何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第31話 事情

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「ルレインさん?」

 彼女に連れられて外へと出た。俯きながら前を歩く彼女に声をかけると振り向いて大きく頭を下げてきた。

「申し訳ない」

 ルレインさんは謝ってくる。アルテナ様のことかな? 別に僕らは怒ってないけど。

「訳ありってこと?」

「……アルテナ様はブルームちゃんと同じなのです」

 ミーシャが声をかけるとルレインさんが話しだした。今も家の中にいて、アルテナ様と遊んでるブルームちゃん。彼女と同じということはまさか……

「昔、アルテナ様が乳飲み子のころです。あの方は誘拐されました」

「誘拐?」

「はい。かん口令により国民がしることはありませんでしたがあったのです」

 なるほど、その時に、じゃあ、僕が治せば。

「それならヒューイに治してもらえば」

「……どちらのアルテナ様が本物か、わかりません。それにどちらも私達の姫様なのです。どちらがという話ではないのです」

 ミーシャの言葉にルレインさんが答える。ブルームちゃんと同じように別の人格を入れられちゃったってことか。
 治すことになったら本物が残ると思うけど、ルレインさんはアルテナ様の二つの人格を愛してる。どっちも彼女にとってはアルテナ様なんだな。

「わがままなアルテナ様を愛してほしいとは言いません、ですが許してあげていただけないでしょうか?」
 
 ルレインさんの懇願の言葉にみんなで顔を見合って頷いた。彼女の肩に手を置いてリーシャが微笑む。

「大丈夫ですよ」

「うん。わがままな子供は慣れてる」

「ちょ、ちょっと~。なんでそこで私を見るわけ?」

「ははは、確かにミーシャと同じだもんな」

 リーシャ、ルラナ、ミーシャが順番に声をかける。ミーシャがからかわれるとステインと一緒にみんなで笑った。

「ヒューイまで! みんなして私のことを子供だと思ってたのね! 酷い!」

「あらら、ミーシャ! 森に行っちゃったよ……」

 普通に不機嫌になったミーシャが村から出て森へと走っていった。まったく、こういうところが子供なんだよな。仕方ない、

「ちょっと迎えに行ってくるよ」

「じゃあ、僕も一緒に行く。森だから魔物もいるかもしれない」

 ミーシャを追いかけようと声をあげるとルラナも同意してくれた。平和な村とはいえ、用心するにこしたことはないもんな。

「お姉ちゃんがごめんね。私は夕飯を用意しておくね」

「リーシャさん。私も手伝います」

「じゃあ、俺はワジソンの様子を見てくる」

 リーシャとルレインさんが料理をつくってくれるみたいだ。ステインはワジソンの手伝いかな。鍛冶のことはよくわからないから、僕も見学してみたかったな。明日もやるんだったら見てみたい。

「いこ」

「ああ、ルラナ。そんなに引っ張ったら危ないって」

 ルラナに引っ張られてミーシャを追いかける。ルラナがこんなに積極的になるのは珍しいな。何か理由があるのかな?

「僕も森に行きたかった」

「ああ、そうだったのか、言ってくれれば言ったのに」

 ニッコリ微笑んだルラナが理由を教えてくれた。精霊のルラナにとって森って特別なものなのかな。

「ミーシャ~」

「ヒューイ。来てくれたの?」

 森の手前で蹲るミーシャ。声をかけると嬉しそうに抱き着いてくる。

「ルラナも嬉しいな~!」

「ん、僕は森に来たかっただけ」

「ん~。そういうのも好き~」

 ルラナもいることに気づいて彼にも抱き着く。彼は照れ臭そうに頬を掻いて森へと視線を向けた。

「少しだけ待ってて」

 ミーシャを押し離して木に手を当てる。目を瞑ったルラナは声をあげた。

「瞑想?」

 ルラナは目を瞑ったまま体を固定する。

「んふふ~。ルラナが終わるまでヒューイと二人っきり~」

「は、ははは~」

 ミーシャが抱き着いてきて声をあげる。乾いた笑みを浮かべる僕、あ~早く終わって。

「ん、もういいよ。ミーシャくっつきすぎ」

「あん。ルラナもくっつけばいいじゃん」

「言われなくてもくっつく」

 左右にミーシャとルラナがくっつく。二人共なんでそんなに僕にくっつきたがるんだろうか。まえに聞いた時はポカポカするとか言われたっけ、ミーシャはなんでなんだ? どうせだから聞いてみるか。朝に裸で隣に寝られるのも困るし、聞いておいて損はないな。

「ミーシャはなんで僕にくっつくの?」

 僕の言葉にミーシャは一度考え込んで口を開いた。

「改めて考えるとどうしてなんだろう? でも、ヒューイにくっつくと落ち着くって言うのかな。体の中の何かが整う感じ?」

 ミーシャの言葉に首を傾げる。ルラナみたいに抽象的な印象をうけるな。【強化スキル】が影響を及ぼしてるのかな? まあ、気になったことも聞けたし、とりあえずはいいかな?

「リーシャが料理を作ってくれてるはずだよ。早く帰ろ」

「え~。もうちょっといようよ~」

「じゃあ、ミーシャがここにいればいい」

「あ~嘘嘘。ルラナ置いてかないで~」

 みんなの元へ戻ろうとするとミーシャが駄々をこねる。ルラナと一緒に置いていこうとすると駆けてきた。こういうところも完全に子供だよな~。

「!? 二人とも! 構えて!」

「「!?」」

 ルラナが森の方に振り返って声をあげた。

「木に触ったのは意識を貸してもらうため。森の中が騒がしくなった。魔物が来る!」

 ルラナが木に触った理由を話して本を広げる。すぐに詠唱を開始した。

「【我、この世の人ならざる者。力に答え、雷雲を起こせ】」

 バチバチバチと黒雲が生まれる。すぐに姿の見えない森の魔物へと雷が降りていく。
 見えない魔物の悲鳴が聞こえてきて、ミーシャと顔を見合って頷く。確かに魔物がこっちに来てるのが分かった。

「ルラナはみんなを呼んで。私とヒューイは迎撃する」

「分かった」

 ミーシャが声をあげるとルラナが村へと走り出した。二人にはすでに強化を施している。魔法使いのルラナでもかなりの速さで走れるようになってる。

「平和はずっとは続かないってわけね」

「ああ、僕らが来ててよかったよ」

 ルギちゃんを回復させるにとどまらずにこんな群れからも村を守れる。本当にこの村に寄ってよかった。

「ちょ、ちょっと待って! 群れだとは思ったけど予想よりも凄い量!」

 落雷の数から群れだとは思ったけど、森の背景が見えなくなるほどの魔物達だ。二人で驚愕してしまう。すべて人型の魔物、ゴブリンだ。腰巻だけのゴブリン、鎧を着ているゴブリンが村へと近づいてくる。ミーシャと顔を見合って苦笑いを浮かべる。そして、

「「ぷ、ははは」」

 大きく笑ってゴブリンへと振り返ると二人で走り出す。僕らはゴブリン達の列へと切り進んだ。

「こんなにいっぱいいるなんて信じられないねヒューイ!」

「ああ、でも、僕らには」

「「勝てない!」」

 ゴブリン達の中へと入ってミーシャに背中を預ける。声と共にゴブリン達を切りつける。一振りで5匹以上のゴブリンを切れるほど密着している。
 小数対多数で普通はこんな戦いしたらすぐにまけるけど、僕らはこの戦いを選んだ。なんでかというと奥のゴブリンが弓を持っていたのが見えたから。矢が頭に当たったら流石に僕のスキルでも治らないかもしれない。中に入ってしまえばゴブリンを盾にできる。
 丁度矢が飛んできて横のゴブリンの頭を貫く。隙をついて弓矢を持っているゴブリンを狩らないとな。

「ヒューイ! 背中を借りるよ!」

「了解!」

 声に反応して前傾姿勢。背中に重みを感じて見上げるとミーシャの得意技、ジャンプ切りが炸裂してる。大剣の重みを利用した縦回転の攻撃。矢を射って来たゴブリンの列までの道が出来上がる。

「次は僕らだ。行くぞディアボロス」

「可笑しな戦闘だ」

 僕は声をあげる、ディアボロスが呆れたように声をもらした。
 走りながら横なぎにディアボロスを往復させる。ただ振り回すだけの攻撃でゴブリン達が倒れていく。

「おかしな人間」

「なに?」

「私の使い方を誰かに習えないか? ただ振り回すだけでは私の力を使えきれないぞ」

 武器を使ったことのない僕にはディアボロスを使えてないってことか。でも切れればいいからな~。それにそんな知り合いはいないし。
 ディアボロスと話しながらもミーシャと一緒に弓もちのゴブリンを屠っていく。全員倒し終わると地面が揺れるのを感じた。

「なに!?」

「分からない。一度距離を取ろう! !?」

 規則正しい地揺れに怯えるミーシャが声をあげた。分からないから村へと一度戻ろうというと横からの衝撃を受けた。僕とミーシャは大きく空へと放り出される。

「おっと!」

「大丈夫か!」

「「大丈夫!」」

 空へと放り出された僕らはステインとワジソンに受け止められた。衝撃のおかげで敵の正体が分かった。というかその衝撃を与えてきたやつがそれだ。
 歩くだけで地揺れを生む、大きな大きな巨人。僕らがいた森の木が根こそぎなくなってる。それほどの衝撃を作り出す巨人。

「ギガントトロールだ」

 村の建物の三倍程の巨人、マウンテンタートルと比べたらとても小さい巨人。僕らはため息をついて巨人へと視線を向けた。
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