何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
上 下
21 / 56
第一章

第20話 

しおりを挟む
「はっ! これでおしまい!」

 大剣を振り下ろして一体、返す刃でもう一体の魔物を切り伏せるミーシャ。
 その言葉通り、魔物の最後の一匹を屠った。
 魔物は亜人種が多く入ってきていた。オークと言われる豚人の魔物や鬼と言われるオーガ、ゴブリンもそれぞれ職業もちが来ていた。
 ステインが言っていたんだけど、ダンジョンの階層で表すと、15階程の強さらしい。
 ダンジョンの最高到達点が20階なので上位ランカーが関わっているとおもうんだってさ。ダンジョン初心者の僕じゃわからないな。

「ヒューイのおかげで怪我人もなし」

「はは、でも、僕自身は攻撃あんまりできなかったよ」

 リーシャが腕に抱き着いて褒めてくれる。
 これだけの人数に強化をするには自分の強化を減らさないといけなくなる。攻撃に参加できなくなるんだよな~。ディアボロスは黙っちゃうしね。

「ヒューイは強い! それは僕達が証明するから大丈夫」

「ありがとうルラナ」

 ルラナがそういってくれるので頭を撫でてお礼を言う。照れ隠しに本を読み始める彼、いい仲間達に囲まれて、僕は嬉しいよ。

「扉が閉まらないな……」

 魔物が湧かなくなった扉を見ながらスカイが声をあげた。別の冒険者達も集まりだして大きな扉を見上げる。

「この扉に入ればその階層に行けるのかな?」

「うむ、確かに行けるが15階くらいじゃからな。好き好んでいくやつはおらん」

 僕の疑問にワジソンが答えてくれた。
 ダンジョンは低層でも十分恩恵を受けられる。わざわざ上を目指すのは昔のスカイみたいな人達しかいない。まあ、僕もだけどね。

「入ってみようかな?」

「ヒューイが言うのなら行ってもいいが。どうするみんな?」

 ちょっと好奇心で呟くとワジソンがみんなに聞いてくれた。

「何階かわからないからやめたほうがいい」

「私は行ってもいいかな」

 ルラナが反対というとミーシャが賛成。

「ん~。ヒューイがいたら負けることはないかな。それにボス部屋で倒さないと閉まらないってこともかもしれないし」

「なるほどな。リーシャのいうことも一理ありそうだな。誰かが行かないといけないってことは俺達が適任だろうな」

 リーシャの推測にステインが賛成した。ってことは反対はルラナだけだけど、リーシャの言葉を聞いて賛成に回った。

「ヒューイ。いくなら装備を持っていってくれ」

「あたい達は今から行く予定だったから準備万端だったんだ」

 スカイ達がそういってカバンを手渡してくる。厚意を無駄にするわけにもいかないので受け取ると喜んでくれた。

「でもいいのかよ。こんなチャンスそうそうないぜ」

「調子こいて上の階層に行ってあんなことになったんだ。俺らが行って勝てるほど甘くない。ヒューイが居れば別だけどな」

 ステインの言葉にスカイが苦笑いで答えた。
 彼は怪我して以来、ちゃんと周りが見えるようになった。自分の強さがどの程度か把握できるようになった。これからスカイは更に強くなっていくだろうな。

「じゃあ、行ってくるよ」

「ああ、行ってらっしゃい」

 スカイ達に見送られて扉をくぐっていく。
 くぐった瞬間、横を誰かが通ってきた。狐目の司祭?

 ダンジョンの中に入ると岩山のような風景に切り替わる。扉が閉まって行くと僕らは首を傾げた。

「司祭のチームか?」

「ん、今噂の【インヴィンシブル】っぽかった」

「スカイのチームを受け継いだチームか」

 呟くとルラナが答える。ダンジョンから帰ってきたってことはあのチームが扉を開いてたってことか。

「逃げようとして入れなかったってところか。噂程でもないな」

「ん~。それにしては怪我も何もしてなかったように見えたけど?」

 ステインがため息をついて話すとミーシャがさっき見た彼らについて話す。
 確かに綺麗なまんまの司祭の服だった。白が多い服だから血がついてたら目立つもんな。

「掃除する魔法でも使ったんじゃねえか? アクライ教会って言ったら元貴族も多いからな。綺麗好きなんだろ?」

「ダンジョンで綺麗好きは命知らずじゃな」

 ステインが話すとワジソンが嫌みっぽく話した。ダンジョンでは匂いが命取りの時もあるからね。汚すのも手ではあるな。

「何階かわからないけど、次の階に行こうか」

 リーシャの言葉にみんな賛成して歩き出す。魔物はいないみたいだから気軽ではあるな。
 しばらく歩いてると扉が見えて次の階層へと足を踏み入れた。次の階層について周りを見ると城の中のような内装だった。そして、玉座の間への入口と言ったら分かりやすいだろうか、そんな扉を開くと漆黒の騎士が佇んでいた。


ーーーー

「今のは……ヒューイ」

 ヒューイとすれ違いでジューダスがダンジョンから帰ってきた。横を通り過ぎていった集団の中のヒューイにいち早く反応した彼は顔を青ざめさせる。

「ヒューイが魔物の群れと対峙した!? ということか!」

 顔を青ざめさせたまま、周りを確認する。
 大量の魔物の死骸、無傷の冒険者達。ジューダスは頭を抱えた。

「やられた……」

 ジューダスは呟いて屈みこんだ。

「ジューダス! お前達だったのか?」

「スカイ……」

 スカイが屈みこんでいるジューダスに気が付いて声をかけた。心配して肩に手を添えるスカイにジューダスは顔が青いまま微笑んだ。

「恥ずかしながら命からがら帰ってきました」

「良く戻ってきた、お帰り」

「ただいま戻りました……。スカイ!? あなた、左手が!?」

 ジューダスが恥ずかしくも声をもらすとスカイは満面の笑みで迎えた。ジューダスはその笑顔にホッとしながらも添えられた手に違和感を感じて驚きの声をあげた。

「ああ、ヒューイに治してもらったんだ。いいやつだよな……」

 スカイは扉を見つめて呟く。すると扉が閉じていった。
 
「ジューダス達は何階から帰ってきたんだ?」

「あ、ああ。14階だよ」

「14階……。その魔物達はここで全滅したはず、ってことはすぐにでも15階に到着するってことか」

 裏技ともいえる階層のスキップ。ヒューイたちはそんな荒業を使い上の階層へと進んでいった。
 ジューダス達の踏破した14階へとヒューイたちが進んだのを確認したスカイは考え込む。

「ヒューイならクリアできると思うが、心配だな……」

 呟くスカイはすぐにジューダスに肩を貸して立ち上がらせる。

「さあ、みんなに報告しよう」

「ああ、ありがとう。みんな行くよ」

 スカイに連れられてギルドへと歩いていく。ジューダスのその足取りは重かった。
 それもそのはず、本来は傷ついた冒険者や町の住人を治すことで信者を増やそうとしていたのだから。
 思惑通りにいかなかったジューダス達。次は何を考えているのだろうか。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...