何もしてないなんて言われてクビになった 【強化スキル】は何もしていないように見えるから仕方ないけどさ……

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章

第8話 

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 ヒューイが驚異的な強化を施しているころ。
 スカイたちもまたダンジョンへと足を踏み入れていた。

「よっしゃ! ミスリルゴーレムも倒した! 次だ次!」

 ゼリスを連れてきていた時よりも深くまで入るスカイ。Sランクの名は伊達ではないのか。はたまた、ジューダスが凄いのか。

「スカイさん。少し休憩いたしましょう。私の魔法使用数も限りがありますからね」

「は~。また使用数か……」

「使えないわね」

 ジューダスの言葉に辟易といった様子のスカイとルッコ。ゼリスに言われた言葉が頭をよぎってため息がでてくるスカイ。

「あなた達は休憩もなく戦い続けていたのですか?」

「ああ、【インヴィンシブルランス】に休憩はいらなかったからな」

「……そうですか。それはとても優秀な回復役がいたのでしょうね」

「……」

 スカイの言葉に感慨深く俯いて呟くジューダス。
 彼の呟きに何も言えなくなるスカイはミスリルゴーレムの残骸に座った。

「もう、いつまで休憩するの? 今日中に十一階くらいにいかないと笑われるよ」

「一日で十一!? 何を言ってるのですか。このダンジョンはそんな甘くはありません。ゆっくりとダンジョン内で野営をして」

「は~? そんなの嫌よ。一気に十階まで行って帰って宿屋で寝たいもの」

 ルッコがスカイを急かすとジューダスが声をあげる。その言葉にクインが首を傾げて話す。

「ジューダス。あんたの回復のおかげで俺達はこの七階まで無傷だ。五階から上がってきてまだ二階しか上がってないって言うのは俺達にとっては汚名なんだよ」

「プライドはSランク並みですね」

「なに!」

 スカイの言葉にジューダスが呟く。スカイは怒りで立ち上がるとジューダスに近づく。

「もう一回言ってみろ」

「何度でも言いましょう。プライドはSランク並みですねと!」

 ぐっ! とジューダスの言葉にいら立ちを見せるスカイ。思わずジューダスの胸倉をつかんでしまう。

「ダンジョンはそんなに甘いところではありません! 次の階が階通りの強さとは限らないのです」

「そんなことは知ってる」

「知りませんよ! あなた達は!」

 ジューダスの気迫にスカイたちは驚く。

「私は司祭……何人もの冒険者を回復してきました。その中には見るも無残な傷を負った死体が居ました」

「死体? ダンジョンで死んだらダンジョンに吸収されるんだろ? 死体を見ることはないんじゃないのか?」

 ジューダスの言葉にスカイがたまらず言葉をはさむ。
 スカイの言葉に彼は無言で首を横に振った。

「毒ですよ」

「毒……」

「ふ、ふんっ! 毒なんてあたしたちには効かないわ。すぐに回復するんだから!」

「……」

 ジューダスの話す毒という言葉にスカイは顔を青ざめさせる。
 コエナは強がって声をあげるが他のメンバーは俯く。

「顔はただれ、傷口は癒えずに腐っていく。回復が間に合えばもちろん助かる。しかし、戦闘中にそれを行うことは難しい」

 経験者の言葉にスカイたちはゴクリと息を飲んだ。

「あんたを守れば大丈夫ってことだろ? 俺達なら」

「そうですね。ですから今は休みましょう。私が疲れています」

 人懐っこい笑顔でスカイの言葉を遮るジューダス。予め置いておいた言葉のように感じて、スカイは煮え切らない顔となった。

「……」

「何を見ているのですか?」

「あんただよ」

「ふむ、こんなに美人が多いというのになぜ私を?」

 休憩を取るということにした一行。早速、みんな横たわって目を瞑っている。
 そんな中、横たわるジューダスを同じく横たわるスカイが見つめる。ジューダスはそんな彼を見てふふっと笑う。

「なんであんたは俺達のチームに入ったんだ?」

「【インヴィンシブルランス】ですよ。入りたいと思うでしょ」

「ゼリスが言いふらして回ってただろ」

 『役立たずと呼んできたってな』と付け足すスカイ。スカイ達はSランクの冒険者としても有名だったが、戦闘の役に立たない職を蔑んできていたという話でも有名になっていた。
 司祭であるゼリスは教会での地位がある。彼女の言葉は力を持っていたため、周りは彼女を擁護することとなったようだ。

「はい。私も知っていますよ」

「じゃあなんで」

「……困っている様子でしたから」

「……」

 人懐っこい笑顔を向けてジューダスはそう告げる。スカイは冗談に近い言葉だったため体を彼とは逆に向ける。嫌悪感を感じさせてしまったか、とジューダスは悲しいかおをしたがスカイは恥ずかしさのあまり顔を向けられなかった。
 ただただ困っていたから、傍から見てそんな感想を思ったということがスカイの恥ずかしさを爆発させたようだ。

 しばらく、休憩したスカイ達。
 休憩が終わると次の階への扉を開けた。ダンジョンに入る時と同じ扉。扉の中へと入ると次の階へと進める。

「休憩したから使用回数も回復してるのである程度の無理は出来ます。がんばってください」

 次の階へ入るとすぐにジューダスが叫んだ。それも仕方のないことだった。

「なんだこいつは……」

 グルルル! 天から放たれる恐ろしい威嚇の声。
 ワイバーンならばスカイもよく戦い倒してきた。そんなものよりも大きく力強いシルエットが影を作りだしている。

「スカイ! あれはドラゴンよ!」

「ど、ドラゴン……伝説の生き物だぞ」

 ルッコの声に驚きを隠せずにいるスカイ。Sランクとなると大抵の魔物は相手にしたことがある。しかし、獲物を一瞬で灰にするドラゴンと対峙したことはなかった。
 スカイは恐怖に体が硬直するのを感じた。

「しっかりしなさい! あなたはリーダーなのですよ!」

 動かなくなったスカイを奮い立たせるためにジューダスはビンタを食らわせる。スカイは自分を取り戻して視線をドラゴンに戻す。

「ルッコ、俺に続いてくれ。クイン達は援護を!」

「「「「了解!」」」」

 スカイの指示を肯定する仲間達。彼らは深い傷を負ったが何とかドラゴンを倒すことに成功した。

「回復させます!」

 幾度となく回復させていたジューダス。戦闘が終わって全体へと回復魔法を唱える。

「あ、足が回復しない……」

 ドラゴンとの戦いの末、前線の要であるルッコの足が切断されてしまった。ジューダスの魔法で回復しないことに絶望するルッコ。その絶望が怒りと変わり、ジューダスへと注がれる。

「なんで回復しないのよ! 真面目に回復させなさいよ!」

「残念ですが回復魔法に欠損を回復させる力はありません」

「そ、そんなわけないじゃない。だって、ヒューイは」

 ルッコは回復できないというジューダスへと詰め寄る。しかし、ジューダスに出来ることはない。彼はルッコの怒りをただ黙って受け入れるだけだった。

「そ、そうか……ヒューイは凄かったんだな」

 ヒューイのスキル【強化】は完全な形で欠損も治していた。スカイは感慨深く呟いて自分の手を見据えた。
 かつて指をなくした手……ヒューイのおかげで治った傷。それを見つめて彼は自分に嫌気がさして殴り始める、自分を。

「な、何をしているのですか!」

「「「「スカイ!」」」」

 ボコボコになっていくスカイ。止めようとするクイン達だったがやめることはなかった。
 そして、動けなくなるほどのダメージを負うとその場に倒れこんだ。

「気が済みましたか?」

「ああ……ルッコは?」

「泣いて眠りました」

 気を失うほど自分を殴ったスカイは晴れ晴れとした表情だった。ジューダスに睨まれながらもルッコの心配をする。彼の言葉にホッと胸を撫でおろす、そんなことしかできない自分に再度腹が立ってしまう。

「すぐに回復させます」

「すまない……」

「すまないではなく。ありがとうと言ってください。仲間じゃないですか」

「……ありがとう」

 回復魔法をかけるジューダスに目を瞑り謝るスカイ。謝罪ではなくお礼を言ってほしいというと素直にお礼を言った。
 
「それに謝る相手は私じゃないでしょ」

「ああ、そうだな。ヒューイに」

「その方ではなくて彼女達ですよ。その方もそうかもしれませんが」

 何度も出てくるヒューイという人物よりもまずは仲間に謝るべきだ。人懐っこい笑顔でそう告げるジューダスは楽しそうに回復を続ける。

「謝って許してくれるはずがない。俺はそれほど酷いことをしてた」

「そうですか。それなら仕方ないですね」

「ああ、仕方ない……仕方ないんだよな」

 後悔の言葉を呟いて仰向けのまま涙するスカイ。涙を拭いたいのに拭えない体、仕方なくジューダスが涙を拭った。
 やれやれといった様子のジューダスはまるで彼のお兄ちゃんのようだった。

 スカイ達はこの後すぐに帰還する。上層階でなくてもドラゴンなどという強敵が現れることが巷で噂となって言った。
 そして、ルッコは戦線から離脱して、町で暮らすこととなる。
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