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第一章

第39話 【チャージ】

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 僕らの依頼は達成された。だけど、このままルレインさん達をタリウス様に任せるのも気が引ける。
 それに、ブルームちゃんのこともあるからキスタンに帰らないこととなった。ブルームちゃんがうなされていたように”孤児院”と言われる組織の”シスター”と言われている人をどうにかしないといけなくなった。
 彼女は時折、ビクッと体を震わせることがある。それはすべてそのシスターと言われる人の影響だと思うんだ。僕の強化スキルで体は治っても精神までは治せない。ブルームちゃんがそのシスターという人を克服するくらい強くなってくれないとダメそうだ。

「ヒューイ君」

「はい? タリウス様何かご用ですか?」

 タリウス様のお世話になって一日。
 ディアボロスに刀の扱いを学べって言われて毎日やっている素振りをしていたらタリウス様が声をかけてきた。

「いい体をしてる。しかし、型がなっていないぞ」

「はい。自分でも分かってるんですが武器を使った戦いは知らなくて」

 スカイと共に冒険していたころはずっと後ろでみんなの強化をしていただけだ。武器は使わないで石を投げたりしてたんだよな。
 剣を振ったこともないのに刀なんて特別な武器を扱うことになるとは思ってもみなかったもんな。
 タリウス様は首を傾げてる。

「自分の武器を持っているのに使ったことがない?」

「はい。僕はいわゆる支援をするタイプの冒険者なので、先頭で戦うなんてしたことがなかったんです。砂漠のオアシスのみんなと行動するようになってから初めてやってます……」

 タリウス様は僕の答えを聞いて考え込む。しばらく頭を悩ませるとポンと手を叩いて、口を開いた。

「剣を教えよう! ルレインさんやアルテナ様をここまで連れてきてくれたお礼だよ」

 タリウス様はそういって屋敷の窓から見ていたルレインさん達を見つめる。
 なんでみんなをみているのかわからないけど、教えてくれるなら教わりたいな。

「いいんですか?」

「ああ、恩人だからね。でも、訓練は厳しいよ」

「はい! ありがとうございます」

 タリウス様は優しく僕の肩に手を置いた。こんなに早く剣の師匠を得られるなんて。残念なことに刀の技や技術ではない、僕からしたら剣だろうが刀だろうが関係ない。武器の扱いをしらなかったんだからね。

「うん。筋肉がしっかりしてるからいい素振りをするね」

「はい。タリウス様」

「ヒューイ君。マスターと呼んでもらえるかな」

「はい。マスター」

 剣の素振りの型を教えてもらってひたすら振ってみる。
 型が分かっただけでこんなに早く振れるものなのかと思うほど変わった。縦の振りや横の振り、斜めや切り上げなど、そのすべての型があってすぐに吸収する僕を楽しそうに教えてくれるマスタータリウス。

「素質があるとは聞いていましたがこれほどとは……。どうです? 私とやってみませんか?」

 マスターはそういって木剣を二本手に持って、一本を投げ渡してきた。
 マスターは木剣を構えて手招きをする。

「さあ、打ってきなさい!」

 マスターの言葉に頷いて木剣を構える。

「来ないのならばこちらから行きますよ」

 マスターは言葉と共に木剣を振り下ろしてきた。後ろに飛んで躱すとすぐに距離を詰めてきて横なぎに木剣を振ってきた。木剣で受けると流れるように左右に揺れるマスター。受けてもマスターの体をずらすことはできないみたいだ。力が流される。

「考える暇を与えませんよ!」

 上下左右前後に動いて木剣を振り回す。マスターの剣を受けるととても軽い衝撃を受ける。気づくと別の方向から剣が振られる。スピード重視の剣術、見ていて華麗な剣術だと感じた。

「ルレインさんの言っていた通り筋がいい。さあ、次はこれはどうだい?」

 マスターはそういって木剣を輝かせ始める。あれは?

「マナを、魔力を剣に纏わせる技法です。これで叩かれたら痛いですよ」

 タリウス様は輝かせた木剣を振るってくる。ゆっくりと振るわれた木剣だったけど、僕の持っていた剣に触れると大きく跳ね飛ばされた。手がジンジンする。

「どうです? 凄いでしょ?」

 タリウス様は得意げに告げて木剣を僕に向けてくる。降参と両手をあげて答えた。

「テスラ帝国の技法【チャージ】覚えられそうですか?」

「そうですね。覚えられるならやってみたいですね」

 タリウス様のやってきた技は【チャージ】って言うのか。身体強化ではなく、剣を強化する感じなのかな? そういえば、人間以外に強化スキルをやったことはなかったな~……。やってみるか。

「(強化)」

 弾かれた木剣を拾って構えるとボソッと小声で強化スキルを発動させる。別に声は出さなくていいんだけど、初めてのことだから意識してやってみた。すると、

「!? 凄い! 出来てますよヒューイ君!」

 木剣がうっすらと輝く。タリウス様が自分のことのように喜んでくれた。

「ん、ヒューイにできないことはない。次は魔法覚える?」

「ルラナ……。魔法は流石に無理だよ」

 屋敷からルラナが出てきて声をあげる。ミーシャ達も出てきて木剣を肩に担いでる。

「俺達も鈍っちまうからいっちょもんでくれよ」

「うんうん。ヒューイから一本取ったタリウス様とやりたいわね」

 ステインとミーシャが僕とタリウス様に声をかけてくる。僕とタリウス様は顔を見合って苦笑いを浮かべて頷いた。断ると長くなりそうだからね。

「ステイン。儂は少し工房を覗いてくるぞ。これから替えの武器なども必要じゃろ」

「あ、ああ、すまない。おれも」

「いや、大丈夫じゃ。ドワーフ工房に行くからの。酒が強くないと危険じゃ」

 ワジソンが大斧を担いで敷地の外へと歩いていく。ステインが一緒に行こうと言うと、変な答えが返ってきた。
 僕が首を傾げているとタリウス様が笑いながら答えてくれた。

「ドワーフ達は酒を飲みながら仕事をするんですよ。『酒が飲めねえ奴はいれねえ』と言うものですから強くなくちゃ入れないというわけです」

「は~。それは大変ですね」

 そんな工房子供達と一緒には入れないな。匂いだけで酔ってしまうだろう。というか、度数の高いお酒は引火するんじゃないのかな? 危険な職場だ。

「隙あり~!」

「おっと! ミーシャの相手はタリウス様だろ!」

「え~、そうだっけ?」

 危険だな~と思ったらミーシャが大きな木剣を振り下ろしてきた。かろうじて躱すと地面に突き刺さる木剣。頭に当たってたら死んでるんじゃないかな?

「じゃあ、今からヒューイは私の相手ね。一本取ったら町に買い物に行きましょ」

「ん? 別に一本取らなくても行けばいいじゃないか? みんなで」

「……。そうじゃなくて二人っきりって意味よ」

 ミーシャが顔を赤くして勝負の仕掛けてきた。買い物なんていつも行ってるし、リーシャと二人で買い物してるといつもミーシャが現れたから三人でよく買い物してたんだよな。今更二人っきりでっておかしいと思うんだけどな。

「お姉ちゃん? まさか……」

「この町はいい武器がありそうだからヒューイに買ってもらおうと思ったんだ~。ミスリルの大剣が欲しいな~」

「な、なんだ~。よかった……」

 リーシャが心配そうにミーシャへと声をかける。答えを聞いて安心して胸を撫でおろすリーシャ。
 どうやら、ただただミスリルの大剣を買ってほしかっただけのようだ。
 ディアボロスを倒した報酬があるからミスリルくらいは普通に買えると思うんだけどな。わざわざ僕におねだりしなくても。

「わかったよ。一本取れたら奢るよ。でも、手加減しないよ!」

「ええ!? ちょっとヒューイ! タリウス様には手加減してたじゃない!」

「え? 別に手加減してないけど?」

「嘘嘘嘘だよ~。強化してなかったでしょ!」

 手加減しないと言ったらミーシャが焦って声をあげる。確かにタリウス様には常時発動してる強化だけで意識しての強化はしてなかった。
 意識した強化をしたら木剣なんか粉々になっちゃうからな~、教えてもらうのにそんなことしたら意味ないからな~。

「そうか、手加減していたのか。ぜひ、本気を見せてほしいな」

「うちのヒューイの力を見ておいてください」

 完全に見学モードになったタリウス様とステイン。屋敷の玄関前で腰かけて休憩してる。

「じゃあ行くぞミーシャ」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「待たない!」

 横なぎに払った木剣を躱すミーシャ。彼女も前衛をこなすだけあって、闘い慣れしてる。僕の強化した攻撃を躱すなんて良い勘してる。

「早い! 早いよ~! ヒューイの意地悪!」

「その割には躱すよね。でも!」

 バギ! タリウス様みたいに剣を強化した一撃がミーシャの大きな木剣に触れる。彼女の木剣は粉々になって弾けた。

「……ずるいずるい~! ヒューイのバカバカバカ~!」

「ははは、ごめんごめん。ミスリルの大剣は買ってあげるから」

「!? ほんと? やった~! ヒューイ好き好き~」

 ミーシャはその場に座り込んで泣き出した。【チャージ】の実験をさせてくれたお礼にミスリルの大剣を買ってあげることにすると彼女は抱き着いて頬にキスをしてきた。
 なぜかルラナとリーシャが瞬時にミーシャに近づいて、羽交い絞めにするとお腹をつねってた。かなりいたそうでミーシャが悲鳴をあげてる。二人にもミスリルの装備を買ってあげようかな? 弓はあるだろうけど、本はないよな。
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