社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 新しき世界

第21話 見えない壁

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「大海原……。私は異世界の王になる!」

「……マモルさんがおかしくなった」

 海へとシーサーペントの背に乗って二日。全面水平線が広がる大海原。ついついほざいてしまうとヴィスさんに引かれてしまいました。
 二日程シーサーペントに頑張ってもらいましたが壁が見えてくる気配がありません。かなり高い壁のはずなのですがおかしいですね。

「壁とはどういったものなのでしょうか」

「ソマツおじいちゃんが言うには天に届くほど高い壁って言ってましたよ」

「そうですよね……」

 それだけ高い壁ならかなりの距離で見えてくるはず、東京から富士山が見えるようなもので、中央大陸を囲っているのですからハッキリと見えるはずなのですが。

「キャン!」

「どうしましたベヘモス?」

 尻尾を元気に振りながら声をあげるベヘモス。お肉かと思ったら前方を見据えています。何か見えるのでしょうか?

「ん? 島でしょうか?」

 水平線に黒い点が見えます。小さな陸地でしょうか。それなら久しぶりの焚火が出来ますね。焼いたお肉をマジックバッグにしまって食していましたが焼き立てを食べることができるかも。まあ、マジックバッグは時間も止まっているので焼きたてなんですが。

「な!?」

「す、すごい匂い……」

 陸地だと思ったら魔物の死骸だったようです。ヴィスさんと一緒に鼻を抑える。ベヘモスは感じないようでシーサーペントから降りて死骸の上へ乗っています。

「キャンキャン!」

「ど、どうしましたベヘモス! 何かありましたか?」

 ベヘモスが尻尾を振って声をあげます。仕方なく私も死骸の上に飛び乗る。すると驚きの光景が。

「……壁?」

 死骸が重ねられているというのに、ある境界線から綺麗に整列されている。その位置から海へと落ちていないのがわかる。私は呟いてその境界線を触る。

「見えない壁……どおりで」

 ペタっと手のひらが空中で止まる。しっかりとした見えない壁が確かに存在しています。パントマイムではありません。

「どれだけ高い壁なんでしょう?」

「ま、マモルさん! そ、空!」

「魔物!?」

 ヴィスさんの声で空を見上げる。私達がやってきた方角から沢山の空飛ぶ魔物達がやってきているのがみえる。次々と見えない壁にぶつかっていき、周りの海へと落ちて行く。

「そういえば、この二日間の海の旅でも何回か見ましたね」

 空を飛んでいく魔物は何度か見ました。そのすべてがこうして命を散らしていた。何年もそれを繰り返してこの腐肉の陸地が出来上がったのですね。

「生命は必ず不可能を可能にする。抗っているのですね」

 中央大陸へ行けないように制限されていてもいつしか生命はそれを越えようとする。

「空を飛ぶ魔物は特にその制限を破ろうとあがいているということでしょうか。視野が広い分、縛られているのが気に食わないのでしょうね」

 ベヘモスやシーサーペントのような陸海の魔物はこの見えない壁に挑まずに暮らしていた。ですが空の魔物達は壁へと戦いを挑んでいる。
 落ちてくる魔物はすべて違う魔物に見えます。ドラゴンも虫のような魔物も突撃しては傷つき落ちる。なぜか涙が溢れる光景です。

「キャン!」

「ん? ベヘモス? どうしました?」

「キュンキュ~ン!」

 目頭を押さえているとベヘモスが声をあげました。続いてシーサーペントも声をあげると腐肉の陸地に地震が起きる。

「早くシーサーペントに戻ろ!」

「はい! 行きましょう」

 ヴィスさんの声でシーサーペントの背に乗り込む。地震など起こるはずもない、怖いので離れてもらうと腐肉の陸地が大きく盛り上がってくる。

「ま、まさか……」

「ドラゴンゾンビ?」

 大きなドラゴンの形に代わる腐肉の陸地。今までの怨念が魔物へと昇華したというのでしょうか?
 ドラゴンゾンビは大きく息を吸うと紫色のブレスを見えない壁へと吹きかける。余波が私達へと迫ってきます。こ、これはたまりません。

「シーサーペント! もぐってください。二人共しっかりと捕まって」

「は、はい!」

 指示を飛ばし海へと潜る。少し暖かめの水温を感じて目を開く。ドラゴンゾンビの太い腿が海底の壁に突き刺さっているのが見える。海の下にもしっかりと見えない壁があるようですね。

「けほけほ……。皆さん大丈夫ですか?」

「キャン」

「ヴィスさんは!? シーサーペント!」

 海上へ戻るシーサーペント。皆さんの無事を確認するとヴィスさんの姿がない。再度海の中へと戻ると彼が沈んでいくのが見えた、急いで回収します。

「こ、これはまずいですよ。カナヅチだったんですか! なんで黙って!」

 横に寝かせて顎をあげる。胸を圧迫して心臓へと刺激をつたえますが意識は戻ってきません。

「失礼しますよヴィスさん」

 人工呼吸を開始します。ステータスが強くなりすぎて加減が難しいです。力加減を間違えると大変なことに。

「ごほっ。けほっ……」

「よ、よかった……」

 海水を吐き出すヴィスさん。ホッと胸を撫でおろし座り込むと彼が意識を取り戻して体を起こそうとしていますが痛いようで戻っています。胸を圧迫したから折れてしまったのかもしれませんね。どうしようと思ったら魔法が使えることを思い出しました。

「【治れ】これでどうですか?」

「あ、ありがとうございます。マモルさん……はっ!? み、見ました?」

「ん? 何をですか?」

 回復魔法の言葉をかけると治ったようで体を起こすヴィスさん。はだける衣服を抑えて聞いてくるのですが顔が真っ赤です。

「わ、分からないならいいんです。……凄い光景ですね」

 顔が真っ赤なヴィスさんは話題を変えるようにドラゴンゾンビを見上げる。ブレスが効かないとわかったらすぐに大質量の攻撃へと切り替えています。見えない壁へと体を叩きつけて自身の体を削っていく。あれだけの攻撃を受けても傷ついた様子のない壁。私はあれを越えることが出来るのでしょうか?
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