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第一章
第6話 ヒューイを失って
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レバナさんの診療所で働き始めて一週間がたった。
毎日、患者さんがやってきてみんな笑顔で帰っていった。
もちろん、病気や怪我が治ってって言うのもあったけど、レバナさんの心療を受けてって言うのもあると思う。
レバナさんはみんなのおばあちゃん的な人なんだろうな。
「なんだい? 変な視線を向けるんじゃないよ」
レバナさんに温かい視線を送っているとレバナさんが怪訝な表情になって言ってくる。
「で? どうなんだい?」
「え? 何がですか?」
「冒険者の方だよ。戻る気にはなったのかい?」
レバナさんには過去の話をして冒険者だったって言うのは言ってある。
もちろん、いつかは冒険者に戻ると思うけど今はまだ……。
「は~。まったく、好きでなった職業だろ? いつまでもこんな婆の仕事を手伝ってる場合じゃないだろ?」
「め、迷惑ですか?」
「ああ、迷惑だね~。あんたのせいで何でも治る診療所なんてなっちまって……。本当に迷惑だ」
キセルに火を入れて煙草を吸い始めるレバナさん。口ではそういっているものの治せなかった怪我や病気をしていた常連さんが治っていく姿を見て凄い喜んでた。
レバナさんの薬は治すには至らないものが多くて病気を遅らせたり、痛みが和らぐ程度のものだった。
それが全快していくんだから、患者さんも凄い喜んでた。レバナさんと一緒に喜ぶ姿はやりがいを与えてくれたっけ。正直、この診療所でずっと働いてもいいかなって思っちゃう。
「ふぅ~。居心地がいいと本当に好きなものが見えなくなっちまう……」
「え?」
「あんたは優しい子だ。快復する子達を見て喜ぶあんたを見て本当にそう思ったよ」
煙草の煙を天井に吐いて言葉を綴るレバナさん。
一度、目を強く瞑ると煙草の灰を捨て、僕を睨みつけてきた。
「あんたはこんな診療所の助手をするような玉じゃないよ。早く本来の仕事に戻りな」
「で、でも……」
「ふん。ステインにはもったいない子だけどね。奴は仲間を大切にするいいやつさ。ただ、自分の妻の異常に気づけない馬鹿だけどね」
「え? それって」
レバナさんが気になることを告げる。妻ってエラのことかな?
「エラは当分ダンジョンには潜れない」
「ぼ、僕がいるのに治らないんですか?」
「なんだい? あんたも気づかなかったのかい。鈍い男達に囲まれて難儀なこった」
た、確かにエラはみんなと一緒にダンジョンに行くことはなくなった。それは怪我をしたことでステインが行かせたがらなかっただけだと思ってた。
ミーシャとリーシャ、ワジソンも何も言ってなかったぞ。彼女に何が起こってるんだ!?
「は~、言っていいのか……まあ、いずれ分かることだね。エラは新しい命を授かってるんだよ」
「命を授かる……ええ!? それって」
「ああ、身ごもったってことさ」
な、なるほど、それじゃ冒険なんてしてられないね。
「だから、あんたがステインのお守りをするんだよ」
「で、でも……」
いやな記憶がよみがえる。『何もしないやつはいらないんだよ』スカイ達の言葉が脳裏に刻まれてる。
「まったく、常連だけでも大変だって言うのに。あんたは世話のかかる子だよ」
苦々しく顔を歪めているとレバナさんが立ち上がって僕の頭を撫でてくれた。さっきまでキセルを持っていた手は少し暖かく感じて自然と涙が頬を伝った。
「あんたなら大丈夫さ。大丈夫」
優しい言葉、これが彼女の医者としての力。僕のスキルなんて目じゃないな。
「こんにちは~! ヒューイはいますか~? ってあれ? 取り込み中でした?」
「ヒューイ!」
ミーシャとリーシャの二人が診療所にやってきて。泣いている姿を見られてしまった。心配して抱き着いてくるリーシャ、僕は誤魔化すように頬を掻く。
「まったく、この姉妹は空気を読まない子達だ」
「レバナさん?」
「はいはい。あんたらは外で待ってな。ヒューイにはまだ話があるんだ」
ミーシャとリーシャが外へと追い出される。
ため息を一つ吐くと僕へと振り返った。
「ステインやあの子達はいい子だよ。守ってやってほしいし、あの子達に守られてやってほしいのさ」
僕の肩に手を置いて微笑んでくれる。
「でも、レバナさん……」
「はいはい。可愛い姉妹が待ってるよ。ここはもういいから行ってやんな。冒険者業がつまらなくなったらいつでもおいで」
背中を押されて外へと出される。そこにはミーシャとリーシャが待っていてくれた。
「はいはい。可愛らしい姉妹さん。色男を連れて行きな」
「ちょっとレバナさん」
レバナさんの言葉にミーシャはニヤニヤと笑って、リーシャは顔を赤くさせてる。
「確かにヒューイはいただきました~。それとレバナさん。エラの薬を」
「はいはい。その時にはすぐに呼ぶんだよ」
「は~い」
ミーシャが抱き着いてきてレバナさんから薬を受け取った。
「やっぱり近いんですか?」
「ああ、そろそろのはずだよ。男どもは気づいてないからね。あんたらが頼りだよ」
「「はい!」」
……彼女達は僕を見てくる。今は僕しか男がいないから仕方ないけど、ステインとかワジソンにもいってほしいな。
レバナさんに別れの挨拶を交わして、僕らは帰路にたった。
なぜか荷物をいっぱい持っていた二人、二人の荷物に手をかける。
「荷物は僕が持つよ」
「「ありがとヒューイ」」
「ほんとに優しい子だね、ヒューイは」
荷物を両手に持つと二人がお礼を言ってくる。【インヴィンシブルランス】にいた時は言われたことがなかった言葉の数々。
今じゃ普通の事だって言うのが分かったこと、これ以外にも普通のこととみんなに言われたことが多くあった。
ステイン達には返しきれない程の恩ができちゃったよな。
『守ってやってほしいし、あの子達に守られてやってほしいのさ』レバナさんの言葉を思い出す。僕もこの子達を守ってあげたい。
ーーーー
ヒューイが診療所で働くようになった時、冒険者ギルドでは、
「ちきしょ~! ヒューイのやつ!」
苛立ちで机をたたき壊す。
俺はSランク冒険者のスカイ。
【インヴィンシブルランス】のリーダー。
一日ぶりに会ったやつは変わっていた。俺よりもはるかに強くなってた。
いや、元から強かったんだ。やつは強さを隠してほくそ笑んでたんだ。ぐっあの野郎。裏じゃ俺のことを笑っていやがったんだ!
ぜってえ許さねえ。
「これで怪我は回復しましたよ」
「あっ、ああ、助かったぜゼリスちゃん」
司祭の服を着たゼリスにお礼を言う。
ヒューイの代わりに入ってくれた回復魔法の使える司祭ゼリス。ヒューイよりも役に立つ女だ。そのうち、味見をしたいと思っているが司祭ということもあって硬い。
「ね~スカイ。ヒューイなんて放っておいてダンジョンに行こうよ」
「そうよ。インヴィンシブルランスはこれからなんだからさ」
「そ、そうだな……」
ルッコとルタエが言ってくる言葉に頷く。正直、奴に借りを返したいところだがそんなことに時間を費やすのはもったいない。
Sランクの俺達ならダンジョンをクリアすることも可能だろうからな。
俺達は明日のダンジョンへと気をはせる。
しかし、その期待は大きな間違いの始まりだった。
「この! なんで切れないのよ!」
「こいつこんなに硬かった?」
ダンジョンに入って10階まで下ってきた時、おかしなことが起こり始めた。
何度も倒してきたミスリルゴーレムが俺達の前に立ちふさがった。
短剣や素手で倒せていた魔物のミスリルゴーレム。
俺の剣も刃がたたない。確か、こいつはBランクの魔物だ。俺達が倒せないはずがない。
「あなた達何をしているんです! ゴーレムは物理攻撃が通りにくい魔物です。そんな魔物に物理なんてしちゃダメですよ」
ゼリスが叫んで注意してくる。『そんなことは知ってる』と仲間達が言う。
俺達だって馬鹿じゃない。ゴーレムに物理が効きにくいなんて知ってる。
「や、やっと倒せた……」
「……」
やっとのことでミスリルゴーレムを倒す。俺達は満身創痍。帰るのも難しいくらいだ。
「ゼリス回復を……」
「これで最後です」
「はっ? 最後って何よ」
「魔法には使用回数があります。知っているでしょ?」
回復を頼むとゼリスが使用回数について告げてきた。仲間達がゼリスを睨みつける。
「何よそれ! ヒューイはそんなことなかったわよ」
「入る前に言ったでしょ。私は30回の使用回数があるって」
胸ぐらを掴まれるゼリスが睨み返して言い返す。
「30回回復したってことか?」
「そうよ! それもあなた達が無駄に突っ込んで戦ってたから。折角、盾を持ってるのに無駄に突っ込んで! 毒を持ってる魔物にもつっこんで。何がSランク冒険者よ! あなた達なんてCランクでももったいないわ!」
俺の質問に答えて悪態をついてくるゼリス。そうか、俺達はこんなにも弱かったのか……。
通りでヒューイに倒されるわけだ。
「じゃあ、全員回復魔法を使ってくれないか?」
「は? そんな高位魔法使えるわけないじゃない!」
「そんなことも出来ないの? 役立たずね!」
俺の指示に信じられないといった様子のゼリスが言ってくる。ルッコがキレて彼女をつき飛ばした。
「こんなチーム入るんじゃなかったわ!」
「ふん。それはこっちのセリフよ。あんたは首よ!」
ルッコとゼリスが完全にキレてしまった。みんなため息をついてる。
「とにかく帰りましょ。話はそれからよ」
「ええ……」
俺達は初めてのダンジョンを終えた。
はっきり言って成功とは言いにくい結果だった。ミスリルゴーレムの素材が手に入ったから金銭的には成功と言ってもいいんだが……。
成功と言えないのもゼリスは俺達から離れて回復役を欠いたまま。今更ヒューイに戻ってこいと言っても来ないのは明白だしな。
さて、どうしたものか、そう思っていると。
「やあ、Sランクの【インヴィンシブルランス】って君たちのことだよね?」
冒険者ギルドでくつろいでいるとゼリスよりも豪華な服を着た司祭が声をかけてきた。
「見ての通り、私は司祭。回復役がいなくなったらしいじゃないか。私を入れてくれないか?」
狐目の司祭はそういってきた。俺達は素直に頷けなかった。ゼリスのように回復魔法が使えなくなったら司祭なんてお荷物でしかないってことが分かってしまったからな。
「ダメかい? こう見えても高位魔法の全体回復も覚えてるんだけど?」
男はそういって残念そうに踵を返して去ろうとしていた。全体魔法が使えるなら使用回数が少なくても大丈夫か? そう思った俺達はやつを迎えた。
「あ~よかった。私の名前はジューダス。よろしくね」
にっこりと微笑むジューダス。人懐っこい笑顔だったがなぜか俺は寒気を感じた。
毎日、患者さんがやってきてみんな笑顔で帰っていった。
もちろん、病気や怪我が治ってって言うのもあったけど、レバナさんの心療を受けてって言うのもあると思う。
レバナさんはみんなのおばあちゃん的な人なんだろうな。
「なんだい? 変な視線を向けるんじゃないよ」
レバナさんに温かい視線を送っているとレバナさんが怪訝な表情になって言ってくる。
「で? どうなんだい?」
「え? 何がですか?」
「冒険者の方だよ。戻る気にはなったのかい?」
レバナさんには過去の話をして冒険者だったって言うのは言ってある。
もちろん、いつかは冒険者に戻ると思うけど今はまだ……。
「は~。まったく、好きでなった職業だろ? いつまでもこんな婆の仕事を手伝ってる場合じゃないだろ?」
「め、迷惑ですか?」
「ああ、迷惑だね~。あんたのせいで何でも治る診療所なんてなっちまって……。本当に迷惑だ」
キセルに火を入れて煙草を吸い始めるレバナさん。口ではそういっているものの治せなかった怪我や病気をしていた常連さんが治っていく姿を見て凄い喜んでた。
レバナさんの薬は治すには至らないものが多くて病気を遅らせたり、痛みが和らぐ程度のものだった。
それが全快していくんだから、患者さんも凄い喜んでた。レバナさんと一緒に喜ぶ姿はやりがいを与えてくれたっけ。正直、この診療所でずっと働いてもいいかなって思っちゃう。
「ふぅ~。居心地がいいと本当に好きなものが見えなくなっちまう……」
「え?」
「あんたは優しい子だ。快復する子達を見て喜ぶあんたを見て本当にそう思ったよ」
煙草の煙を天井に吐いて言葉を綴るレバナさん。
一度、目を強く瞑ると煙草の灰を捨て、僕を睨みつけてきた。
「あんたはこんな診療所の助手をするような玉じゃないよ。早く本来の仕事に戻りな」
「で、でも……」
「ふん。ステインにはもったいない子だけどね。奴は仲間を大切にするいいやつさ。ただ、自分の妻の異常に気づけない馬鹿だけどね」
「え? それって」
レバナさんが気になることを告げる。妻ってエラのことかな?
「エラは当分ダンジョンには潜れない」
「ぼ、僕がいるのに治らないんですか?」
「なんだい? あんたも気づかなかったのかい。鈍い男達に囲まれて難儀なこった」
た、確かにエラはみんなと一緒にダンジョンに行くことはなくなった。それは怪我をしたことでステインが行かせたがらなかっただけだと思ってた。
ミーシャとリーシャ、ワジソンも何も言ってなかったぞ。彼女に何が起こってるんだ!?
「は~、言っていいのか……まあ、いずれ分かることだね。エラは新しい命を授かってるんだよ」
「命を授かる……ええ!? それって」
「ああ、身ごもったってことさ」
な、なるほど、それじゃ冒険なんてしてられないね。
「だから、あんたがステインのお守りをするんだよ」
「で、でも……」
いやな記憶がよみがえる。『何もしないやつはいらないんだよ』スカイ達の言葉が脳裏に刻まれてる。
「まったく、常連だけでも大変だって言うのに。あんたは世話のかかる子だよ」
苦々しく顔を歪めているとレバナさんが立ち上がって僕の頭を撫でてくれた。さっきまでキセルを持っていた手は少し暖かく感じて自然と涙が頬を伝った。
「あんたなら大丈夫さ。大丈夫」
優しい言葉、これが彼女の医者としての力。僕のスキルなんて目じゃないな。
「こんにちは~! ヒューイはいますか~? ってあれ? 取り込み中でした?」
「ヒューイ!」
ミーシャとリーシャの二人が診療所にやってきて。泣いている姿を見られてしまった。心配して抱き着いてくるリーシャ、僕は誤魔化すように頬を掻く。
「まったく、この姉妹は空気を読まない子達だ」
「レバナさん?」
「はいはい。あんたらは外で待ってな。ヒューイにはまだ話があるんだ」
ミーシャとリーシャが外へと追い出される。
ため息を一つ吐くと僕へと振り返った。
「ステインやあの子達はいい子だよ。守ってやってほしいし、あの子達に守られてやってほしいのさ」
僕の肩に手を置いて微笑んでくれる。
「でも、レバナさん……」
「はいはい。可愛い姉妹が待ってるよ。ここはもういいから行ってやんな。冒険者業がつまらなくなったらいつでもおいで」
背中を押されて外へと出される。そこにはミーシャとリーシャが待っていてくれた。
「はいはい。可愛らしい姉妹さん。色男を連れて行きな」
「ちょっとレバナさん」
レバナさんの言葉にミーシャはニヤニヤと笑って、リーシャは顔を赤くさせてる。
「確かにヒューイはいただきました~。それとレバナさん。エラの薬を」
「はいはい。その時にはすぐに呼ぶんだよ」
「は~い」
ミーシャが抱き着いてきてレバナさんから薬を受け取った。
「やっぱり近いんですか?」
「ああ、そろそろのはずだよ。男どもは気づいてないからね。あんたらが頼りだよ」
「「はい!」」
……彼女達は僕を見てくる。今は僕しか男がいないから仕方ないけど、ステインとかワジソンにもいってほしいな。
レバナさんに別れの挨拶を交わして、僕らは帰路にたった。
なぜか荷物をいっぱい持っていた二人、二人の荷物に手をかける。
「荷物は僕が持つよ」
「「ありがとヒューイ」」
「ほんとに優しい子だね、ヒューイは」
荷物を両手に持つと二人がお礼を言ってくる。【インヴィンシブルランス】にいた時は言われたことがなかった言葉の数々。
今じゃ普通の事だって言うのが分かったこと、これ以外にも普通のこととみんなに言われたことが多くあった。
ステイン達には返しきれない程の恩ができちゃったよな。
『守ってやってほしいし、あの子達に守られてやってほしいのさ』レバナさんの言葉を思い出す。僕もこの子達を守ってあげたい。
ーーーー
ヒューイが診療所で働くようになった時、冒険者ギルドでは、
「ちきしょ~! ヒューイのやつ!」
苛立ちで机をたたき壊す。
俺はSランク冒険者のスカイ。
【インヴィンシブルランス】のリーダー。
一日ぶりに会ったやつは変わっていた。俺よりもはるかに強くなってた。
いや、元から強かったんだ。やつは強さを隠してほくそ笑んでたんだ。ぐっあの野郎。裏じゃ俺のことを笑っていやがったんだ!
ぜってえ許さねえ。
「これで怪我は回復しましたよ」
「あっ、ああ、助かったぜゼリスちゃん」
司祭の服を着たゼリスにお礼を言う。
ヒューイの代わりに入ってくれた回復魔法の使える司祭ゼリス。ヒューイよりも役に立つ女だ。そのうち、味見をしたいと思っているが司祭ということもあって硬い。
「ね~スカイ。ヒューイなんて放っておいてダンジョンに行こうよ」
「そうよ。インヴィンシブルランスはこれからなんだからさ」
「そ、そうだな……」
ルッコとルタエが言ってくる言葉に頷く。正直、奴に借りを返したいところだがそんなことに時間を費やすのはもったいない。
Sランクの俺達ならダンジョンをクリアすることも可能だろうからな。
俺達は明日のダンジョンへと気をはせる。
しかし、その期待は大きな間違いの始まりだった。
「この! なんで切れないのよ!」
「こいつこんなに硬かった?」
ダンジョンに入って10階まで下ってきた時、おかしなことが起こり始めた。
何度も倒してきたミスリルゴーレムが俺達の前に立ちふさがった。
短剣や素手で倒せていた魔物のミスリルゴーレム。
俺の剣も刃がたたない。確か、こいつはBランクの魔物だ。俺達が倒せないはずがない。
「あなた達何をしているんです! ゴーレムは物理攻撃が通りにくい魔物です。そんな魔物に物理なんてしちゃダメですよ」
ゼリスが叫んで注意してくる。『そんなことは知ってる』と仲間達が言う。
俺達だって馬鹿じゃない。ゴーレムに物理が効きにくいなんて知ってる。
「や、やっと倒せた……」
「……」
やっとのことでミスリルゴーレムを倒す。俺達は満身創痍。帰るのも難しいくらいだ。
「ゼリス回復を……」
「これで最後です」
「はっ? 最後って何よ」
「魔法には使用回数があります。知っているでしょ?」
回復を頼むとゼリスが使用回数について告げてきた。仲間達がゼリスを睨みつける。
「何よそれ! ヒューイはそんなことなかったわよ」
「入る前に言ったでしょ。私は30回の使用回数があるって」
胸ぐらを掴まれるゼリスが睨み返して言い返す。
「30回回復したってことか?」
「そうよ! それもあなた達が無駄に突っ込んで戦ってたから。折角、盾を持ってるのに無駄に突っ込んで! 毒を持ってる魔物にもつっこんで。何がSランク冒険者よ! あなた達なんてCランクでももったいないわ!」
俺の質問に答えて悪態をついてくるゼリス。そうか、俺達はこんなにも弱かったのか……。
通りでヒューイに倒されるわけだ。
「じゃあ、全員回復魔法を使ってくれないか?」
「は? そんな高位魔法使えるわけないじゃない!」
「そんなことも出来ないの? 役立たずね!」
俺の指示に信じられないといった様子のゼリスが言ってくる。ルッコがキレて彼女をつき飛ばした。
「こんなチーム入るんじゃなかったわ!」
「ふん。それはこっちのセリフよ。あんたは首よ!」
ルッコとゼリスが完全にキレてしまった。みんなため息をついてる。
「とにかく帰りましょ。話はそれからよ」
「ええ……」
俺達は初めてのダンジョンを終えた。
はっきり言って成功とは言いにくい結果だった。ミスリルゴーレムの素材が手に入ったから金銭的には成功と言ってもいいんだが……。
成功と言えないのもゼリスは俺達から離れて回復役を欠いたまま。今更ヒューイに戻ってこいと言っても来ないのは明白だしな。
さて、どうしたものか、そう思っていると。
「やあ、Sランクの【インヴィンシブルランス】って君たちのことだよね?」
冒険者ギルドでくつろいでいるとゼリスよりも豪華な服を着た司祭が声をかけてきた。
「見ての通り、私は司祭。回復役がいなくなったらしいじゃないか。私を入れてくれないか?」
狐目の司祭はそういってきた。俺達は素直に頷けなかった。ゼリスのように回復魔法が使えなくなったら司祭なんてお荷物でしかないってことが分かってしまったからな。
「ダメかい? こう見えても高位魔法の全体回復も覚えてるんだけど?」
男はそういって残念そうに踵を返して去ろうとしていた。全体魔法が使えるなら使用回数が少なくても大丈夫か? そう思った俺達はやつを迎えた。
「あ~よかった。私の名前はジューダス。よろしくね」
にっこりと微笑むジューダス。人懐っこい笑顔だったがなぜか俺は寒気を感じた。
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