上 下
20 / 35
第一章 新しき世界

第20話 海へ

しおりを挟む
「レッドドラゴンをこれだけ簡単に倒せるとおかしな感じですね」

 皆さんのレベル上げをして三日程が経った。最初は魔物の名前を知らなかった私。マジックバッグに入れて驚きましたよ。

「ドラゴンのお肉も沢山入りましたね~」

「もう、ソマツさんだけでも狩れるくらいになりました。これで心配しなくてすみます」

 ダンジョンで休憩をしながらヴィスさんとお肉をつつく。彼も80レベルまでレベルが上がってもう立派な戦士です。教会に行って職業をもらえばさらに強くなるでしょうね。

「マモルさん。ありがとうございます」

「どうしたんですか急に?」

 深くお辞儀をしてくるヴィスさん。

「シーサーペントを手懐けてすぐにでも行ってしまうと思っていたんです。皆のことが心配で僕は迷ってしまって」

「あ~、寂しそうな表情をしていたのはそう言うことだったんですね」

「そ、そんな顔してました?」

「はい」

 私の指摘に顔を赤くさせるヴィスさん。仲間のことを思って悩むなんて本当に優しい子ですね。

「しかし、本当に私と一緒に来るんですか?」

「はい! 一族を代表して僕はマモルさんに恩を返すって決めたんです」

「そうですか」

 そう言う目的もあったんですね。気にしなくていいのですが。

「ソマツさん達を守るという仕事も一族として大事ではないんですか?」

「もうかなり強くなっていますから守らなくても大丈夫です。それよりもマモルさんと一緒に……じゃなかった。マモルさんに恩を返したいんです」

 なぜか口ごもる場面もありましたがヴィスさんの決意は固いようですね。

「キャン!」

「ベヘモス? どうしたんですか?」

 ヴィスさんと話しているとベヘモスが声をあげた。ベヘモスは私の前に座るとうずくまる。

「お腹が痛いんですか? お肉のおかわりとか?」

 心配になって声をあげる。ベヘモスはそれでもうずくまったまま。

「キャン」

 少しすると声をあげるベヘモス。それと同時に体が小さくなっていくベヘモス。

「キャンキャン!」

「ち、小さくなれるんですか!?」

 黒いコリー犬のような体になったベヘモス。やはり犬だったんですね。ベロベロベロベロと私の顔を舐めてくる。小さくなったと言ってもコリー犬は大きいですね。

「まさか、僕らの話を聞いていて小さくなった?」

「キャン!」

「どうやら、そのようですね」

 ヴィスさんの指摘を聞いて声をあげるベヘモス。ある程度言葉を理解しているようですね。伊達にSランクの魔物ではないということでしょうか。

「では一緒に海を渡りたいということでいいんですか?」

「キャンキャン!」

 私の言葉を肯定するように声をあげるベヘモス。彼も私と会ってからかなり成長していますね。

「では出立の準備を致しましょうか」

「はい!」

「キャン!」

 ソマツさん達のレベルもある程度上がった。ソマツさんが一番高いレベルになっているので彼が私の代わりをすればこれから先も平和に過ごすことが出来るでしょう。

「海水を熱して塩を作ります。それを肉や魚に塗って干す。それだけでだいぶ日持ちするようになります。あとは火であぶる方法がありますが、これだけ気温の高い土地では日持ちしにくいですから気をつけてください」

 ソマツさん達にお肉を手渡して話す。泣きそうになっている皆さん。私も涙が、

「マモル様。ありがとうございました。また死の大陸に来ることがありましたら寄ってくださいね」

「はい。その時はぜひ。まあ、まずは帰れるかどうかですが」

 ソマツさんが握手を求めてくる。答えながら話すと彼の涙が限界を超えて零れ落ちる。

「ふぐっ。ふぐうっ」

「ソマツさん」

 彼の涙で私も涙がこぼれてくる。偶然の出会いからの別れ。とても悲しい。

「ご武運を!」

『マモルおじちゃんいってらっしゃい!』

 シーサーペントの背に乗って海へと旅立つ。ソマツさんと子供達の声を背中に浮けて、振り返って手を振りかえす。ヴィスさんは泣かないようにしていたようですが、小さくなっていく皆さんを見ていると顔を隠してしまいました。

「ヴィスさん。泣いてもいいんですよ」

「いえ、僕は泣きません」

 顔を隠したままの彼は揺れる瞳を海の先へと向ける。

「僕は泣けません。まだまだ弱い僕が泣いてしまったら強いあなたに甘えてしまう。マモルさんに甘えていいのは隣にいられる人だけだと思うんです。だから泣けません」

 ヴィスさんは輝き揺れる瞳を私に向けてくる。高揚する頬はまだまだ若さを示しているように感じた。

「涙はいいですよ。真っすぐで自分の弱さを見せてくれる。まだまだ自分が弱いって示してくれる」

「マモルさんは強いです」

「はは、それはステータスだけですよ。冷静でいなくちゃいけない。そんな強がりを必死に身に着けているだけです」

 これも社畜の特殊能力。上司に叱られても冷静に、お客様に叱られても冷淡に。そうやってどんどん弱くなっていくものです。

「ヴィスさんもいつか分かりますよ。弱いということが本当に弱いということなのか? ということをね」

 私の呟きを聞くとヴィスさんは分からずに首を傾げるばかり。弱さこそ強さであり、弱さでもある。弱さと強さをバランスよく持つことが大事だということを彼は学ぶことが出来るでしょうかね。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...