何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第25話 黒き暗殺者

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「騎士団長ルレイン、ならびにそれに組したもの。姫誘拐の容疑で処刑する」

「これはまた……裁判もせずに処刑とは」

「問答無用! やれ!」

 王印の押された紙をかざしてくる黒い集団。言い終わるとすぐに襲い掛かってきた。

「エラ!」

「だ、大丈夫! 離れてたけど、私も冒険者だもの」 

 すぐにステインがエラの横へと飛んでいって近づいてくるやつらをなぎ倒す。
 片手で吹っ飛ばせるってことはそれほど強くない奴らだな。

「ぐわっはっは。我ら【砂漠のオアシス】に喧嘩を売るとはお笑いじゃ」

「ほんとね! 弱いくせに! はっ!」

 ワジソンとミーシャが笑いながら十人以上の敵を壁に叩きつける。チーム名もしっかりあったんだな。そういえば、きいてなかった。
 それでもワラワラ入ってくる黒い外套の集団。武器は主にナイフ、そんなもので切り付けられてもすぐに回復するけどね。

「みんな、この人たち分身だから傷つけても大丈夫!」

「ルラナ! それは本当?」
 
 ルラナの言葉にリーシャが聞く。ルラナは大きく頷いて答える。

「りょ~か~い!」

 ルラナとリーシャのやり取りを聞いてミーシャがニヤッと笑って大剣を思いっきり振り回し始めた。右へ左へ振り下ろされる大剣が黒い外套を切り裂いていく。
 ルラナが言っていたように黒い外套を被った人だと思ったら、外套が人に化けているようなそんな奴らだった。

「魔道具の一種です。これを操る本体が近くにいるはずです」

「これだけの量を操るんだからそりゃ離れられないよね」

 ルレインさんの言葉にリーシャが矢を放ちながら話す。
 魔道具は使い手のマナ、魔力を使って魔法のようなことを行使できるアイテムだからな。これだけの人数の外套を操るにはそれなりのマナを使う。更に遠くから扱うなんてことになったらマナが足りないはずだ。

「少し辛抱して、マナがどこから来てるのか探る」

 ルラナがそういって本を開く。彼女の目が淡く光って入口へと視線を移す。すぐに僕らは一斉に入口を切り開いて外へと飛び出した。

「上!」

 ルラナが叫ぶとすぐにワジソンがミーシャを屋根へと飛ばした。僕もつづいて飛ぶと外套を被る少女がミーシャと対峙していた。

「こんな少女を使うなんて悪趣味ね」

「少女なんてあんたに言われたくない」

 じりじりと距離を詰めるミーシャを警戒して後ずさる少女。顔には焦りが見えるな。

「さあ、痛い思いしたくなかったらお姉さんに捕まりなさい」

 ミーシャが笑みを浮かべて駆ける。少女は観念したように薄く笑っている。僕は嫌な予感がした、自分へと強化を強めて走り出した。

「……捕まるくらいなら死ぬ」

「させるか!」

「うっ」

 閃光のように少女へと近づき、刀の柄で当て身を食らわせた。少女は気を失って横たわる。

「はぁ、こんな幼い子が襲撃に自決か。世知辛いな」

「本当にね。それに訓練もされてる。猿ぐつわをしておいたほうがよさそうね。口の中の薬を抜いてからね」

 少女を抱きかかえてミーシャと共に下りる。ルラナの言っていた通り、少女を倒したことで外套はいなくなってる。全部この少女が操っていたってことだな。

「こんな少女が!?」

 下に下りて拠点に入るとルレインさんが驚きの声をあげる。ルラナと同い年くらいの幼い少女だからな。驚くのも無理はない。

「訓練も相当されてたと思うよ。私の当て身を避けたからね」

「ふむ、ミーシャの当て身を。それはなかなか」

 僕が屋根に降り立つ前か、ミーシャの当て身は大剣の腹で殴ってくるっていうだけの剣戟だからな。それを躱したってことは相当だな。

「まあ、ヒューイの当て身は躱せなかったみたいだけどね」

「ははは、でも、焦ったよ。死のうと薬を噛もうとしてたからね。口にこんなのを入れてた」

 ミーシャの声に答えて、少女の口の中にあった小さな皮の袋をみんなの前に出した。するとルレインさんが顔を歪める。

「やはり、オルソナル大臣の手のものか」

 皮袋には印が押されていた。ルレインさんはそれに気が付いたみたいだ。

「ははは、そのオルソナルって人馬鹿だね~。こんな残るものに印をするなんて」

「いえ、本来は爆発する毒ですから。爆発したらお二人も無事ではなかったでしょう。私たちもね」

「は、はは。そういう毒もあるんだね~」

 ミーシャが笑って馬鹿にするとルレインさんが首を横に振って答えた。爆発する毒か。確実に殺しに来てるな。屋根に潜んでいたのは生き埋めにするためか。

「皆さんにはご迷惑をおかけしました。短い間でしたが報酬はこれでいいでしょうか?」

 ルレインさんはアルテナ様の手を取って出ていこうとする。机に金貨を五枚ほど置いて話す姿はなんだか寂しそうだ。

「ステイン……」

「ああ、分かってるよ。その金は受け取れねえ」

 エラが寂しそうに呟くとステインが金貨をルレインさんに手渡す。

「まだ依頼は達成できてないだろ。俺達【砂漠のオアシス】は達成して初めて報酬をもらうことにしてんだ」

「だ、だが! これから命を狙われることになるんだ。皆さんにこんな危険な……」

 ステインの言葉に感激しながらもルレインさんは僕らを突き放そうとする。だけど、ステイン達も僕もこんな危険な状況の二人を放ってはおけない。

「何言ってるんですか。そんなことを言っている場合じゃないです」

「姫様の我がままでルレインが傷つくのは良くないよ」

 リーシャとミーシャがルレインの手を取って話す。ミーシャはアルテナ様を睨んでる。負けじと睨み返してるアルテナ様も負けん気が強いな。

「俺もな。一児の父になるわけなんだ。それなのに女子供を見捨てた~なんて、親として、いや、男として終わってる」

「そうじゃな。ステインのように馬鹿でもわかる話じゃ」

「おいおい。馬鹿はないだろう馬鹿は」

 ステインとワジソンもそういってケラケラ笑う。

「僕はみんなの意見に従う。それにヒューイならそうするだろうし」

「ああ、俺もみんなの意見と同じだよ」

 ルラナが僕の手を握って見上げてくる。頷いて答えるとニコッと微笑んだ。

「じゃあ決まりだ」

「だが!」

「だがは聞かないよ」

 ステインが声をあげるとルレインさんが声を荒らげた。それを聞いてミーシャがルレインさんの口を手で塞いで声をあげた。

「じゃあ、あなた達は私の家来ってことよね」

 ……アルテナ様が何か言ってる。僕らは聞かなかったことにして旅の準備を始めた。
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