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第一章

第10話 

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「次は何階だっけ?」

「えっと~5階かな?」

 オークがいた階層から一つ扉を越えて、同じオークを洞窟の中で倒して話すミーシャとリーシャ。
 怪我もなく簡単に越えられて余裕が見える。ステイン達はなかなか慣れてるみたいで無傷で攻略してる。

「いや~。ヒューイのおかげで難なく攻略できるな」

「そうだね! 前にここまで来るのに一週間以上かかったのにね」

 ステインとリーシャが褒めてくれる。

「そんなにかかるものなんですか?」

「うむ、毎回ダンジョンの中が変わるからの。魔物も変わるからどうしても時間がかかってしまうものなんじゃよ」

「……偶にイレギュラーボスが出る時もあるしね」

 僕の疑問にワジソンとルラナが答えてくれる。イレギュラーボスって何だろう?

「イレギュラーボスって言うのはね。ボスの階層じゃないのに大型の魔物が出るんだ~。勝てないと思ったら扉がエリアのどこかに出来てるからそこから逃げるんだ~」

「そうそう、だからどうしても慎重になっちまうってわけだ。その点、ヒューイが一緒なら安心して進めるってわけだ」

 ミーシャが説明してくれて、ステインが僕の肩に手を置いて褒めてくれる。
 照れ隠しに頬を掻くとみんな微笑んでくれる。

「次はボスじゃからな。イレギュラーボスは出ないからあんしんしてええぞ」

「同時でもヒューイが一緒なら大丈夫そうだけどね~。5階のボスはミノタウロスだもんね」

 ワジソンの言葉にミーシャが話す。
 ミノタウロスか~。牛人の魔物だっけか。大きな斧を使うんだったよな。
 何度かスカイ達と戦ったっけ。懐かしいな。
 あの時はスカイが角で貫かれたんだよな~。あんな遅い攻撃に当たっちゃうから心配したんだよな~。

「よし。じゃあそろそろ行くぞ」

 休憩をはさんで次への扉をくぐる。
 扉をくぐると熱気が体に力強く当たる。

「か、火山か」

「め、珍しいね。火口の横かな?」

 あたり一面火の粉が舞う活火山の火口横。すぐそこが頂上で煙が出てきてる。

「みんな警戒しろ。火山に関係のある魔物が出る可能性が高い」

「火山に関係? 例えば?」

 ステインが武器を構えて周りを見回す。ミーシャも同じように大剣を構えて首を傾げた。

「そ、そうだな……ルラナ何か思い浮かぶか?

「火山だとマグマゴーレムとかサラマンダーかな」

「……最悪だな。どっちもBランクの魔物だ」

 ルラナが本をペラペラめくって告げるとステインが頭を抱えた。マグマゴーレムもサラマンダーも見たことがある。
 どちらもスカイが倒してたっけ、スカイってやっぱり強かったのかな。

「大丈夫! 今はヒューイがいるもの」

「うん。そうだね」

 リーシャが僕を見つめて褒めてくれる。ミーシャがその言葉に答えて僕に抱き着いてきた。

「一向に現れないな」

「そうだね。5階のボスの場合はすぐに迎えが来るのに」

 ステインが周りを見渡しながら告げるとルラナも同意した。ボスの場合は扉をくぐると出てくるみたいだ。今度はもっと警戒したほうが良いかもな。

「地震か?」

「大きい!」

 ゴゴゴゴ! と地鳴りがして地面が大きく揺れる。まるでジャンプしたかのように体が一度浮いた。

「何かおかしいよ。ボスも見当たらないし」

「ああ、こりゃやばいかもな」

 地鳴りが治まると山向こうの景色が横にスライドしていく。よく見ると遠くの山が遠ざかっていく。
 もしかしてと思ってみんなで顔を見合うと大きく頷く。

「この山自体が魔物だな……」

「マウンテンタートル……かな」

 ステインが呟くとルラナが名前を呟く。あの本は色んな事が書いてあるみたいだな。僕も欲しい。

「こ、こんな大きな魔物どうやって?」

「俺が聞きてえよ」

 僕の疑問にステインが困った顔をする。これは撤退したほうがいいかもな~。

「エリア内に扉が出来てるはずだ。そこから撤退だな。幸い、マウンテンタートルは敵対してこないみたいだしな」

 大きなため息と共にステインが言葉を吐き捨てる。残念だけど、こんな大きな魔物を倒すすべなんてない。スカイと一緒に冒険した時もこんな大きな魔物と遭遇したことはない。Sランクの魔物なのかな。

「まさか、Aランクの魔物は5階で出るとはな。恐れ入ったよ」

 トボトボと歩き出す僕ら。ステインが残念そうに呟く言葉からは降参って言うのがうかがえる。SランクじゃなくてAランクの魔物みたいだ。
 撤退を決意して扉を探し回ることとなった。
 でも、そんなに簡単に見つかることはない。ステイン達は前に撤退した時は一日かかったらしい。エラさんが怪我した時なのかな?
 あまり思い出したくもないことだろうから聞かないけど、たぶんそれだろうな。

「また地震か」

「周期があるみたいだね」

 僕の呟きにリーシャが話した。

「うん、マウンテンタートルは揺れることで火山のマグマで体が冷えないようにしてるらしいよ」

「ん? ってことは寒いのが苦手なのか?」

「そうみたい」

 ルラナの説明にステインが考え込む。こんなに大きな魔物でも寒いとかってあるのか。地震というよりも身震いに近いのかな。

「うむ。ということは火山を冷やしてしまえば倒せるのではないか?」

 ワジソンが閃いて声をあげる。するとステインとミーシャがポンと手を叩いてワジソンを指さして口を開く。

「「それだ~」」

 ステインとミーシャは火口へと走り出す。

「ここに魔法で水を出してジョバジョバかければ」

「倒せるでしょ~」

 二人はそういって僕らを迎える。って言っても水魔法が使える人いるの?

「ルラナ!」

「分かってるよ。でも、警戒はしてよ。暴れるだろうからね」

 ステインがルラナを呼ぶとめんどくさそうに本を見ながらルラナが人差し指を宙にかざした。

「【我、この世の人ならざる者。水の精霊、力に答え、雨を降らせよ】」

「フレフレ~」

 ルラ名が詠唱する横でミーシャが手をブンブン振って遊んでる。
 指を十字に切り、天へとかざすルラナ。変わった魔法だ。
 前に見た魔法は【ファイア】とか言って手から炎を撃ちだすものだった。ルラナの言葉を実現させるような魔法だな。
 彼が指をかざして数秒、激しい雨が僕らの前に降らされる。みるみる溶岩が黒くなって硬くなっていくのが見える。

「よし! これで! !?」

「わ!?」

 激しい揺れ、体が浮かされる。

「きゃ、きゃ~!」

 体が浮いて地面が遠くなっていく。一瞬でマウンテンタートルが屈伸したのかもしれない。それによって僕らが離されてしまったんだ。リーシャを抱き上げて着地する。みんなも確認すると無事に着地出来たみたいだ。
 僕とリーシャはホッと胸を撫でおろす。

「あ、ありがとうヒューイ」

「うん。どういたしまして」

 お姫様抱っこをされてお礼を言ってくるリーシャ。それに答えておろすと腕の袖をつかんで離さない。
 また浮くのが怖いんだろうな。僕も警戒してる。

「おいおいおい……」

「ミノタウロスとマグマゴーレム!?」

 赤い体のミノタウロスと溶岩の巨人が現れた。マウンテンタートルが攻撃してきたってことかな?

「さっきまでいなかったのにな。これは失敗したか?」

 呟くステインを他所にミノタウロスとマグマゴーレムがかけてくる。
 体が大きい二体の魔物、ズシズシと地面を沈めながら近づいてくる。何か焦っているようにも見えるな。

「!? ルラナを狙ってる!」

「雨が予想以上に効果ありってことか?」

 ステインとミーシャが二体へと走り声をあげた。魔物の視線は確かにルラナを捉えているように見える。
 接敵した二人は共に武器を魔物の体に走らせる。

「止まりやがれ!」

「この!」

 剣が体に接触しても止まろうとしない魔物。ミノタウロスは剣が食い込んでいき、両断される。
 ゴーレムはそうは行かない。ステインの剣を受けてなおルラナに迫ってくる。

「儂らもいるぞ!」

「はっ!」

 ワジソンの斧とリーシャの矢がゴーレムを仰向けに倒す。更にミーシャが走り、大剣を突き刺す。
 ゴーレムは赤い光をなくし、止まっていった。

「単調な動き、おかしいよ」

「そうだね」

 その様子を見てルラナが呟く。僕も肯定するとまた地鳴りが始まった。

 僕達は知らなかった。
 この二体の魔物はこれから始まるスタンピードの序章に過ぎなかったということに。
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