何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第22話 

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 僕らは15階のボスを倒すことに成功して、帰還できる扉をくぐって町へと帰ってこれた。
 ミーシャに抱き着かれてギトギトの返り血まみれ、戦いじゃそんなに汚れることはなかったのにな。

「ただいま~」

「お帰りなさい」

 僕らの拠点に帰ってくるとエラが迎えてくれた。それぞれ挨拶を交わすといつも通りタオルを持って自室に戻っていく。
 僕も同じように階段の手すりにかかっているタオルを取って、二階の自室に入った。

「ふぅ。いつもよりも汚れちゃったな……」

 主にミーシャに汚された体を拭っていく。最後の最後で蜘蛛の返り血で汚れるとは思わなかったな。
 ため息多めで体を拭っていく。すると勢いよく外を走る音が近づいてくる。

「ヒューイ~。汚したお礼に体を拭ってあげる~」

 扉を勢いよく開けてミーシャが入ってきた。もちろん、僕は体を拭っていたので固まってしまった。
 彼女の言う、”お礼”って間違いで言っているわけじゃなさそうだ。そう考えるとこうなることを狙っていた可能性が出てくる。

「わ~。丁度やってたのか~。じゃあやってあげる~」

「いや! いいって」

「遠慮しないで~。私もやってもらうから~」

 体を密着させてミーシャが体を洗ってくれる。彼女もまだ体を洗ってない様子だ。返り血で緑色になってる。

「ん~。いい体だね~ヒューイ」

「や、やめてよミーシャ」

 執拗に体を絡めてくるミーシャ。舌なめずりなんかして僕を見つめてくる。誰か助けて、

「お姉ちゃん!」

「お? リーシャも混ざる?」

 困っているとリーシャが勢いよく助けに来てくれた。髪が逆立ってる。怒ってくれてるみたいだ。

「ちょっと目を離したらすぐにこうなんだから!」

「何よ~。ヒューイと仲良く体を洗いあってるだけじゃない」

「男女ってものがあるでしょ! もう! 早く私達の部屋に行くよ!」

 リーシャに首根っこを掴まれて出ていくミーシャ。最後にウインクしてきた。砂嵐よりも激しい子だな。

「は~。洗い終わった……。なんか甘い匂いがするな。ミーシャ達は香水みたいなものを使ってるのかな?」

 ミーシャの残り香が残ってる。花の香りが鼻をくすぐる。

「ヒューイ。一緒にご飯食べよ」

 服を着替えておぼんに乗っている食べ物を食べようと思ったらルラナが入ってきた。
 ルラナはミーシャと違ってホッとするな。同性って言うのもあるけどね。

「うんしょ」

「ルラナ?」

 あぐらをかく僕の上にポスンと座るルラナ。おぼんがそれぞれあるから不便だと思うんだけど?

「だめ?」

「ダメってわけじゃないけど、おぼんが」

「大丈夫、僕が食べさせてあげるから」

「ははは、ありがとルラナ」

 ルラナが料理をスプーンにすくって差し出してくる。今日は豆のサラダとステーキ、それと干しブドウか。
 差し出されたサラダを口に入れるとにっこりとルラナが微笑む。これが当たり前なんだろうな、仲間ってやつの。

 トントン! 感慨深げに口を動かしているとノックがなる。

「ヒューイ。ちょっといいかな?」

 ノックの後にリーシャの声が聞こえてきて、扉がゆっくりと開いていく。

「さっきはお姉ちゃんがごめんね」

「ああ、大丈夫だよリーシャ」

「それでその……。また一緒にご飯、!? ルラナ!」

 謝って言葉を紡ぐリーシャ。ルラナに気づいて驚くと僕を見てきた。

「ルラナ、いたの?」

「うん。一緒にご飯しようって」

 リーシャの疑問に答えるとルラナも元気よく頷いた。リーシャはなぜか困った顔になっていく。

「リーシャも一緒に食べよ」

「う、うん」

 一度自室に戻ったリーシャはすぐに戻ってきて、床に座るとご飯を食べ始めた。
 
「美味しいね」

「エラの料理は本当に美味しい。今度教えてもらおうかな」

 ダンジョンではリーシャやミーシャが料理をすることが多かった。ワジソンもステインも料理は出来ないみたいだからね。
 驚きなのがミーシャがなかなか上手ってところだ。あの時は本当に驚いたな。リーシャは……うん、人並みってやつかな。

「そ、そういえば、なんでルラナはヒューイに座ってるの?」

 もじもじしながらリーシャが聞いてくる。なんか好かれちゃったんだよな。

「ん? 好きだから」

「!?」

 ルラナが答えると驚いてスプーンを落とすリーシャ。同性の好きってやつかな。僕もみんな好きだし分かるな。

「ヒューイの近くにいるとマナが落ち着いて、ポカポカするんだ」

 あ~、なるほど。マナの回復も強化されてるからね。意識しなくても近くにいると弱めにかかるんだよな。精霊の彼はマナと親和性が高いから気持ちいいのかもな。

「そ、そうなんだ……」

 答えを聞いて感慨深げにつぶやくリーシャ。
 なんだか重い空気になっているような気がする。ここは話題を変えよう。

「そういえば、ミーシャは? 静かだけど?」
 
「お姉ちゃんは縛り付けといた。しばらくは大丈夫」

「ええ!? 大丈夫なの?」

 リーシャはそう答えて「いい薬」と言ってご飯をパクパクと口に含んでいく。
 しばらくするとミーシャが息を切らせて入ってきたが、僕達は食事を終えていたのでがっくりと肩を落としていた。
 後は寝るだけだっと。

「ヒューイ。一緒に寝ていい?」

「ああ、ルラナ。別にいいけど」

 ははは、なんだかかなり好かれちゃったな~。弟が出来たような感じだ。
 同じベッドで隣に眠るルラナ。中性的な彼はスヤスヤと眠ってる。思わず頭を撫でてしまう。
 それでも眠る彼を微笑んで見て、目を瞑るとすぐに意識を手放した。相当疲れてたんだろうな。






「ん~むにゃむにゃ」

 眠りから目覚めると体が重いことに気が付いて目を開ける。声が聞こえていたがやっぱりルラナ以外の人がいるみたいだ。

「ミーシャ……」

「もう食べられにゃいん」

 作り物のような寝言を呟く彼女。流石に可愛いとは思わない。

「ヒューイおはよう。ミーシャもいたんだ」

「ああ、おはよう。残念なことにね」

 ルラナに挨拶を返すとため息をついて答えた。

「ヒューイ! おはよう! お姉ちゃん来てない?」

 扉の外からそんな声が聞こえてくる。リーシャが焦って声をあげてるな。最近の朝はこんな感じになってきてるな。

「ああ、いるよ。寝てる」

「やっぱり! 入るね! !?」

 答えるとリーシャが部屋に入ってくる。ミーシャとルラナが同じベッドに寝てる姿を見てリーシャが顔を赤くさせてる。ミーシャなんて僕に覆いかぶさってきてるからな。想像してしまったんだろうな。

「お姉ちゃん!」

「むにゃ? リーシャだ~。ヒューイの部屋にいちゃダメじゃ~ん。戻ろうね~」

「それはお姉ちゃんでしょ! もう!」

 寝ぼけながらも自分が僕の部屋にいるというのは分かってるのか。天然なんだかよくわからない子だな。
 二人はかみ合わない言い合いをしながら部屋を後にしていく。

「僕も行くね。ステインが報告に行くから準備しておいてね」

「ああ。分かってる」

 15階のボスを倒した報告をしに行く。闇の収納に入ってる魔物の換金もしないといけないしね。
 一人になった部屋で着替えていく。なんだか一人って言うのも久しぶりだな。
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