何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第36話 テスラ帝国へ

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 ヒューイ達が魔族との戦闘を終えて、テスラ帝国へと歩みを進め始めたころ。
 オルダイナ王国のある屋敷の中で倒されたはずのルベジャンとドラッグが痛みを感じていた。

「くっくっく。これはこれは……」

「ゲヒ!? ゲヒヒ。俺達の分身体がやられた~!」

 気持ちの悪い笑みを浮かべる二人。強いものが現れて気持ちを高ぶらせているようだ。

「この分身体はテスラ帝国に盗賊達を始末に行かせていたものですね」

「ゲヒ。タイミング的にアルテナ御一行とかちあったか? オルソナル様が依頼した【孤児院】の刺客も失敗したらしいしな。かなりの強敵みたいだぞ~」

 ルベジャンとドラッグが肩を抑えて話す。分身体は体の一部から作り出しているようだ。やられるとその部位が痛み、知らせる作りになっている。

「ふむ、アルテナ御一行が行くというから始末に向かわせたというのに。間の悪い」

「ゲヒヒ。まあ、知られても同じことだろ。オルダイナ王国はすでに俺達魔族のものになってんだからよ」

「まあ、そうですね」

 ため息をついてルベジャンが話すとドラッグがニタ~と笑って告げる。すでにオルダイナ王国は敵の手にわたってしまったようだ。

「そんなことよりもオルソナル様はどこにいったんだ?」

「オルダイナ王を操りに行ったよ。これから本格的に戦争だとよ」

「くっくっく。それはそれは、食べ放題ですか」

「ゲヒヒヒヒ! そうだよ! 楽しみだな~」

 二人はほくそ笑む。戦争をしていた両国だったが、それは他国をけん制するための時間稼ぎのためだった。
 オルダイナ王、アルテナの父が病に伏せってしまったことで弱まったオルダイナ王国を守るためのものだった。
 オルソナルはそれを良しとせずに行動を起こし始めた。元々持っていた力を強化し、魔族と手を組み、テスラ帝国を……世界を手に入れようと動き出した。
 知ってか知らずか、アルテナも動き出しテスラ帝国へと助けを求めに。運命が動き出している。





「皆さん! そろそろテスラ帝国ですぜ!」

 盗賊のリーダー、ギーチが満面の笑みで告げる。魔族との戦闘から二日ほどたってやっとテスラ帝国が見えてきた。テスラ帝国の国境の町ボルテック。電気と言われる魔法みたいなものを生み出す機械を作っている町らしい。ドワーフが多めの町って聞いたな。

「止まれ」

 町の入口に着くと門兵が声をかけてくる。説明すると盗賊達と捕まってた人たちに事情聴取し始める。もちろん、僕らも。

「親分。仲間の仇を取ってください」

「ああ、分かってる。あの魔族野郎達に一泡吹かせてやる」

 ギーチは犯罪奴隷にならずに僕らについてくることとなった。涙ながらに僕らにお願いしてきてそういうことになってしまった、その時に名前も聞いた。もちろん、帰ってきたら罪を償なわせるけどね。門兵にはギーチは僕らの仲間だと言ってあるから小声で別れを告げている。
 門兵に連れられる仲間達を悲しそうに見送るギーチ、そんな仲間思いのやつがなんであんなことを……。

「すんません皆さん。俺なんかのお願いを聞いてもらって。この恩は死ぬまでに果たします」

 御者席に座って馬車を操作しながら話すギーチ。僕らはため息をついた。

「そりゃあいいんだけどな。お前さ~、なんで盗賊なんてやってたんだよ。そんな仲間思いのくせに」

 ステインがひと際大きなため息をついて告げる。ギーチは俯きがちに口を開いた。

「俺、得意なことが暴力で」

「は?」

 何を言っているんだ? と思って思わず声をもらす。それも想定済みだったのかギーチは語り続ける。

「いや、得意なことがなくてって言う方があってるか。それでいつの間にか周りにはそんな奴ばっかになってさ。俺達に話しかけてくるやつも悪い奴ばっかになってそいつらのお願いを叶えてたらあんなことに。はは、今回のことも因果応報とかいうやつだよな。罪を犯した罰だ」

 涙を拭いながら語る。

「俺の代わりに捕まったあいつらの代わりにも奴らにこの拳をねじ込ませてやるんだ。それが叶えられるかわからねえけど、その間、よろしくお願いします」

 ギーチは前を向きながらお辞儀をする。僕らはまたもやため息をつく。
 彼は人をさらうけど殺しはしなかったらしい。魔族に明け渡していた時点で同罪だけどね。

「アルテナ様。ここでよろしいですか?」

「はい。ここです」

 ボルテックの街並みは銅のような輝きの多い家々が並んでいる。よく見るとレンガ造りの家に銅板をつけているという感じだ。慣れるまでは目がシバシバする。
 その家のひと際大きな屋敷を指さすアルテナ様。ギーチが聞いてるんだけど、流石のギーチも口が開きっぱなしだな。

「タリウス様はいらっしゃるか?」

 ルレインさんが馬車から降りて屋敷の門を守る兵士に声をかけた。
 
「あなた方は?」

「タリウス様に見ていただければわかります」

「……。分かった。少し待て」

 オルダイナの騎士の鎧を着ているルレインさんが声をかけてるのに警戒しないで話を聞いてくれる兵士。少し不思議に思いながらも様子を伺っていると門が開いて馬車が屋敷の敷地内に入って行く。

「ようこそルレインさん。よかった手紙が届いたのですね」

 門の前で待っていた綺麗な服を着た男性がルレインさんの両手を握って声をかけた。彼女は驚いた顔で僕らを見てくる。

「タリウス様!」

「はい? あなたは?」

 アルテナ様が馬車から飛び出して男性へと駆け寄る。あの人がタリウス様なのか。
 アルテナ様が来たって言うのに反応がおかしいような気がするな。

「わ、私はアルテナです」

「アルテナ? オルダイナのお姫様がなぜ?」

 アルテナ様の言葉に首を傾げるタリウス様。その様子に僕らは首を傾げる。ルレインさんも不思議そうにしてる。

「タリウス様。私はこの手紙を読んできたのです。国を捨ててでもあなたと結ばれようと」

「え!? こ、この手紙はルレインさんに送ったもの!?」

 手紙を出すアルテナ様に驚愕するタリウス様。これはどういうことなんだ?

「そ、そんな。私はこの手紙を信じてやってきたのに……」

「アルテナ様」

 涙を浮かべて膝をつくアルテナ様。慰めるように抱きしめるルレインさん。
 その様子を見ていたタリウス様は僕らを屋敷の中へと促した。
 色々と謎だらけだ。何が起こってるんだ?
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