走らせてくれ。援軍を求むと」

「はっ!」

 タリウス様が指示を飛ばすと兵士が馬に跨って走り去っていく。
 戦争か……。怖いな。

「ルレインさん、アルテナ様と屋敷で」

「いえ! 私は! 騎士です。戦場こそ、私の」

「……。あなたには傷ついてほしくない。私の我がままを聞いてほしい」

 タリウス様のまっずぐな言葉にルレインさんは口ごもる。屋敷にお世話になっている間、ルレインさんは剣を一度も握れてない。タリウス様は過保護で彼女のことを分かってないんだよな。

「タリウス様はダメだね」

「!? 私がだめ? なんですか急にミーシャさん」

 やれやれといった様子のミーシャが声をもらす。タリウス様は戸惑いながらミーシャを問いただした。

「ルレインさんは私らと同じ人種だよ。戦いたくて戦いたくてうずいちゃう。訓練してる時に見ていたのもそのせいだよ。タリウス様の心配をしていたわけじゃないの」

「なっ。そんなわけ……」

 ミーシャの言葉を否定したい気持ちでいっぱいのタリウス様。視線をルレインさんに移すと口ごもっていく。

「ミーシャさんの言う通りです。私は姫ではありません騎士なのです。アルテナ様を守る騎士なのです……」

 ルレインさんは悲しい顔で俯くと呟いた。

「無理をしてくれていたんですね」

「……」

「分かりました! ですが城壁での防衛に参加してください。これ以上は譲歩できません」

「ありがとうございますタリウス様」

 タリウス様は決心して声を放つ。ブルームちゃんの呪縛を解くにはオルダイナ王国へ行かないといけない僕らは混乱に乗じて潜入が好ましいな。

「僕らはオルダイナ王国へと潜入しようと思います」

「分かりました。気をつけて」

 握手を交わして僕らは出発の準備を始めた。

 準備を終えて、次の日。僕らは馬車に乗り込んでいく。

「皆さん、ご無事を祈っています」

「ありがとうございますルレインさん。そちらもご無事で」

 みんなで順番にルレインさんと握手を交わす。アルテナ様の姿が見えない。前の晩は【テナ】になって泣きじゃくってたからな。

「かなり好かれちゃったもんねヒューイ」

「ん、大好きって言ってた」

 リーシャとルラナが僕の考えていたことを察して呟く。挨拶せずに別れるのは僕も寂しいんだけどな。

「じゃあ、行ってきます」

「気をつけて!」

 馬車に乗り込むと馬車が動き出した。闇の収納に旅に必要なものは積み込んだ。馬車の中にはすぐに使うものが詰め込まれてる。忘れ物はないな。

「お~い、もう大丈夫だぞ」

「え? ステイン何を?」

 馬車が城壁を越えて、ボルテックを後にするとステインが声をあげる。

「は~。息苦しかった~」

「ええ!? アルテナ様!」

「テナと呼んでほしいといっただろ? ヒューイ」

 樽から飛び出したテナ。彼女は抱き着いてきて耳元で囁く。ステインに視線を送ると彼は苦笑いを浮かべた。

「アルテナ様の人格もブルームの組織が関わっていそうだからな。それにあの場に一人で居させても可哀そうだろ。アルがな」

 ステインが苦笑いを浮かべながら話した。
 【アル】の人格の方はタリウス様を愛してる。タリウス様がルレインさんを好きと言ってからアルでいる時間はかなり少なくなっていた。テナばかりが表に出ていて少し心配だったんだよな。
 僕らといたほうが幾分かましだとステインが判断したみたいだ。

「ステインはいい男!」

「ははは、そうだろう。俺って結構女心知ってるんだぜ。そういえば、エラは元気にしてるかね~。心配になっちまったな~」

 テナに褒められるステインが空を見上げる。そういえば、おなかも大きくなっていたし、そろそろかもしれないな。
 
「しかし、テスラ帝国の砦では戦争が始まるはずじゃな。はずれの道を進んでいくことになりそうじゃな。そうなると馬車は無理そうじゃ」

 ワジソンが話す。
 道なき道を行くこととなる。そうなると馬車を置いていかないといけないな。

「魔物とも多く遭遇しそうだね」

「ムフフ。ヒューイにもらった大剣が輝く!」

 リーシャの言葉にミーシャが大剣を掲げて笑う。あそこまで自慢げにされるとなんだか恥ずかしいな。

「ん、短剣に魔法を宿してみた。どうかな? ヒューイ」

「そんなことも出来るのか。凄いなルラナは」

 ルラナが自慢げにミスリルの短剣を見せる。思わず頭を撫でてしまう。

「わ、私も魔法を込めてみたんだ~。弓に込めるのは初めてだったけど、うまく行ったよ」

「リーシャも? ミスリルはマナとの親和性が高いからうまく行きやすいのかな?」

 リーシャも魔法を武器に込めたらしい。恥ずかしそうに報告してくれる。

「う、うん。でも、それもヒューイのおかげかな。ほら、私って魔法が不得手だったでしょ。それなのにうまく行ったのはヒューイが作ってくれた弓だからで……」

 リーシャは謙遜して僕のおかげと言ってくれる。ドントさんも言っていたけど、僕の打った武器は普通の武器よりもマナを取り込みやすくなっていたみたい。話ではスキルが作用していたんじゃないかだってさ。
 彼も初めてのことらしいからよくわからないけど、武器を強化してしまっていたらしいな。
 物体を強化か……色々と試すことが必要なようだ。

 しばらく、馬車で進んで道がなくなってくると馬車を置いて歩き出した。闇の収納にすべてのアイテムを詰め込んだ。馬は離してやるとボルテックの方へと走り出していった。馬車はもしかしたら使うかもしれないから持っていくかな。

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